「ミッドウェイ」と國村隼さん | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

「そろそろ映画館で映画が見たいよ」

 同居女子がそう言う。

 本当は7月にマ・ドンソクの「悪人伝」を二人で見に行く予定だったのだが、その頃は感染再拡大の真っ只中だった事もあり見送っていた。

「でもなあ。ウイルスはさておき、あんまり見たい映画がないんだよな……あ、そういえば、9月に『ミッドウェイ』が来るから、あれは見ようとは思ってるんだけど……」

 すると同居女子が食いついてきた。しかし例によって「ミッドウェイ」の「ミ」の字も知らない様子なので、簡単に説明してから映画のHPを検索して予告編を見せると、

「見たい!これは映画館で見たいわ!」

 と大乗り気なので、来月二人で見に行く事にした。

 

 その「ミッドウェイ」に、第一航空艦隊司令長官で空母赤城に乗っていた南雲忠一中将役で、國村隼さんが出演されている。

 ミッドウェイ海戦時の南雲中将の動静はいまだに賛否の分かれるところで、これはなかなか難しい役どころなのだが、國村さんなら何の心配もあるまい。むしろ、その演技力が炸裂するのが今から楽しみである。

 國村さんとは、2005年の映画「交渉人真下正義」の脚本を書いた時にご一緒した(上の写真)。

 無人の試験車両が暴走し始めた事で都内の地下鉄が大混乱に陥る物語だが、國村さんはその地下鉄を束ねる総合指令室の指令長を演じ、私の脚本など遙かに越える存在感だった。

 脚本会議の時は、わかりやすい方がいいだろうと思い「この人はつまり、『アポロ13』のエド・ハルスみたいなポジションの人です」と説明していたのだが(その通りなのだが)、内心は、古くから東宝の特撮映画に脈々と続く、いわゆる「指令官」のイメージを持ちながら書いた。藤田進、田崎潤、指令ではないが陣頭指揮に立つ総理を演じた中尾彬などなど、脅威に対してリーダーシップを発揮し、部下を束ねて立ち向かうどっしりした指令官は、私の中では映画冒頭の東宝マークに続いて欠かせない存在だったので、自然とそんな書き方になったのだと思う。「交渉人真下正義」も東宝だったので、これはもう子供の頃から慣れ親しんできた「東宝指令官」を書くのは必然だった(もっとも単なる指令だけではなく、主人公真下との確執もだいぶ盛り込んだが)。

 

 國村さんとは、撮影中に一度、スタッフ試写の時に一度、都合二度お会いしてお話する機会を得た。試写の時は、私は國村さんの隣の席だった。

 その役柄から、國村さんに強面のイメージをお持ちの方も多いだろうが(本当は演技の幅が相当に広いので強面ばかりではないのだが)、ご本人はいたって気さくな方である。撮影の合間は共演者と冗談を言ってよく笑っているし、試写の時もいろいろと楽しいお話を聞かせていただいた。その気さくな面が、あの映画でもほのかに滲み出ていて、ふとした瞬間に笑いに転換するシーンでは見事な演技を見せていただいた。後にお客さんの反応が気になって映画館に見に行った時も、國村さんの台詞で笑いを取りにいったシーンでは館内は爆笑だった。書いた私としては安堵したし、それ以上に「國村さん、ありがとうございます」という気持ちでいっぱいになった。

 

 その後、國村さんの出演作品はよく見ている。

 韓国映画の「哭声/コクソン」では異様な存在感を示していたし、「シン・ゴジラ」の徹底して冷静な自衛隊指令官(これも指令官!)もとてもよかった。かと思えば、最近の「アルキメデスの大戦」では、かつての海軍軍人の自由闊達でずけずけと物を言う、それでいて嫌味のない感じをうまく表現されていた。

 カメレオン俳優ともまた違うと思うのだが、何というか「微妙に幅の広い感じ」が國村さんの持ち味で(微妙といっても悪い意味ではなく褒め言葉である)、こういうタイプの俳優さんにがっつり指令官を演じていただいた経験を持っているのだから幸せなものだ、と改めて思っている。

 それと、「交渉人」の脚本を書いた時は、子供の頃からずっと思っていたある事を何とか実現したいという想いもあった。

 それは。

 日本映画において、わずかな例外はあれども、アクションやスペクタクルに関してはハリウッド映画に比べて脆弱さは否めない。予算やら何やらいろいろな問題があるのだが、どうも迫力に欠ける点は拭いようがない。「交渉人」とてハリウッド映画には遠く及ばない予算だったが、それでも、「何とかして日本映画でハリウッドのスペクタクル映画に肉迫したい」という想いが強烈にあったのだ。

 その場合、ど派手なシーンを並べたところであちらに敵わないのはわかっていたから、物語の構成やキャラクターの面で、「徹底してかっこい大人の男たち」を描く事で、多少なりともいつもの日本映画と違う作品が作れるのではないか、それが私の脚本だった。子供の頃から憧れていたハリウッドスペクタクル映画の大人の男たちは、皆文句なしにかっこよかったからだ。

 國村さんはその気分を存分にすくい上げてくれた。

 プロフェッショナルの魅力、緊急事態に対応する時にリーダーが放つ輝き、そうしたものを味わいとともに演じてくださり、寺島進さんと並んで國村さんの存在があの映画をもう一段魅力的に引き上げてくれたのは言うまでもない。

 その國村さんの隣に座ってのスタッフ試写だったから、感激もまたひとしおだった。

 早いものでもう15年も前の話ではあるが。

 

 来月の「ミッドウェイ」、本当に楽しみにしている。

 國村さん演じる南雲中将がどんな世界を見せてくれるのか。

 

 同居女子とともに、久しぶりの映画館で堪能しようと思う。

 

 國村さん、その節は大変お世話になりました。