固定合意時の自社株評価をめぐる問題
固定合意における価額は、当該合意の時における価額について、弁護士、弁護士法人、公認会計士(公認会計士法16条の2第5項に規定する外国公認会計士を含む。)、監査法人、税理士、税理士法人がその時における相当な価額として証明したものに限られます(中小企業円滑化法4条1項2号括弧書)。なお、①旧代表者、②後継者、③業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者、④弁護士法人、監査法人または税理士法人であって、その社員の半数以上が旧代表者または後継者のいずれかに該当するものは、この証明をすることができません(中小企業円滑化法4条2項)。 固定合意における自社株の評価額は、後継者にとっては低いほど有利ですが、後継者以外の相続人にとってはその逆であり、その利害が対立することが想定されます。 そこで、中小企業円滑化法は、その価額の客観性、合理性を担保するために当事者以外の第三者である専門家の証明を要求しているわけですが、現実には次のような問題が起こりえます。 (ⅰ)評価者の問題 まず、固定合意における価額の評価を誰が行うのか問題となります。 例えば、その専門家を後継者が選任した場合、評価者は依頼者である後継者に有利な評価をする可能性があります。後述の評価方式の問題とも関連しますが、評価方式には様々なものがあり、その方式の選択や実際の評価方法をめぐって、後継者以外の相続人からその評価者の選定について異議が出される事態が想定できます。 また、会社の顧問弁護士が後継者のために自社株の評価を行うことは、後継者の利益と会社の利益が常に一致するわけではない以上、利益相反となる可能性が考えられます。 (ⅱ)評価方式の問題 次に、後継者が選任した評価者について、後継者以外の相続人が一応了承しても、その評価方式・結果に満足せず、結局は合意に応じないという事態が想定できます。 ここで、固定合意を利用する際の非上場株式の評価方法の在り方については、平成21年2月に中小企業庁が「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」を公表しています。 もっとも、このガイドラインによるとしても、非上場株式の価額の評価方式には様々なものがあります。また、専門家は、案件ごとの諸事情を考慮して各種評価方式を用いて評価・証明を行うことになります。自社株の評価に影響を及ぼす情報、例えば、会社資産の存在や実現可能性が極めて高い収益の見通し等については、実際に会社経営に携わっている旧代表者や後継者の側が多くの情報を持っています。そのため、当該情報について旧代表者・後継者の側が恣意的な説明を専門家に対して行い、専門家の評価・証明が行われ、合意がなされた場合、後日、紛争の原因となるおそれがあります。 その際、専門家も後継者以外の相続人から損害賠償請求をされる可能性があります。ただし、このガイドラインには、株式評価の実施にあたっての留意事項が記述されており、この留意事項を守ることで、専門家は相続人からの損害賠償請求を一定限度、回避することができると思われます。 |