特許法・実用新案法の最近の最高裁判例、平成15年以降
事件番号平成16(受)997 特許権侵害差止請求事件
平成17年6月17日 最高裁判所第二小法廷 判決 棄却
民集第59巻5号1074頁
判示事項
専用実施権を設定した特許権者がその特許権に基づく差止請求をすることの可否
裁判要旨
特許権者は,その特許権について専用実施権を設定したときであっても,当該特許権に基づく差止請求権を行使することができる 参照法条特許法68条、特許法77条1項、2項、特許法100条1項
事件番号平成13(受)1256 補償金請求事件
平成15年4月22日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却
民集第57巻4号477頁
判示事項
1 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等が勤務規則その他の定めによる対価の額が特許法35条3項及び4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないときに不足額を請求することの可否
2 勤務規則その他の定めに対価の支払時期に関する条項がある場合における特許法35条3項の規定による相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点
裁判要旨
1 使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定めにより職務発明について特許を受ける権利又は特許権を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則その他の定めに使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が特許法35条3項及び4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。
2 特許法35条3項の規定による相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効は,使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定めに対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期から進行する。
参照法条特許法35条,民法166条1項
事件番号平成21(行ヒ)326 審決取消請求事件
平成23年4月28日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却
民集第65巻3号1654頁
判示事項
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認に先行して当該承認の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされていることを延長登録出願の拒絶の理由とすることが許されない場合
裁判要旨
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった薬事法14条1項による製造販売の承認に先行して,当該承認の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされている場合であっても,その医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは,当該先行する承認がされていることを根拠として,当該特許権の特許発明の実施に延長登録出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められないということはできない。
参照法条特許法67条2項,特許法67条の3第1項1号,特許法68条の2,薬事法14条1項
事件番号平成20(許)36 秘密保持命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成21年1月27日 最高裁判所第三小法廷 決定
破棄自判
民集第63巻1号271頁
判示事項
特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件において特許法105条の4第1項に基づく秘密保持命令の申立てをすることの許否
裁判要旨
特許権又は専用実施権の侵害差止めを求める仮処分事件は,特許法105条の4第1項柱書き本文に規定する「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟」に該当し,上記仮処分事件においても,同項に基づく秘密保持命令の申立てをすることが許される。
参照法条特許法100条1項,特許法105条の4第1項,民事保全法23条2項
事件番号平成20(行フ)5 検証物提示命令申立て一部提示決定に対する許可抗告事件
平成21年1月15日 最高裁判所第一小法廷 決定
破棄自判
民集第63巻1号46頁
原審裁判所名福岡高等裁判所
判示事項
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることの許否
裁判要旨
情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において,不開示とされた文書を目的とする検証を被告に受忍義務を負わせて行うことは,原告が検証への立会権を放棄するなどしたとしても許されず,上記文書を検証の目的として被告にその提示を命ずることも許されない。
(補足意見がある。)
参照法条民訴法223条1項,民訴法232条1項,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)5条,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)9条2項
事件番号平成19(行ヒ)318 特許取消決定取消請求事件
平成20年7月10日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他
民集第62巻7号1905頁
判示事項
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきか
裁判要旨
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。
参照法条特許法(平成15年法律第47号による改正前のもの)113条,特許法(平成15年法律第47号による改正前のもの)120条の4第2項,特許法134条の2第1項
事件番号平成18(受)1772 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
平成20年4月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却
民集第62巻5号1262頁
原審裁判所名大阪高等裁判所
判示事項
特許法104条の3第1項に基づく無効主張を採用して特許権の侵害を理由とする損害賠償等の請求を棄却すべきものとする控訴審判決がされた後に特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合において,同審決が確定したため民訴法338条1項8号の再審事由が存するとして控訴審の判断を争うことが特許法104条の3の規定の趣旨に照らし許されないとされた事例
裁判要旨
XのYに対する特許権の侵害を理由とする損害賠償等の請求につき,Yの特許法104条の3第1項に基づく無効主張を採用して請求を棄却すべきものとする控訴審判決がされた後に,上記特許権に係る特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を認める審決が確定した場合において,Xが同審決が確定したため民訴法338条1項8号の再審事由が存するとして控訴審の判断を争うことは,次の(1),(2)などの判示の事情の下では,紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3の規定の趣旨に照らし許されない。
(1) 第1審判決もYの無効主張を採用してXの請求を棄却していたものであり,Xは,少なくとも控訴審の審理において,早期にYの無効主張を否定し又は覆す主張を提出すべきであった。
(2) 上記審決はXが控訴審の口頭弁論終結後にした訂正審判請求によるものであるところ,同審決の内容やXが1年以上に及ぶ控訴審の審理期間中に2度にわたって訂正審判請求とその取下げを繰り返したことにかんがみると,XがYの無効主張を否定し又は覆すものとして上記口頭弁論終結後の訂正審判請求に係る主張を口頭弁論終結前に提出しなかったことを正当化する理由を見いだせない。
(意見がある。)
参照法条特許法104条の3,特許法126条,民訴法338条1項8号
事件番号平成18(受)826 特許権侵害差止請求事件
平成19年11月8日 最高裁判所第一小法廷 判決 棄却
民集第61巻8号2989頁
判示事項
1 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において特許製品を譲渡した場合に,特許権者が当該特許製品につき特許権を行使することの可否
2 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合に,特許権者が当該加工等がされた製品につき特許権を行使することの可否
