イブにジェリーがやって来た | 脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

脚本家そごまさし(十川誠志)がゆく

テレビアニメ、ドラマ、映画と何でも書くシナリオライターです。
24年7月テレビ東京系で放送開始の「FAIRYTAIL」新シーズンに脚本で参加しています。
みんな観てねー。

 

 2ヶ月ほど前に、Amazonミュージックライブラリの「4000万曲聴き放題」という途方もないサービスを利用し始めた事は既に書いた。

 その頃、4000万曲ものリストにもなく、探して見たら通販で売っていたので購入したCD「ジェリー・ゴールドスミス40周年記念盤」が、クリスマス・イブの今日にようやく届いた。約2ヶ月かかって海の向こうから送られてきた輸入盤だが、忘れた頃にこういう物がやってくると妙に嬉しいものだ。

 今、4枚組のCDを聞きながらこのブログを書いている。

 

 ジェリー・ゴールドスミスはジョン・ウイリアムスと並び称されたアメリカの映画音楽作曲家で、彼とは「二大巨頭」だったがこのCDが発売された直後、2004年に75歳で亡くなった。

 私が10代だった70年代、彼の音楽は映画小僧の間では大人気で、むしろジョン・ウイリアムスより好きな人が多かったのではないかと思う。新作映画のポスターを見た時、「音楽 ジェリー・ゴールドスミス」なる名前を見つけると既にそれだけで心臓がどきどきし、「はい、この新作は何としても見に行きます」と決めたものだった。今ではそういうタイプの映画音楽作曲家はすっかり減ってしまった気がする。

 今聴いているCDに収録されているだけでも、第一次大戦の撃墜王を描いた「ブルー・マックス」、ジャック・ニコルソンがLAのしがない探偵を演じたジャジーで幻想的な曲調の「チャイナタウン」、マックイーンの代表作にして憂いを秘めた名スコア「パピヨン」、勇壮極まりない中にも金管の不穏なアレンジが響く「パットン大戦車軍団」、中学生の頃血湧き肉躍らせて映画館に駆けつけた「カプリコン1」、ショーン・コネリーがリフ族の長をダイナミックに演じた「風とライオン」、ブラックな賛美歌を模した「オーメン」、その後も「スタートレック」(これはおなじみのスコア)、「エイリアン」、「ランボー」、「ポルターガイスト」、「グレムリン」、「トータル・リコール」(これは仕事の時に聴くと気持ちが上がる)、「アンダーファイア」、「ロシア・ハウス」などなど実に精力的な仕事量で、しかも印象に残っている映画と曲が多い。

 

 今でもよく覚えているのだが。

 若い頃(その後もだが)、映画館でハリウッドの新作映画を見ていて、オープニングのスタッフクレジットに「Music by Jerry Goldsmith 」と出てくるとそれだけで「ジェリー、キター!」と思ったものだし(当時は「キター」という言葉はなかったが)、彼が映画に付けるメインタイトルはメロディラインが美しく覚えやすい上に、劇中のサウンド・トラックも、まあそれはそれは映画を盛り上げる事この上なかった。

 ジョン・ウイリアムスよりはもう少し職人肌の人で、作品の内容に応じていつもガラリと曲調を変えてきたし、しかし誰が聴いても「ああ、ジェリー・ゴールドスミスだな」とわかる独特の味があり、長年「たいしたもんだ、ジェリー」と思っていた。勝手に気安く「ジェリー」になっているが、それほど偏愛しているのでご容赦願いたい。笑。

 

 何と表現すればいいのだろう。

 たとえば、戯れに映画を映画ではなく舞台で上演されるオペラに置き換えてみる。

 すると、舞台に立った俳優たちは、オーケストラ・ピットでジェリーが奏でる音楽に合わせて歌い、舞い、彼ら彼女らの存在感や演技力だけではなく音楽に大きく導かれているような趣きがあった。

 「パットン大戦車軍団」の剛直で自信家だがそれ故に連合軍の中で疎外されていくパットン将軍を演じたジョージ・C・スコットがそうだったし、脱獄に執念を燃やす「パピヨン」のマックイーンもそうだった。「風とライオン」の砂漠で馬を颯爽と駆るショーン・コネリー然り、「ランボー」の孤独な帰還兵スタローン然り、火星を駆けずり回った「トータル・リコール」のシュワルツェネガー然り、極論すれば「エイリアン」のあのモンスターだって、ジェリー・ゴールドスミスの神経を逆なでするような絶妙に不気味な音楽を身に纏い、世界中を恐怖に陥れた面がある。

 真に偉大な作曲家の映画音楽とは、自らを主張しながらも映画に寄り添うものだと思っている。

 ジェリー・ゴールドスミスの映画音楽はその代表選手と言ってよく、長年に渡ってこれほど数々の映画に貢献した作曲家はそう多くはない。

 

 そのジェリーが、没後13年目のイブに我が家にやってきた。至福のクリスマス・プレゼントといっていい。

 

 欅坂46とKARAに続いて、原稿のはかどるアルバムがまた増えた。そう書いている今、私のヘッドフォンの中で「エイリアン」のあの有名なスコアが鳴り響いている。もし今日ホラー脚本の依頼が来たら、この曲の力を借りてすぐにでも書ける。

 

 ありがとう。

 そしてようこそ我が仕事場へ、ジェリー。