第7 代表者個人の債務 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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7 代表者個人の債務

1 分割債務

 相続財産には、被相続人の消極財産(債務)も含まれるところ、単純な金銭債務その他可分債務は、その相続分にしたがい分割され、相続人に承継されます(大決昭和5124民集91118頁)。

連帯債務であっても、単純な金銭債務のような可分債務は、分割承継され、各自その承継した範囲において、本来の債務者と連帯債務者となるとするのが判例です(最判昭和34619民集136757頁)。

 ここで、被相続人が相続分の指定を行ったとしても、これを債権者に対抗することはできず、債務の承継割合は法定相続分にしたがうものと解されます。

 なぜなら、指定相続分にしたがって債務が分割されると、例えば、資産を有していない相続人に大きな割合の相続分の指定がなされると、債権者の利益が害されることになるからです。

 また、指定相続分にしたがって債務が分割されることは、債権者にとって一部、免責的債務引受がなされたと同じことになりますから、債権者の同意が必要と考えるべきであるからです。

 なお、前述した通り、遺産分割協議で、相続人の一人に債務を集中させたとしても、相続人間の内部負担の取り決めにすぎず、債権者には対抗することはできません。一人に債務を集中させるためには、債権者の承認が必要となります。

2 保証債務

 主債務が金銭消費貸借上の債務等であって具体的な債務額が確定している場合、代表者個人の保証債務も一般に相続性が肯定されますから、後継者以外の相続人にも保証債務が相続されることになります。そこで、事業承継に伴い、後継者を単独で個人保証人にする必要があります。

 しかし、たとえ会社代表者が会社の保証人となることがこれまでの慣例となっていたとしても債権者との保証契約の関係では影響はありません。そのため、後継者以外の相続人を連帯保証人から解除し、後継者を保証人に交替してもらうよう債権者である金融機関(以下、銀行を例にとって述べます。)にお願いする形になります。

 また、会社の財務内容がよく、業績も好調である場合には、個人保証を解除してもらうよう銀行に交渉することも検討すべきでしょう。純資産額や利益水準等、どのような条件で個人保証を解除してもらえるかは銀行により異なります。

3 根保証

 根保証とは、一定の期間の間に継続的に生ずる不特定の債務を担保する保証のことをいいます。

 事業承継との関連で問題となるのは、継続的な売買取引・銀行取引等から生ずる不特定の債務の保証についてです。

 このうち、融資による債務を保証する根保証については、平成16年の民法改正により、保証人の保護が図られています。

 根保証には、保証される債務の金額(極度額)、保証期間の制限がない包括根保証と保証される金額(極度額)や保証期間につき制限がある限定根保証があります。

 根保証人が死亡した場合に相続人の責任はどうなるでしょうか。

1)限定根保証

限定根保証については、通常の保証と同じように、責任の範囲が限定されていますから、限定根保証人の地位は相続人に相続されます。

 ただし、後述するように、貸金等根保証契約では、根保証人が死亡した場合には、保証人の死亡は元本の確定事由とされます(民法465条の43号)から、保証人死亡時に既に存在している具体的な債務について、相続人が極度額の限度で責任を負うことになります。

2)包括根保証

包括根保証については、その責任の範囲が極めて広くなりますから、主たる債務者との人的信頼関係から包括根保証契約を締結した被相続人のみが一身専属的に負担したものと考えられ、包括根保証人としての地位は相続されません(最判昭和37119民集16112270頁)。

 ただし、包括根保証人としての地位が相続されないとしても、保証人死亡時に既に存在している具体的な債務については、個別の保証債務として相続の対象になります。

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1)対象範囲

 会社が融資を受ける際には、会社の代表者が保証人となることがほとんどであり、そのうちの多くが根保証と思われます。

 平成16年の民法改正により、主として銀行取引等による債務の個人保証を想定しつつ、保証人を経済的破綻から保護することを目的として、貸金等根保証契約に関する規定が置かれました(民法465条の2465条)。

 貸金等根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(「根保証契約」)であってその債務の範囲に金銭の貸またはまたは手形の割引を受けることによって負担する債務(「貸金等債務」)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。)をいいます(民法465条の21項)。

つまり、その対象は、根保証のうち、主たる債務に融資による債務が含まれているおり、保証人が自然人である場合のものです。

2)極度額の定め

 貸金等根保証契約においては、極度額の約定を根保証契約の有効要件としています(民法465条の22項)。この約定は書面で定めなければなりません(民法465条の23項)。

 平成16年改正民法は、平成1741日から施行されていますが、この施行日以降に締結された貸金等根保証契約のうち、極度額の約定がないものについては無効になります。

 平成1741日より前に締結された貸金等根保証契約については、極度額の定めがなくても無効にはなりません(平成16年民法附則41項)。

3)元本確定期日

 貸金等根保証契約においては、存続期間も法定されており、元本の確定期日の定めがなければ契約締結時から3年で元本が確定し、定めをする場合も5年を超えることができません(民法465条の31項第2項)。なお、この定めも、契約締結時から3年以内の日を元本確定期日とする場合を除き、書面で行う必要があります(民法465条の34項)。

 平成1741日より前に締結された貸金等根保証契約のうち、元本確定期日の定めがないものについては、平成1741日から起算して3年を経過した日が元本確定期日となります(平成16年民法附則43項)。平成1741日より前に締結された貸金等根保証契約のうち、極度額の定めがなく、元本確定期日が平成1741日から起算して3年を経過する日より後の日である場合には、その3年を経過する日が元本確定期日になります(附則421号)。

 平成1741日より前に締結された貸金等根保証契約のうち、極度額の定めがあり、元本確定期日が平成1741日から起算して5年を経過する日より後の日である場合には、その5年を経過する日が元本確定期日になります(附則422号)。

4)事業承継と元本確定

 貸金等根保証契約においては、保証人の死亡は元本の確定事由とされます(民法465条の43号)。

 したがって、会社の代表者が貸金等根保証契約を締結していた場合に、会社の代表者が死亡した場合、相続人は保証人死亡時に既に存在している具体的な債務については、その相続分にしたがい、債務を負担することになりますが、保証人死亡後に発生する債務については、保証債務を負うことはありません。



 貸金等根保証契約