3 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合に,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとしてその特許製品につき特許権の行使が許されるといえるかどうかの判断基準
4 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合に,特許権者が当該加工等がされた製品につき我が国において特許権を行使することの可否
5 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合に,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとしてその特許製品につき我が国において特許権の行使が許されるといえるかどうかの判断基準
6 インクジェットプリンタ用インクタンクに関する特許の特許権者により我が国及び国外で譲渡された特許製品の使用済みインクタンク本体を,第三者が利用しこれに加工するなどして製品化したインクタンクについて,特許権者による権利行使が認められた事例
裁判要旨
1 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,特許権の効力は,当該特許製品の使用,譲渡等には及ばず,特許権者は,当該特許製品について特許権を行使することは許されない。
2 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,特許権を行使することが許される。
3 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合において,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとして特許権者がその特許製品につき特許権を行使することが許されるといえるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断すべきである。
4 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされ,それにより当該特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものと認められるときは,特許権者は,その特許製品について,我が国において特許権を行使することが許される。
5 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において譲渡した特許製品につき加工や部材の交換がされた場合において,当該加工等が特許製品の新たな製造に当たるとして特許権者がその特許製品につき我が国において特許権を行使することが許されるといえるかどうかについては,当該特許製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して判断すべきである。
6 インクジェットプリンタ用インクタンクに関する特許の特許権者Xが我が国及び国外において特許製品であるインクタンク(X製品)を販売したところ,Yが,X製品の使用済みインクタンク本体を利用してその内部を洗浄しこれに新たにインクを注入するなどの工程を経て製品化されたインクタンク(Y製品)を輸入し,我が国において販売している場合において,Y製品の製品化の工程における加工等の態様が,単にインクを補充しているというにとどまらず,印刷品位の低下やプリンタ本体の故障等の防止のために構造上再充てんが予定されていないインクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させるものであるとともに,上記特許に係る特許発明の本質的部分に係る構成を欠くに至ったものにつきこれを再び充足させて当該特許発明の作用効果を新たに発揮させるものであることのほか,インクタンクの取引の実情など判示の事情の下では,Y製品は,加工前のX製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたものであって,特許権の行使が制限される対象となるものではなく,Xは,その特許権に基づいて,Y製品の輸入,販売等の差止め及び廃棄を求めることができる。
参照法条(16につき)特許法68条 (6につき)特許法100条
事件番号平成16(受)781 補償金請求事件
平成18年10月17日 最高裁判所第三小法廷 判決 棄却
民集第60巻8号2853頁
判示事項
1 外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題の準拠法
2 従業者等が特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの)35条にいう職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合における対価請求と同条3項及び4項の類推適用
裁判要旨
1 外国の特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題の準拠法は,法例7条1項の規定により,第1次的には当事者の意思に従って定められる。
2 従業者等が特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの)35条にいう職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,同条3項及び4項の規定が類推適用される。
参照法条(1,2につき)特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの)35条,(1につき)法例7条1項
事件番号平成17(受)541 損害賠償請求事件
平成18年1月24日 最高裁判所第三小法廷 判決
破棄差戻
集民 第219号329頁
判示事項
1 特許庁の担当職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかったことによる損害の額
2 特許庁の担当職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかったことを理由とする国家賠償請求事件において損害の発生を認めるべきであって損害額の立証が困難であったとしても民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとされた事例
裁判要旨
1 特許庁の担当職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかった場合,これによる損害の額は,特段の事情のない限り,その被担保債権が履行遅滞に陥ったころ,当該質権を実行することによって回収することができたはずの債権額である。
2 特許権者戊に対して融資をしたXが,戊から特許権を目的とする質権の設定を受け,特許庁長官にその設定登録を申請し,これが受け付けられたにもかかわらず,この受付に後れて申請及び受付がされた己に対する特許権移転登録が先にされたため,上記質権を取得することができなかった場合において,上記特許権が最終的にはその事業化に成功せず消滅するに至ったとしても,(1)戊が,特許出願中の上記特許権を構成する技術の一部を用いた工法を発表したところ,多数の新聞に取り上げられ,多数の企業等から同工法についての照会や資料請求があったこと,(2)戊から上記特許権の譲渡を受けた己が,庚に対し,上記特許権等を代金4億円で譲渡したこと,(3)庚は,戊らと共に上記特許権の事業化に取り組み,その商品の販売営業に努力したこと,(4)戊は,銀行取引停止処分を受け,上記質権の被担保債務についての期限の利益を喪失したが,それは上記販売営業中のことであったこと,(5)庚は,最終的に,上記特許権の事業化は採算が合わないものと判断してこれを断念し,上記特許権の第5年分の特許料の支払をしなかったため,上記特許権が消滅したが,それは戊が銀行取引停止処分を受けてから約2年半後のことであったことなど判示の事実関係の下では,Xには上記質権を取得することができなかったことにより損害が発生したというべきであり,これを理由とする国家賠償請求事件につき,損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べのに基づいて,相当な損害額が認定されなければならない。
参照法条(1,2につき)国家賠償法1条1項,民法362条,民法369条,特許法27条1項3号,特許法95条,特許法98条1項3号 (2につき)民訴法248条
事件番号平成16(行ヒ)4 審決取消請求事件
平成17年7月14日 最高裁判所第一小法廷 判決
破棄自判
民集第59巻6号1617頁
判示事項
商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に分割出願がされもとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときにおける補正の効果が生ずる時期
裁判要旨商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に,分割出願がされ,もとの商標登録出願について指定商品等を削除する補正がされたときには,その補正の効果が商標登録出願の時にさかのぼって生ずることはない。
参照法条商標法10条1項,商標法10条2項,商標法68条の40第1項,商標法施行規則22条4項,特許法施行規則30条