日が落ちて、海水浴の客が引き揚げると、外がようやく静かになった。

    辺りが暗くなってしばらくすると、また花火でもしているらしい歓声や笑い声が響いていたが、やがてそれも聞こえなくなった。

    窓の外は、星がとても綺麗だった。満天の星空の下には、砂浜に寄せては返る波のシルエットが、ホテルの灯りでうっすらと映し出されていた。
    隣で眠る彼の背中は、寝息に合わせて上下している。
    少しだけ砂浜を歩きたくて、足下のワンピースを拾いそっとベッドを抜け出すと、軽い身支度をして部屋を出た。

   売店で買った安物のビーチサンダルは、案外履き心地がよかった。
   足の裏や指の隙間は、あっという間に砂だらけになり、灼熱の太陽に晒されて赤焼けた肌をチリチリと刺激する。
    でも、むしろそれが妙に懐かしくて、不快には感じなかった。

    この派手なワンピースに似つかわしい華やかなパンプスは、昼間に彼と砂浜を散歩したときに壊れ、表面のエナメルは剥げヒールが根元から折れた無惨な姿で部屋に転がっている。…あんな華奢な靴、作った人だって、よもや貝殻だらけの深い砂の上を歩かれるとは思ってもみなかったろう。

    お気に入りの靴だったのに。

    少しなら平気だろうという考えが甘かった。元々砂浜まで降りるつもりはなかったのだけれど、誘われてつい、エメラルドの煌めきを間近に感じたいと思ってしまった。