月刊小笠原諸島235

 

第4次 小笠原村 総合計画(後期5か年)素案 意見
                                                                               2024/02/28
                           延島冬生 
             
1.小笠原村平和都市宣言(1995/平成7年8月15日)
1.1.本計画はまったく触れていない。特に村の歴史・教育に欠かせないものであり、本計画もこの宣言に基づいていることを明記すべきである。
1.2.太平洋戦争・占領・返還の歴史のなかで、1時期、硫黄島と父島に核兵器が置かれていたことを踏まえ、ウクライナで核兵器が使われかねない現状では、小笠原村平和都市宣言に「核廃絶」を加え、「小笠原村核廃絶平和都市宣言」とすることを検討すべきである。
 
2.友好都市(1988年(昭和63年)東京都八丈町、山梨県櫛形町→南アルプス市)
  友好都市との提携、交流、学習、相互支援協力は、災害が頻発する現在、重要性を増しており、友好都市との交流強化をうたうべきである。
 なお、「小笠原村公式サイト」を検索すると、<友好都市>で、2件ヒットし、1は、「八丈町、櫛形町との友好都市提携」、もう1は、「リンク集一覧」で「友好都市 山梨県南アルプス市」が出てくるが、櫛形町と南アルプス市の関係は、何もふれていない。
 
3.行政サービスの向上
3.1.昼休み時間中の窓口開設をはじめ、定期船(おが丸)入出港に合わせた窓口開設等の行政サービスの向上をうたうべきである。
3.2.観光立島にそった、正月ごみ収集、児童保護行政サービスは、定住人口増加に不可欠である。
3.3.積極的情報公開
 少人数社会、少ない村職員の村では、村民に村の持っている情報を積極的に公開・共有しないと、村民の役場依存性を脱却できないし、社会の機能が崩壊し、村の過疎化が一層促進されることになる。情報公開請求があれば、考えるではなく、積極的情報公開をすべきである。

4.文化
 「生涯学習の理念」(教育基本法第3条)に基づく、生涯学習に必要な施設・施策の現状分析と課題、目標が欠落している。
 生涯学習に必要な施設は図書館と博物館であり、その設置とそれを支える専門職の確保が課題である。
 本計画の元となっている小笠原諸島振興・開発計画は返還後の小笠原諸島復興計画に始まりをみる。その当時、1960年代の東京都の行政サービスレベルの提供で、23区並みの道路整備、上下水道完備等を目指したが、博物館は都立は0,図書館は日比谷図書館1だけで地域福祉センター(村民会館)に、図書室を併設する程度であった。これが、今日でも引き継がれ、老朽化施設の更新だけが目的とされているのは、日本社会の発展を見ず、時代に合わせた村の継続・発展にはならない。
4.1.博物館
 博物館は、自然史博物館と歴史博物館(郷土資料館)に区分されるが、世界自然遺産指定地の当村では、両者ともに必置である。
 都立小笠原ビジターセンターや環境省小笠原世界遺産センターがあることによって、不要だとするのは、誤りである。両者とも、ビジター(観光客)を対象としており、開館日時も観光客滞在中の定期船入港中に限られている。
 また、展示の一部で小笠原諸島の紹介をしているが、博物館展示(教育・啓蒙)の元となる研究及び資料収集保存という不可欠な要素を欠いている。
4.1.1.郷土資料館は、村条例により母島にロース記念館が設置されている。この役割は、母島列島の歴史博物館分館と位置付けられる。
 父島に、小笠原諸島全体(火山列島、南鳥島・沖ノ鳥島を含む。)の歴史博物館設置が必要である。
4.1.2.自然史博物館と歴史博物館には、それぞれ専門職の学芸員の配置が欠かせない。ロース記念館では、学芸員を欠いたまま、指定管理者に委託しているので、資料収集、展示の更新が行われていないばかりでなく、施設の雨漏りも何年も放置されている状態である。
4.1.3.村文化財保護条例が制定され、一度指定されたが、指定で終りでは、文化財の保護も活用もできない。調査・指定・指定後の保存活用啓蒙活動に学芸員が必須である。
4.1.4.当村では、戦争・占領による歴史・文化の断絶が大きく、硫黄島は廃村されたまま再訪がままならぬ現状がある。これを埋め、継承する近代遺跡、戦跡を含む歴史博物館が生涯学習に不可欠である。
4.2.「村史」の編さん
 小笠原村が設置されて56年にもなるのに「村史」がないというのは、異常である。「返還〇〇周年誌」がいまだに頼りにされているが、各分野の専門家による検証を経たものではなく、公式見解とはなりえない。そのことにより、観光ガイドさんが苦労して、自前のガイドを行っているが、統一的な解説ではないものも散見される。「村史」の編さんも学芸員の欠かせない仕事である。「村史」の編さんをうたうべきである。
4.3.伝統文化の継承
 北西太平洋上の島で、先住民がいない無人島の先住移民は欧米人とハワイ・太平洋の人々で、その文化が本土からの開拓者の文化と融合し今も受け継がれている、文化的にも特異な村である。アウトリガーヌーの活用、シュロッパ葺き技術の継承・家屋の保存、タコの葉細工の継承、南洋踊り、「ピーマカ、タンブレン、島寿司」などの食文化、「ジョンビーチ、ワイビーチ、びーで祭、猪熊谷」などの英語やハワイ語、八丈方言等が混じる地名や動植物名などの言語があげられる。
  先住移民が伝え、本土からの開拓者の文化と融合した小笠原文化の継承と発展は重要である。
4.4.図書館とそのネットワークの整備
 人口2500人の村で、地域福祉センター(村民会館)内に図書室が、父島母島別々に置かれ、予算も運営も別々に行われている、しかも村立小中学校3図書室、都立小笠原高校図書館との連携もない。又購読していた新聞紙が2024年度から打ち切りになる。その上、第2集落として整備された扇浦方面には、図書室もなく利用が事実上制約されている。
4.4.1.父島図書館と扇浦分館を設置し、父島図書館に図書館司書を置き小笠原村内の総合図書センターとして、村立小中学校3図書室、都立小笠原高校図書、小笠原ビジターセンター図書室等とのデジタルによるネットワークを作り、都立中央図書館・国会図書館図書の貸出システムを充実させ、現状の都内区・市立図書館サービスと同等の生涯学習の環境をつくり、村民及び来島者の「生涯学習」を進める。
 
