遅ればせながらの『映え』 | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 日々の感染者数が急に減ったとはいえ、もともと出不精だし仕事が忙しいせいもあり、相変わらず毎日近所のスーパーに行く以外は滅多に外出しない。

 上の写真はそのスーパーに行く道すがらに撮ったもので、秋も深まり既に夕陽の風情がある。

 

 最近、今さらながらインスタを始めた。

 理由がある。

 今、シリーズ構成を担当している「デジモンゴーストゲーム」で、ヒロインが中学生ながらインフルエンサーであるという設定になっていて、脚本を書き始めた当初、実は内心困っていた。

「インフルエンサーって……実のところ具体的にはどういうものなんだ?」

 いまいちわからないのである。私はFacebookとこのブログだけはやっているので、インスタもFacebookに吸収されたものだし、まあ似たようなもんだろうくらいに思いつつ、脚本を書いていた。

 だがある時(これくらいの裏話なら守秘義務には抵触しないと思うのだが)、脚本チームの若いライターの一人が、その人の担当脚本で『映え』という言葉を書いてきた。

 会議の前にはあらかじめチェックしておくのも仕事の1つなので読んでいて、ハタと困った。

「『映え』……これ、何て読むんだろう。『はえ?』でも前後の文脈と合わないなぁ……」

 翌日の会議の時に、それが若いライターの説明で『ばえ』と読む事を知った。つまり「インスタ映え」の『ぱえ』である(今これを書いていて、『ばえ』を変換するとフツーに『映え』になるのが、私などには既に驚きなのだが)。

 その人によれば、友達との会話でごく普通に『映え』は使っているという。

「こりゃ、大変だ……」

 私は内心そう思った。

 

 インフルエンサーが主要キャラの一人にいて、当然インスタをやっているシーンが多々出て来る。Facebookしか知らない私では、脚本上で誤魔化しきれないのがはっきりした。だって『インスタ映え』は知っていても、『映え』という言葉などは知らなかったわけだから……。

 その翌日、慌ててインスタを始めてみた。

 

 やってみると、これがなかなか出不精の私には向かないアプリで、何しろスーパーに行く以外ほとんど外に出ないから、インスタにアップできそうな写真が極端に少ないのである。それに運悪く、近頃やや重くなってきたスマホを軽くするために、ストックしていた写真をかなり削除してしまった後で、要はインスタ用にわざわざ外出しなければならない。

 といって遠くまで何をしに行くでもないので、家の近くで上のような多少雰囲気の感じられる瞬間があると、インスタ用に撮っている訳である。ちなみに、これはいくつか撮った中で『映えないなあ』と思ったのでUPしなかったものだ。

 さらに言えば、このブログに何度も書いているように、どうも私は昔から写真が下手で、スナップですらまともに撮れたためしがない。それを、インスタ用に写真を撮るとなるとこれはもうかなり大変で、「一体どうしたものか……」と、日々悩ましい。

 ただ幸いな事に、あれは色調をいろいろ変えられて、中にはモノクロにできるのもあるから、『イマイチだけど今日はこれしかないや』という写真はモノクロにして強引にそこはかと風情を出す、というあざとい手を使っている。

 

 よって。

 『映え』どころではないのである。出掛けるのが嫌いなうえに写真を撮る事自体苦手な人間がインスタを始めるとこういうメに会うようで、それでも「インスタとは何ぞや」という事を体感しないと脚本に差し支えるので、毎日「うーん、今日は何を撮るかな」などと考えている。さらに有名人のをたくさんフォローして参考にしてみたり、若いインフルエンサーのも覗いてみたり、研究の日々が続いている。最近やっと慣れてはきたが、それが作業中の脚本にどれくらい上手い具合に反映されているかは実に心もとない。監督やプロデューサーが何も言わずにOKになっているので、ひとまず問題はないようなのだが……。

 

 『映え』が当たり前の言葉になっている事を知らずに衝撃を受け、慌ててインスタを始めて四苦八苦している私は来年還暦である。

 

 脚本家とは、いつまでたっても気の抜けない職業だと、近頃改めて感じている。

 

 いやー、それにしても私のインスタは実に、『映えない』写真ばかり。

それでも興味がおありの方は、インスタのmasashi_sogoというのを覗いてみてください。

 

 この記事の意味がよーくわかると思います(笑)。