7年前の夏の日、夫が珍しくまじめな顔つきで話しかけてきました。
俺、最近、言葉が出ないんだよ..


元々饒舌な人ではなく、私の一方的なおしゃべりに対して、相づちを打ったり、短めのコメントを言う位の感じでした。
それでもその頃、何か言いかけて、あ、いいやと言って途中でやめてしまうことが多いなと、気になってはいたのでした。
私はそんな重大なことになっているとは夢にも思わず、一回お医者さんに行ってみようかと軽く答えていました。


神経内科を紹介してもらって実際に受診したのは秋になっていました。
検査を経て、アルツハイマー型認知症と診断されました。

そうなっても私はまだ、そんなに重大なことになったとは思いませんでした。
ちょうどその頃、テレビで、カナダのNeurochem社がTramiprosateという薬を開発しており、まだ治験の段階だけども、それを服用して、発病前と変わらない生活をしているという老婦人のドキュメントを放映していました。

また国内でも、名古屋大学で研究されていたワクチンが、臨床試験の段階に入ったとか、明るいニュースがありました。
根本的な治療薬はないということは知っていましたが、こうした新薬がでてきているし、治らないことはないと、とても楽観的でした。
ただ日本で使えるようになるのは、おそらく何年も先になるだろうから、間に合わなくなるといけないから、アメリカで認可になったら、早速行こうねと話していました。


当時唯一の認知症の薬、アリセプトを処方されて飲んでいましたが、効いてるのかな?と思ったのは最初だけでした。
Forest Pharmaseuticals社のNamendaという薬が、アリセプトと併用できて効果があるということ知り、それを手に入れたいと思いました。
これは塩酸メマンチン、即ち、今日本でも使えるメマリーと同じ成分のものです。
結局個人輸入なら手に入ることがわかりました。
塩酸メマンチンも最初のうちは効いているのかなと思いましたが、そのうち効果がわからなくなりました。


夫はゆっくりと、いつのまにか病状は進んでいきました。