~コップの中の愛はまだ半分も 残っているのに~



             Once/真夏の顔面に



風のない昼下がり


だれもいないアスファルトの道に


なにやら


間延びした時間が


カラカラと溜っている


遠くから途切れなく聞こえてくる蝉の声


影が短い


空も道も昼寝しているネ


さっきまで


甲高い声で遊んでいた子供たちの声も


きっと 人さらいにさらわれたんだ





薄暗い縁の下には


痛々しい目の虫が息をひそめ


ひっそりと暮らしている


あの目は○○ちゃんと同じ目をしてる


3才の夏


今日のような昼下がりに


近くの川で溺れた女の子


そのとき


母親がつっかけも履かず


裸足で飛び出して行った





あれから


何十年と経つのに


母親は流れる雲の行方を


目で追う暮らしをしている


○○ちゃんも人さらいにあって


どこかの町で


人形を抱いて暮らしてるのかもしれない






縁の下にむかい


「○○ちゃん」と呼んでみる


「隠れていないで はよう 出ておいで」


と母親役で もう一度




お母さん


今年もあの夏がやってきましたねえ


ほら、ごらんください


陽炎がゆらゆらと揺れる道に


やたら 乾いてる彼岸がへばりついてますよ






○○ちゃんの植えた鳳仙花は


ちょうど熟れていく年頃なのに


3才の面構えで


パチンとはじけ


その音で目を覚ますと


あふれ出ていたのは



寝汗ではなく







どっと 多感