或る日、ふとしたことから、

地下鉄職員の若い青年と仲良しになった僕は、

都心を網の目のように走る地下鉄とは別に、

そのさらに地下層を走る「もうひとつの地下鉄」があることを知る。


「普通の地下鉄」よりも速く目的の駅まで辿り着ける、

だれも知らない「もうひとつの地下鉄」は、

「普通の地下鉄」に追いつき、追い越すために在ったのだ。


地下鉄1号線が危ない!

僕と、若い地下鉄職員の彼は、

螺旋階段を駆け下り、レンガを踏み鳴らして、

「もうひとつの地下鉄」へ飛び乗ると、出発した!



..このシノプシスが書かれた1995年3月21日は、

まさに、地下鉄サリン事件の翌日であり、あの阪神大震災から

間もない頃だった。 春分を過ぎ、これから陽が長くなる、

そんな春の訪れとともに惨事は起こった。

あれから10年、時代は加速して、あまりにも早く移り変わっていった。

人間は、思いのほか加速したこのスピードに付いて来れたのだろうか?

僕は、「もうひとつの地下鉄」に乗って、なんとかキャッチアップしたい。

先回りしてでも、追い越して歯止めを掛けたい刻がある。




これを読まれた方々にも教えて欲しい。

今、僕たちが追いついて、準備しなければならないものは何ですか?


それは、去り行く恋人との時間を巻き戻すことかも知れないし、

進み過ぎた埋め立て開発工事を見直すことなのかも知れないし、

あのとき、食べ残したデザートの洋梨タルトかも知れないし、

飲み過ぎてハメをはずしてつい口走ってしまった言葉かも知れない...


あなたが取り返しをつけたいのは、何ですか?