別れてから女が再び男の家の敷居をまたぐことはなかった。
男の方は、学校を卒業して家庭を作って、時の過ぎゆくままに20数年が過ぎ去ってしまった。
それだけだったら、忘却の淵に置き去りにされたって言う事だけなんだが
運命はいたずらをするものなんだ!
20数年後、男は東京の真ん中、有楽座と云う所でうすら寒い宵に遭ったそうなんだ!
その時、男は奥さんと娘さんと一緒にコンサートを聞きに行ったらしい。
彼らが席についてしばらくするとその女が若い女に手をひかれて入ってきたんだ。
そして、男の隣の席に座ったんだ!
しかも女の方は昔と違って、目が見えなくなっていたのです。
だから、隣にどんな人が座っているか判らず、ただひたすら、舞台から流れる音楽に聞き入っていた。
女が隣に座った瞬間男の時間が逆戻りして、そして、黒い瞳をじっと据えて自分をみた面影が消えている女の表情に気がついて、目が見えなくなっているというのが判って愕然として心細い気持に陥ってしまった。