「いいよ、美羽。もう分かったから。教えてくれてありがとう。」

再び呼吸が乱れ始めた美羽の背中をさすり落ち着かせる
薬の力で無理矢理体は睡眠をとってるけどそれは決して快適な睡眠じゃない

寝なければ、体がもたない。でも、寝ることが辛い

いや、正確に言うと寝ようとするまでの時間が辛いんだ

眠気はあっても、いざ寝ようとしたらそれが出来ない

美羽を苦しめてるのは、きっとそこだと思う


「…今までどうやって、寝ていたか…分からない」

「そっかそっか。」

ポタポタと落ちる涙。よくこんなんで、本番やったなとしみじみ思ってしまう

時計を見ると時間は5時前。今日の入り時間は昼だから、まだ時間はあるけど

少しは休まないと本番にまで影響が出る。せっかく仕事が心の救いになってるのにそれすらしんどくなったら

美羽は本当に壊れてしまうかもしれない

ここは…少しあれかもしれないけど…


「美羽、1回だけ…横になってみない?」

「…やっ…」

「うん、どうしてもしんどかったらすぐ止めよ?私も一緒だから。寝なくていい。横になるだけ。」

「…っ。」

それも怖いのか…。そう思うと、私まで苦しくなる


「大丈夫、1人じゃないから。ほら、空も明るくなってきた。もう夜じゃないよ。だからさ、1回だけ。」

「…う、ん…」

「ん、ありがと。気分悪くなったら言って?」

「ん…」

そして、ゆっくりと体を倒した美羽の隣に私も一緒に横になって背中をさする

「はぁっ…っ…はぁっ…」

「大丈夫、大丈夫。」


それから2時間

眠りはしなかったけど、美羽は1度も起き上がることなく過ごすことができた

「気分どう?」

「…だい、じょうぶ…」

「そっか。よかった、ちょっとは体休まった?」

「…うん…ごめんなさい…」

そういう美羽の頭に手を乗せ、ポンッと撫でた

「…ん。」


数日ぶりにベッドで横になれたことに美羽も少し安心したのか顔色もだいぶ良くなった

背後から差し込む朝日が不安な夜を取り払ってくれた気がした


夕方、開演したコンサート本番

夜のことが嘘かのように、美羽はいつもの村山美羽をお客さんに見せていた

アイドルでいることが、美羽の心を保っているような、そんな感じに見えた


でも、本番が終わってマネージャーにも事情を話し、美羽の家に2人で帰ってくるとそこまではわりと落ち着いてたのに

やっぱり夜が深くなってくると少しずつ美羽の様子がおかしくなり始めた


不安そうに時計を見たり、ギュッと手を握り締めたり、落ち着かない様子だった

そして何を思ったのか、急にソファーから立ち上がり鞄の中に手を伸ばした


「美羽っ…」

その手を掴んで、薬を探すのを止める

「…嫌、…寝る…」

軽くパニック状態になり、私の手を振り払おうとする

「美羽、大丈夫。大丈夫だから。」

「嫌っ...お願い…夏鈴さんっ…」

「大丈夫。私を見て、美羽」

言われるがまま不安な表情で私を見つめる

「...夏鈴さん...」

あっという間に私の腕の中に入り、そのままそこに座り込んだ美羽

乱れる呼吸、溢れる涙

こんな状態で、美羽は今まで毎晩過ごしてたのか。そう思うとますます心が痛んだ


「しんどいことさせてごめん。でも、薬飲むのはもう止めよう?」

「嫌っ…む、りです…」

「無理じゃない。できるよ、美羽なら。一緒に頑張ろう。寝なくてもいいから。」

「で、も…」

「一緒に…一緒に頑張ろう」

こんな言葉でしか表現できない私に不甲斐なさを痛感する
けど、そばに居ることはできる

弱々しく震える美羽は私より背が高いはずなのに
ものすごく小さくて、儚く見えた

夜が、美羽を暗闇に連れて行く

「…っ...夏鈴さん…」

「ん?」

「…ごめ…んなさいっ…」

「どうして?」

「……ごめ、ん…」



何に謝ってるのか、今、何を思ってるのか

全部は分かってあげられない


でも

「うん、大丈夫。」

抱き寄せた頭を、精一杯包み込む

辛い睡眠薬なんかじゃなくて

の"大丈夫"が
貴方の子守唄になるように…


どのくらい経っただろうかくてん、と力が抜けた体を支え直し

見えた顔は綺麗な寝顔だった

時間はかかるかもしれない。でも、美羽が安心して眠れるようになるまでそばにいるよ








「夏鈴さん…ありがとうございます…」


1ヶ月後の夜、私の目の前で美羽はそう笑顔を見せた…



end.



村山を病ませすぎてごめんなさい
だいぶ前書いて出せなかったものです
最後まで読んで下さりありがとうございます