写真

 

その大工さんは 鼻の下にかっこいい髭を蓄えた 陽気なダンディーだった

 

現場では 機嫌がいいと いつも同じ演歌を 鼻歌交じりで歌っていた

 

ある時

 

「 Tさん、いつも歌うまいですね・・・!」

 

 と声をかけると

 

本人照れながらも にやり まんざらでもない表情 

 

と 横から相棒の大工さんが

 

「 同じ歌を朝から何度も聞かされる こっちの身にもなってくれよ! 」 

 

と悲鳴をあげ 叫んでいた

 

 

夏のマンションの現場は 埃と騒音の迷惑にならないようにと

 

締め切ってしまうこと も多く

 

頼みの綱のクーラーがあることは めったになく

 

まれに解体時に外さずに残って いると

 

まさに天国と地獄の差になってくる

 

差し金で材木に墨をつける 

 

その額から 頬から

 

付けた印の上に 大粒の汗が落ちる

 

全身ぐっしょりになっては 仕事に差し支えるからと 何度も着替える

 

Tさんもそんな一人で

 

いつも白いTシャツ姿で

 

そして汗と一緒に かすかに石鹸の香り がした

 

 

 一人暮らしだから 夜家へ帰ると真っ先にすることは

 

洗濯機を回すことか なという

 

そんなTさんは じつは若い頃はバーテンダーをしていたという

 

彼がカクテルを振っ ている姿は 

 

今からは想像も出来ないが

 

その陽気な姿を見ていると きっと楽しい 酒場だったのではと感じさせる 

 

でも長く続ける仕事じゃないよと

 

いつしか見切 りをつけて

 

もともと興味のあった大工の世界へ飛び込んだそうだ

 

数年間大工の 棟梁の下へ弟子入りして修行に励んだという

 

そんな彼が

 

「 最近、ちょっと調子が悪いんだ 」 と言うようになった

 

「 またお酒を飲み過ぎてるんでしょ?

 

タバコもこの際やめて、いい年なんだから」

 

 49歳の彼をつかまえては そんな冗談を交わしながら

 

なんとか現場を収めてもらった 

 

クロスも貼り終わり、無事マンションリフォームは終了した

 

 

なかなか素敵に仕上がった ので

 

プロのカメラマンに入ってもらい ライティングアップして撮ってもらった

 

出来上がりを楽しみにしていた矢先

 

一本の電話が入った

 

「 Tのやつ 入院したけれどだめかもしれない」 

 

そんな馬鹿な‼

 

あんなに陽気で元気一杯だった彼なのに

 

急いで病院に駆けつけると

 

彼はすでに意識がなかった

 

まだ人生これからだというのに! 

 

信じられなかった・・・

 

 ただただ 悲しかった

 

 

葬儀の日 疎遠だった家族や親戚の人達が

 

北海道から知らせを受け 駆けつけてきた

 

彼が大工をしていたとは 誰もその時まで知らなかった

 

 「 これ Tさんが一生懸命造ってくれた現場の写真です   よかったらどうぞ・・・.」 

 

出来上がってきた美しい写真と共に 

 

在りし日の真剣な表情で仕事をするTさんの スナップ写真を渡した

 

 一時は反発して家を飛び出したというTさんの息子が

 

 じっと食い入るようにその写真を見つめた

 

その目には涙が光っていた

 

 「 おやじ 器用だったもんな・・・

 

ちくしょう こんなしゃれた家造っていたのか・・・!」

 

 

Tさん  天国でまたあの演歌を歌っているのですか?

 

 

   素敵な現場 いっぱい造ってくれて ありがとう・・・

 

 

 

                              1990年秋

                                     M,S,

 

 

 

 

そろそろ掲示板のネタが最近の物に近づいてきたので、

ネタ切れしそう(汗)

なので過去に書いた(30年以上前!!!)仕事の物も載せてみます。

 

家造りには素敵な人がいっぱいかかわっていました。