母は、最初の2泊3日を一緒に過ごしてくれました。
旅館についた翌日、朝食をゆっくり食べて、部屋に戻った後、夫をお散歩に連れ出しました。

ちょっと気を抜くと後ろに倒れそうになる夫の手を引いて、ゆっくりゆっくり歩きました。
傍らにはシルバーカーを押しながら、母が付き添ってくれました。

この日はお天気がよく、暖かで、夫にたっぷり日光浴をさせてあげることができました。
滞在中、風が強くて薄ら寒かった一日を除いて、概ねいいお天気に恵まれました。

旅館から、健常者の足ならばおそらく3分位でいけそうなところに、景色のいい場所がありました。
高台になっていて、前が開け、遙か遠くまで見渡すことができました。
手前の林も、遠くの山も、新緑真っ盛りで素晴らしい眺めでした。
野生の藤の花が、至る所に咲いていました。

この場所に、ほぼ毎日のように通いました。
最初の頃は、危なっかしい歩き方をしていた夫でしたが、帰る頃にはかなりしっかりした足取りで歩けるようになっていました。
少なくとも、歩いていてそのまま後ろに倒れたり、腰砕けになってしまう心配はしなくて済むようになりました。

お散歩がよかったのか、温泉がよかったのか、或いは、ただ単にけいれん発作から日にちが経ったので、自然に治ってきたのか..。
それのどれかかもしれないし、全部なのかもしれません。
理由はともあれ、私は単純に喜びました。


母は3日めに帰って行きましたが、翌週、平日に代休がとれたという弟と二人で、1泊2日でまた来てくれました。
早めに来てくれて、2日間ともお昼を食べに連れ出してくれました。

弟の車で、近くにある野鳥公園に行きました。
ここは、古賀政男先生の歌碑があるところでした。
美しい木立に囲まれて、歌碑はありました。そのすぐそばに、四阿がありました。
私たちはそこに腰掛けて、持参した飲み物や、お菓子を食べていました。
ゆったりと心地よい時間が流れました。

見ると歌碑の前で、男の人たちが何か作業をしています。
本来は歌碑の前にある平らな石の装置に乗ると、影を慕いてのメロディーが流れる筈だったようです。
複雑な故障のようで、男の人たちは、直せないで帰っていきました。

直らなくてもいいもんねー、○○ちゃん(夫の名前)が、代わりに歌うから~
そう言って、私が歌い始めました。

  ま~ぼろ~しのぉぉ~~

すると夫が、かーぁgx△▼x~と声を出してくれました。
ちょっとだけ声を出して、後はやめてしまったのですが、確かに夫は一緒に歌ってくれました。
残りを母と二人で歌いました。

周囲は五月の緑に囲まれて、鳥が鳴き、爽やかな風が吹いていました。


$若年性認知症の夫と二人暮らし-野鳥の森公園