5.医療
5.1. デジタル遠隔医療・診断・措置・治療の実施
 重症化してからの急患搬送(航空機)という患者を少なくし、また診断のため内地の病院に通院する患者負担を軽減するため、
5.1.1. 専門診療科目(小児科、泌尿器科、精神科等)の増加及び回数増を図る。
5.1.2. 八丈島では既に始まっているデジタル遠隔医療・診断システムを導入し、診断・措置・治療の実施を行う。
 
6.福祉
 観光立島に基づき、定期船(おが丸)入出港に合わせた福祉の充実
6.1.保育園等の運営日・時間の弾力的設定。
6.2.学童保育により、保護者の帰宅時間までの小学生の福祉・教育を実施する。
 
7.防災
7.1.重複原因災害(台風、豪雨×津波,地震)に対処できる避難所整備、徒歩15分圏内に設置、ペット携行,バリアフリー避難所整備
7.2.消防計画作成、消防水利の基準(昭和三十九年消防庁告示第七号)に基づく防火水槽の設置(扇浦、北袋沢、清瀬集合住宅、高校、母島船見台・脇浜など)
7.2.1.消火栓があれば、防火水槽は要らないという方針で、防火水槽が設置されないままの状態が続いている。停電が長引けば水道は止まる、その時に火災は起こらないという前提は、成り立たない。災害時、水道が出ない状態が続いた場合、防火水槽の水は雑排水としても利用でき重要である。 

8.産業
8.1.母島郵便局開設、簡易局閉鎖。母島に唯一の金融機関を設置し、母島を本拠地とする事業者の経済活動安定を図り、産業振興をすすめる。

9.村内交通
9.1.父島・母島間、相互日帰り交通手段の確保
9.2.父島島内公共交通機関の充実、増便、ルート新設。
9.3.父島の通勤時間帯のシェアシステムなどの導入。

10.SDGs(エスディージーズ)
 持続可能な社会づくりのため、毎年、目標・結果・点検・修正を柔軟に繰り返し、小笠原諸島を未来に残す「SDGs」を明文化すべきである。

11.多様性
 多様な価値観、多様な文化・言語、性同一性障害(LGBT)、障がい者・健常者の区別なく暮らせる島を明文化すべきである。
 以上