山葉の綴りごと|物語小説

山葉の綴りごと|物語小説

自分の中で今起こっていることをこのブログに記録していきます。
さまざまな物事が絡み合って、でもきっと大きな一つの流れの中にいることをいつも思い知らされています。


  たくさんのブログの中から
「山葉の綴りごと」

    訪問してくださって ありがとうございます。

 

      高校生であることを辞めた千紗。

         北の漁場の娘みよ。

        愛人生活を続ける女医。

        父親を知らないよしお。

  未婚のまま孤児院から女の子を引き取り育てたとみ。


彼らの物語をむきどう さんのイラストに乗せて綴っていきます。

 

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バスの先頭座席は小さな子供の争奪席だ。

でもこのバスでは
わざわざ車輪の上の一段高くなったその席に座る人はおらず

私は運転席に座るおじさんの助手席のようになっている
先頭座席に座った。

おじさんが運転席に入ると
バスの発車を待っていた人たちも
ごそごそと乗り込んできた。

私はバスの助手席に座り、
気持ちをわくわくさせた。

ぶるんと車体を震わせエンジンがかかると
おじさんは私に合図をした。

合図の意味も解らずに私はこくりと頷いた。

おじさんの運転するバスは
しばらくは沼田のメイン通りらしき地域を走った。

二階建てがせいぜいの四角いビルが道路の両側にある。

道幅も広いし建物と建物の間ももったいないくらい広かった。

片側一車線の道路は渋滞する時間帯もないのだろう。

ましてや平日の昼だ。

走っている車も少なかった。




実際渓谷の生活はとても厳しいものだと思う。

静かだし自然しかないから空気は澄み渡っている。

他に望む物は何もないくらいに最高に素敵なところだ。

しかし渓谷には実は何もないのだ。

あの渓谷の家はいつでも
私を迎え入れてくれる場所で帰る場所だったけれど
おばあちゃんはこれからどんどん齢をとっていく。

おばあちゃんがあの家に居られる時間には
きっと期限があるのだ。

それもあまり遠くもない期限が。

「そろそろ行くか」

気が付くとぽつぽつと人が集まっていた。

おじさんは空になった弁当箱に蓋をした。

おばさんと別居しているなら
このお弁当はおじさんが作ったのだろうか。

「おじさんが、作るの?」

「誰も作ってくれないでしょ、
だからずっと自分で作っとるの」

ご飯にはびっしりとおかかが敷かれていて
その真ん中に赤い梅干しがあった。

おかずはさといもとしいたけとにんじんの煮物だったか。

ほうれん草のお浸しと細かくまかれたたまご焼きもあった。

「お料理上手なんだね」

おじさんはへへへと笑って

「先頭に座るか?」

と言った。



よしおちゃんはおばあちゃんちの裏に住む
白川のおばさんの孫だ。

その家にはいつもおばさんしか居なかったから
おじさんはもう死んでしまったのかと
勝手に思っていた。

それによしおちゃんからも
おじいちゃんがいるなんてことは
聞いたことがなかった。

「別居してんのよ」

「えっ?」

「ずっと。
よしおが子供ん時から。
俺は山のふもと、
みよさんは山の上」

「おばさんのことみよさんって呼ぶんだ」

「おかしい?」

「ううん、かっこいいよ」

「そうかあ。
でもそろそろおじさんが山の上に行くか、
みよさんが下りて来るかせんとなあ。
このままじゃまずいからな」

「けんかでもしたの? 別居しちゃって」

「けんかなのかねぇ。ようわからんの」





「でも学校は、いいとこだ」

「そうなの?」

「おじさんちの孫はもうじき全部学校終わるけ、
大変だぞぅ。
次の居場所を自分で見つなければだからなぁ。
居場所を見つけるのは大人の大きな仕事だよ」

「……」

「学校にいる間はここから出たい出たい思うけど、
でも実際出てしまったら
もうつい迷子になるよ」

私はおじさんの胸のバッジを見た。

「白川……さん」

「ああ」

おじさんはバッジをぱんぱんと押さえて
はははと笑った。

「お孫さんて。よしおちゃん」

「ええ? 知っとるの? よしお」

「おじさん、よしおちゃんのおじいちゃんなの?」

「そうだよぉ」

おじさんは少し離れ気味の目を見開いて
私をまじまじと見た。

私はみるみる顔が赤らむのがわかり、
体中が汗ばんだ。



「おねえちゃんはどこまで行くの?」

「吹割渓谷……」

「しげぞうさんちか」

「いいえ」

「ほんならとみさんちか?」

「はい」

「お孫さん?」

「そうです」

「そうかぁ」

運転手のおじさんは深い皺を目元から頬に寄せて笑った。

そして弁当をおいしそうに食べた。

私はその横でお茶を飲んだ。

「サボりか」

唐突におじさんが言った。

「……」

「勉強道具持って、とみさんち」

おじさんには私のカバンの中身が
今日の時間割の教科書とノートだということが
わかっているようだった。

「勉強はやーなもんだ」

「……」

「ともだちはめんどくさいもんだ」

「……」

「先生はウザったいもんだ」

「……」

「親はうるさいもんだ」

そんなことないですと言おうとして首を振ったが、
少し泣きそうになった。