「自動車保険金は出ないのがフツー」
交通事故の被害者向けに書かれた啓蒙書です。民事の損害賠償請求についての本です。
高名な弁護士の書かれた本なので、何か参考になるかなと思い、読みました。
一点だけ参考になる点があります。損害保険会社の上司が年度末に転勤になるので、和解が1か月延びそうになったので、裁判官に、延期になった分の1か月分の遅延損害金を当初の和解金額に払わせようと提案したら、裁判官も賛成してくれたところ、損保会社側の弁護士があわてて損保会社に電話をかけて、その場で和解に応諾したというくだりです。
ただし、1点、間違いがあります。
自賠責保険金を先に受け取らない方が、自賠責保険金に付く遅延損害金を裁判で余計にもらえるので、被害者に有利という同著のアドバイスは法律的に見ると問題があります。
最高裁平成16年12月20日判決、裁判集民事 第215号987頁は、以下のとおり判示しています。
「被上告人らの損害賠償債務は,本件事故の日に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。自賠責保険金等によっててん補される損害についても,本件事故時から本件自賠責保険金等の支払日までの間の遅延損害金が既に発生していたのであるから,本件自賠責保険金等が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきものであることは明らかである(民法491条1項参照)。」
したがって、この判例によれば、被害者側弁護士がきちんと充当関係を法的構成すれば、自賠責保険金を裁判前に受け取っても、自賠責保険金に付く遅延損害金を取りはぐれることはありません。
なお、この著者はかって保険会社側の代理人として有名でしたから、この本に書いてあることの裏の意味はお分かり頂けると思います。
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