ここは、株式会社成育システムの会議室。
季節は、まだ肌寒さも残る四月。
開発一部・開発二課の課長、知音真子(ちおん しんこ)は、
同部・開発一課の課長、院前旧太(いんぜん きゅうた)と共に
部長の沢橋洋二から、重大な話があるとして呼び出されていた。
会議室に入ると、すでに沢橋は着席しており、
二人をいつもの優しい笑顔で迎え入れた。
「これから話す内容は、決して他言しないように。
私は、来年の四月より、本事業部の事業部長に任命されることとなった。」
かねてから社内では噂となってはいたが、
現実的な話として聞くのは、二人とも初めてだった。
「それは、おめでとうございます。」
こういうときの院前の返事はとても素早い。
「ありがとう。事業部長への着任に伴い、
現在の部長職が空席になるわけだが、
二人のうちのいずれかを部長に推薦しようと考えている。」
院前の顔に、不適な笑みがこぼれる。
「これまでの二人の功績は、私からすると横一線で甲乙つけがたいと見ている。
そこでだ、今年配属された新人の成長具合で判断しようと考えている。
私が君達二人を育てたように、人材育成能力は上に立つものとして重要な能力だからな。
期限は、今年一杯。
来年一月の新人成果発表の内容で判断させていただく。」
この会社の人材育成は、どちらかと言えば習うより慣れろのノリであり
残っている社員をみると、育ててきたというよりは、
勝手に育ってきたという印象が強い。
逆に言えば、育たなかった社員は、いわゆる閑職に回されるか、
社を後にするというものだった。
ただし、社を去ったものの中には、自分のやりたいことに出会い、
別の形で活躍している者も珍しくは無い。
院前は、その旧態依然とした人材育成を是と考えていた。
したがって、今年の新人に対してもそのように接するであろう事は、
火を見るよりあきらかであった。
知音は、そんなやり方に対して、疑問を持っており、自腹でセミナーに参加したり
書籍を読んだりと貪欲に知識を習得してきていた。
こんな二人の課長の下で、それぞれの新人はどのように成長して行くのだろうか。