台風がやってきて、
突然に、夏が終わってしまった。
今年の夏は、じりじりとしてばかりで、
何もやらなかったなあ。
この夏の終わりの日に、
湘南に住んでいる
ベテランシンガーソングライターの
なつかしい歌を聴いて、
ちょっとうるうるしてしまった。
南佳孝。
30年前の夏。
僕は、車に乗りながら、
この歌を聴いていた。
僕は、夏の暑さにじりじりしながら
片岡義男や矢作俊彦や
村上春樹やアーウィン=ショウを
読んでいた。
そして、南佳孝を聴いていた。
眠れない夜は、
クラッシュアイスにジン。
それに、レモンを絞った安酒を
呑んでいた。
この酒の名前をドライキャットと
勝手に名づけて、酔っ払いながら、
何かに渇いていた。
そして、南佳孝を聴いていた。
片岡義男なんか、いつでも書けるさ。
いや、片岡義男よりも、気取ったものも
ちょろちょろっと書けるさ。
そう思っていた。
僕は、二日酔いで頭をかきながら、
短編小説集を書いていた。
片岡義男よりも、気どったものだった。
短編集の名前は「彼のコンセプト」。
題名のつけ方は、
相変わらずへたくそだった。
村上春樹には、まだまだ遠いなあ、
とは、思っていた。
僕は今も昔も謙虚なのだ。
そして、南佳孝を聴いていた。
村上春樹に少しでも近づきたいと、
村上がデビューした懸賞小説に
応募した。
その時の小説の題名は
覚えていない。
1次選考には通ったが、
最終選考にはもれた。
まだまだプロの書き手になるには、
力が足りないことは、
自分でよくわかっていた。
そして、いつの間にか、
南佳孝は聴かなくなっていた。
故障ばっかりしていて、
だからこそ、お気に入りだった
オレンジのビートルも
手放してしまった。
車にも乗らなくなったし、
南佳孝も聴かなくなった。
テレビの中の南佳孝は、
日に焼けて、少し歳を取って、
声が悪くなっていた。
それでも、トロリと夏の恋の歌を
気持ちよさそうに歌っていた。
僕は、酒も車もやらなくなったし、
海からも遠い街に住んでいるけど、
彼が歌っている間だけ、
30年前の、あの頃の自分に
戻ることができた。
何もない。だからこそ、これから
なんでも手に入ると信じていた
あの頃に。
夏の終わりだ。
夏の終わりのことだ。
ヒロN作詞 ニセ南佳孝ソング
「ブラック・ビーンズ」
海辺を走るオープンカー。
君は、タンクトップを脱ぎ捨て、
赤道まで走って!と
笑いながら言ったね。
湘南の海は、ダメさ。
ヒトが多すぎるから。
だけど、君に会えた。
だから、まあ、いいさ。
気まぐれなスコール、
やって来て、
ドライブインの
ホットドック屋で
レモネード呑んだね。
水着だから濡れても
いいのとウィンクした。
いけてるよ、
MY GIRL。
そんなに焼いていいの?
夏はあっという間に終わるよ。
焼けた子はもてるのかな?
僕は、どちらでもいいけれど。
ラジカセで、踊っていると、
きみが欲しくなった。
夏の気まぐれじゃないよ。
本当の気持ちさ。
電話番号を聞くと、
砂浜に指で書いて、
すぐに消した。
きっと運命なら
また会えるよ。
馬車道あたりでね。
そう笑った
BLACK BEANS。
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