私の小学校は各学年1クラスの小さな私立校だった。
クラスの半分は幼稚園から一緒。
それ以外も6年間同じクラス。
その中にSさんという小学校から入った女の子がいた。
Sさんは、ひとことで言うとワガママだった。
気に入らないと泣き、叫び、机や椅子をなぎ倒す。
普通に接していても気に入らない、チヤホヤされないとダメなのだ。
子供の頃はSさんの言動に困惑していたが、今ならわかる。
きっとご両親が大事に大事に、褒めて、叱らずに育てたのであろう。
話はそれるが。
そうやって育てるのが吉と出るか凶と出るか。
その差異はなんだろうか。
愛情いっぱい、褒めて、怒らずに諭して育てるとする。
自己肯定感の高い、他者も尊重するおおらかな自立した子になることもある。
が。
わがままで自己顕示欲の強すぎる子になることも少なくない。
子育てに正解はないのだとつくづく思う。
難しい。
戻る。
Sさんは特に成績が悪いわけでも、言い方は悪いが見た目が良くないわけでもない。
でも、子供は敏感で単純で残酷である。
すぐに「この子と関わると厄介かも」と感じ取ったのだと思う。
いじめられたり無視されたりしないものの、うっすら避けられていた。
用がなければ話しかけない、遊びには誘われない。
でも決して仲間外れということでもなく、雑に言うと人気がなかった。
うちの小学校では毎学期初日に学級委員の投票をする。
男女各1名、前学期と同じ人はダメ。ルールはそれだけ。
要は人気投票である。
男子は、超美形で幼稚園の頃から女性の先生方をメロメロにしていた子。
麻布中に行った成績が良くてカッコも良い子。
成績が良いのに変な踊りでみんなを笑わせる子。
小学生にしてちょっと硬派な雰囲気と顔立ちの子。
そのあたりの持ち回り。
女子は、二度見してしまうほどかわいく、なおかつニコニコ明るい子。
ちょっとクールで大人っぽい子。
桜陰中に行ったあまり笑わない優等生。
すごく背が高くて腰まで髪を伸ばしている子。
地毛が茶色い転校生。
※女子は長い髪と茶色い髪を神格化してしまう傾向がある
そのあたりで持ち回る。
なので、それ以外のほとんどは学級委員を経験せずに6年間を過ごす。
私もそう。
でも、やっぱり憧れちゃうもの。
特にSさんの思い入れは強かった。
毎回Sさんに1票入る。
みんなわかっている。
自分の名前を書いているのだと。
5年生の終わり頃。
いつもどおり投票があった。
結果はいつもどおり、持ち回りメンバーの中から決まった。
そこで、担任の先生が大演説をぶっこんできた。
「Sさんは怒ったり泣いたり暴れたりいろいろあるけれど、最近変わろうと努力している。
先生はそのきっかけとして、Sさんに学級委員をしてもらおうと思う。
異論があれば挙手しなさい。」
という内容。
まずは投票で決まった女子に、Sさんに譲ってくれないかと打診。
学級委員慣れしている彼女は二つ返事で「はい」と言う。
その後も念入りに理屈をこね「賛成なら拍手を」と劇場型演説を締めくくる。
その先生、怒鳴るし殴るし、好き嫌いで成績をつけるし。
異論を唱えようなもんなら何をされるか。
結果、割れんばかりの拍手が起きた。
子どもは大人以上に空気を読む。
それをわかったうえでの策略。
この担任のことがもともと嫌いだったが、ますます嫌いになった瞬間だった。
もう十分なのに担任、「ではSさん引き受けてくれますか」と問う。
はにかみながら前に出て「はい」と答えるSさん。
クラス全員拍手をしながら、心は冷え切っていたと思う。
そしてこのとき、担任がSさんに「家に帰ったらすぐに両親に報告しなさい」と念を押していた。
なんだか違和感があって記憶しており、その後納得することになるのだが、それはさておき。
そんなこんなで、Sさんの学級委員ライフは始まる。
ずっと憧れていたんだもの。
それはそれは張り切るわけです。
今までの学級委員がしていたことを全部するわけです。
授業中振り向いて「静かにして」とか。
すっごい言うんです。
まわりも冷めた目で見つつも慣れてきた頃。
休み時間にSさんが泣き叫ぶ。
誰かが学級委員のことで陰口を言ったのが聞こえたのか、直接揶揄されたのか。
机や椅子にあたりながら怒っている。
クラス全体が注目。
そこでSさんの衝撃発言!
「私のパパとママが先生に10万円渡したんだから、ずるなんかじゃない!」
クラス全員が凍った。
ずるの中でも最もずるいやつじゃん。
そうだとしても墓場までもっていくべきやつじゃん。
そこは空気を読むように仕込まれた子供たち。
全員で聞こえないふりをしてあげましたとさ。
そして納得。そりゃ親に報告させたいはずだ。
今でもちょくちょく思い出す。
Sさんの怖さと担任の汚さ。
そういえば「余らせてしまうので果物とか食べ物、日用品は控えて下さい」
と家に帰ったら親に伝えろと夏休みや冬休み前に言われていた。
意味がわからず素直に親に伝えた。
親は顔を引きつらせて「現金か商品券ってことね」とつぶやいた。
今ならわかる。お中元とお歳暮金で寄こせってわけね。
給料以外にどんだけ金を受け取っていたのやら。
中学受験前に現金を渡して内申書をオール5にしたなんて話も後から聞いたし。
その後どんどん出世して、今は附属幼稚園の理事長だとか。
税務署にあげられてしまえ。
Sさんの発言。女の怖さを見た気がする。
思い通りにならないなら、道連れに全部暴露してやる!みたいな。
文春にLineの画像を提供する浮気相手の気持ち?
あーらしを起ーこして、すーべてをこーわすの。の気持ち?
どれもちょっと違う気がするけど、とにかく怖い。
Sさん、今どうしてるんだろう。
気にはなるけど、連絡を取る気はさらさら起きない。
だって、関わると厄介なんだもの。