「木佐さんの手、可愛いっスね」
『…嬉しくねぇよ』
客と手を繋いだ事なんてない。
この仕事する前も男漁りはしてたけど、手は繋がなかった。
だって男同士で繋ぐなんて、有り得ないだろ。
変な思考を巡らせていると、いつの間にか玄関だった。
「木佐さん、今日はありがとうございました。」
『ああ…』
手はいつの間にか離れていた。
もう雪名の体温はなく、冷たくなった手のひら。
『じゃあ、気をつけて』
「……」
雪名が靴をはき、こちらに向き直る。
『それじゃ…』
ふわりと身体が包まれた。
抱きしめられているのだとわかると、なんだか胸の辺りがぎゅっとなった。
「また来ます…絶対に来ますから。」
『来なくていいよ学生さん。金は大事に使え。』
「……これが手練手管でも、身についた演技だとしても、俺は無理っス。」
『何が?』
雪名の肩口でボソボソと言葉を返す。
ゆっくりと身体を離した雪名は、複雑な表情を浮かべていた。
『雪名?』
「木佐さん凄く淋しそうな顔してるから…」
馬鹿な奴だなと思う。
いつもならそう思うんだ。
騙されやがってざまあみろと。
でも今日は…
俺は精一杯演技していた。
悲しいとか淋しいとか行かないで欲しいとかそういうの全部押し込めて、平然と務めているつもりだった。
でもお手上げ。
俺の負け。
俺は客に恋をした。
それは実ることのない初恋。
普通でも難しいのに、だん娼が客に恋をするなんて。
本当に馬鹿。