私は若いころ結婚したが、幸いなことに妻は私と性の合う気質だった。

私が家庭的な生きものを好きなのに気がつくと、彼女はおりさえあれば
とても気持のいい種類の生きものを手に入れた。

私たちは鳥類や、金魚や、一匹の立派な犬や・・・

うさぎや・・・ 

一匹の小猿や・・・

一匹の 猫、などを飼った・・・。

この最後のものは非常に大きな美しい動物で、体じゅう黒く、
驚くほどに利口だった。この猫の知恵のあることを
話すときには、心ではかなり迷信にかぶれていた妻は
黒猫というものがみんな魔女が姿を変えたものだという、
あの昔からの世間の言いつたえを、よく口にしたものだった。






もっとも 彼女だっていつでもこんなことを本気で考えていたというのではなく・・・

私がこの事がらを述べるのはただちょうど今ふと思い出したから、にすぎない。


プルート、というのがその猫の名であったプルートは私の気に入りであり
遊び仲間であった。食物をやるのはいつも私だけだったし、彼は
家じゅう私の行くところへどこへでも一緒に来た。

往来へまでついて来ないようにするのには、かなり骨が折れるくらいであった。

 私と猫との親しみはこんなぐあいにして数年間つづいたが、
そのあいだに私の気質や性格は一般に 酒癖という悪鬼のために・・・

急激に悪いほうへ変ってしまった。


私は一日一日と気むずかしくなり、癇癪”かんしゃく”もちになり、
他人の感情などちっともかまわなくなってしまった。

妻に対しては乱暴な言葉を使うようになった。
しまいには 彼女の体に手を振り上げるまでになった。

飼っていた生きものももちろん、その私の性質の変化を感じさせられた。

私は彼らをかまわなくなっただけではなく、虐待”ぎゃくたい”した。
けれども、兎や、猿や、あるいは犬でさえも、なにげなく、
または私を慕って、そばへやって来ると、遠慮なしに
いじめてやったものだったのだが、プルートをいじめないで
おくだけの心づかいは まだあった。しかし私の病気はつのってきて
・・・ああ、

 アルコールのような恐ろしい病気が他にあろうか! 

ついにはプルートでさえ、いまでは年をとって、したがっていくらか怒りっぽくなっている
プルートでさえ、私の不機嫌のとばっちりをうけるようになった。


 ある夜、町のそちこちにある自分の行きつけの
酒場の一つからひどく酔っぱらって帰って来ると、
その猫がなんだか私の前を避けたような気がした。
私は彼をひっとらえた。そのとき彼は私の手荒さにびっくりして、
歯で私の手にちょっとした傷をつけた。

と、たちまち悪魔のような憤怒”ふんぬ”が私にのりうつった。
私は我を忘れてしまった。

生来のやさしい魂はすぐに私の体から飛び去ったようであった。
そしてジン酒におだてられた悪鬼以上の憎悪が体の
あらゆる筋肉をぶるぶる震わせた。私はチョッキのポケットから
ペンナイフを取り出し、それを開き、そのかわいそうな動物の
咽喉”のど”をつかむと、悠々”ゆうゆう”とその眼窩”がんか”から片眼を
えぐり取った。この憎むべき凶行をしるしながら、

私は面”おもて”をあからめ、体がほてり、身ぶるいする。




 朝になって理性が戻ってきたとき・・・、

一晩眠って前夜の乱行の毒気が消えてしまったとき

・・・・・・。

自分の犯した罪にたいしてなかば恐怖の・・・なかば悔恨の情を感じた。

が、それもせいぜい弱い曖昧”あいまい”な感情で、心まで動かされはしなかった。

私はふたたび無節制になって・・・
間もなく、その行為のすべての記憶を 酒にまぎらしてしまった・・・。



エドガー アラン ポー 黒猫 より~

※本文は著作権切れ

THE BLACK CAT


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