最初に、我ながらあまりに小心者で恥ずかしいので、先に告白してしまう事で忘れてしまおうと思う。
最近、私は仕事をする時間のローテーションを崩したくないので、何と夕方6時~7時には寝てしまい、深夜の1時くらいに起きる。きのうは仕事がなかったにも関わらず、やはりそうした。
「仕事ないのにもう寝ちゃうの?日本戦は?」
同居女子が不思議そうにそう聞くので、答えた。
「日本がドイツに負けるのを見たくないんだよ」
「ふーん。わたしは今日は夜勤だし、何だか日本代表、ウチでは見放されたみたいでかわいそうね」
そう言いながら、彼女は「見たい見たい」とぶつぶつ言いながら仕事に出かけていった。
一人で布団に入った私は思っていた。我ながら小心者だが、今回の代表はベテランを減らし、ワールドカップ初出場の若手が多い。「これまでの日本代表の中では史上最強」と言われてはいるが、それでもあの特別な舞台を初めて経験する若手たちが、もし緊張して強豪ドイツにボコボコにされるのだとしたら、それはあまりに酷な光景で見るに忍びないと思ったのだ。
が……。
深夜1時に目が覚めて恐る恐るテレビをつけてみると、何と、彼らはドイツに逆転勝ちした選手たちとして一人一人インタビューを受けている。
「なにっ?!ドイツに逆転勝ち?!」
私は慌てて同居女子にCメールで(私だけLINEを使っていないので)、「勝った!びっくりー!」と知らせ、勤務中の彼女からは「すごーい!まさし、心配しすぎよ!」と、お祝いのクラッカーの絵文字が四つついた返事が来た。
さっそくAbemaに会員登録をし、見逃し配信で試合をキックオフから見てみた。
以上が私の「忘れたい、恥ずかしい告白」である。笑。
それにしても……。
私は逆転勝ちを知ったうえで後から見たからまだよかったが、LIVEで見た皆さんはさぞかしイライラ、ハラハラ、ドキドキの約80分(ハーフタイム含めると95分)だったろう。
前半にPKでドイツに1点入れられたまま、ずっと試合が動かない。人によっては「やっぱり……」とか、「まだまだシュート決められちゃうんじゃないか」とか、「日本はよく守ってはいるけどゴールが遠い」などと、さぞかし気を揉んだはずだ(権田のあのスーパーセーブは素晴らしかったが)。
そして、夕方の就寝前の私も含め、「やっぱり相手がドイツだからなぁ(勝てないよなぁ)」という想いが頭をよぎった人が多かったのではないか。
ところが、彼ら日本チームは残りわずか約10分のところで、何と疲れが出てきて速度の落ちた相手の虚を突くようにして猛烈な反撃を開始、何と2点もゴールにぶち込んで鮮やかに勝利した。
もしかすると、日頃ブンデスリーガでプレーしている選手が日本側に多いせいで、薄々「粘り抜けば必ず勝機はある」と感じていたのではないかと思ったほどだ。
いずれにせよ、日本は2-1で強豪ドイツを、あのもの凄い重圧のかかるワールドカップの、しかも初戦でくだした。
私は、監督や選手たち、スタッフの皆さんには土下座して謝らねばならない。
「ドイツ相手じゃ到底勝てないだろうなんて決めつけてて済みませんでした」
と。
このブログで、4年前の2018年7月4日に「暁、稲妻走る」という記事を書いた。日本が決勝リーグでベルギーに敗れた時の記事だ(詳しくはそちらをお読みください)。
あの記事の中で私は、乾が相手ゴールに突き刺すように放ち、2点目をとったあのシュートを称して、「遂にアジアは『俺たちは本気だぞ』というナイフを、ヨーロッパや世界に突きつけた」という意味の内容を書き、つまり、それまでどこなく出場はするものの、まるで半分「おみそ」的な空気で扱われていたアジア勢が、遂に本気で世界に牙を剥き、宣戦布告したに等しいと表現した。
にも関わらず「ボコボコにされるのを見たくない」などと思いLIVEでは見なかったのはお恥ずかしい限りだが、正直、勝てるとは思っていなかった。世間やマスコミの事前の意見も「がんばれ」とか「応援してます」的な曖昧な言葉が多く、「必ず勝てる」という冷静かつ的確な、つまり勝利を言い当てた記事や意見はほとんどなかったように思う(繰り返しになるが、私もその一人だ)。
だが、彼らはあの大舞台で、強豪を相手に我慢に我慢を重ね、自分たちの技術とチームの力、仲間たちを信じ、そして勝利をドイツからもぎ取った。
やはり、アジアは本当に牙を剥いていたのだ。
四年前の、あのベルギー戦から。
この先、一次リーグの日本の前には、コスタ・リカとスペインが立ちはだかる。まだまだ今後のドイツの勝敗や総得点次第では、一次リーグ突破はどうなるかはわからない。
それでも、これだけは紛れもなく真実であると言っていい。
『日本チームは、遂にヨーロッパの巨像たちに牙を突き立て倒し得る、本物の狼になった』
見逃し配信で見てもう一つとても感心した事を最後に一つ。
本田圭佑氏の解説。
あれは、今までに聞いた事がない新鮮かつ素晴らしい解説だった。
わかりやすい、ポジティブ、怒る時は怒る、選手を叱咤する、「そう、それでええんや」と付け足す事で、自分が提示した戦略を我々に目で見てわかるように示唆してくれる、とどめに、中継している人々の中でいち早く「これはいけるかもしれませんよ」と、普通の解説者が言っても聞いているこちらが半信半疑になるような言葉を、もの凄い説得力とともに関西弁で呟く。
やっぱり、解説をやらせても「規格外、型破り、そして天才」だなと思った。単に解説として自由すぎるのではなく、その発言が全て経験に裏打ちされているのと、現状分析の鮮やかさ、そして彼の発言に結果がドンピシャと伴ってくる凄み。
(リスペクトの意味をこめて)本田圭祐、恐るべし、である。
もしこれで韓国が日本と同様の活躍をすれば、それは紛れもなく長年『サッカー後進地帯』だったアジアが、いよいよ世界に反撃の狼煙を上げた証になるのではないか。
そうなるかもしれない。
そして、
そうなる事を祈っている。
さらに牙を磨け。磨いたその牙を剥け。そして突き立てろ。
巨像たちとの対決はまだ始まったばかりだ……。
走れ、吠えろ、
カタールという名の野に放たれた、
アジアの狼たちよ。