あなただけが私の愛する人

もう一度、ここに来て、

そして私を愛してください‥‥

 

パブリックスクールのスピンオフです!

レビューはこちら。

  やじるし

パブリックスクール -檻の中の王- -群れを出た小鳥- 」「−八年後の王と小鳥−

文庫と同じイーストン校。

エドはちらっと出るけど、

ストーリーに絡んでくることもないし、

全く新しい話なので既刊を未読でも問題ありません。

時期的には「−八年後の王と小鳥− 」のあとですね。

今回も主人公は日系イギリス人の少年桂人。

父親は日本人の俳優で蒸発、

母親はイギリス人でプライドが高いタイプ。

養父が困ったヤツ‥という。

桂人は愛を求め、与え、諦め、たどり着いた先に待っていたものとは‥。

 

樋口 美沙緒著「パブリックスクールーツバメと殉教者ー」

パブリックスクール -ツバメと殉教者- (文芸書) パブリックスクール -ツバメと殉教者- (文芸書)
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由緒ある伯爵家の長男で、名門全寮制パブリックスクールの監督生(プリフェクト)──。 なのに、制服は着崩し、点呼や当番もサボってばかりのスタン。 同じ学年で、監督生を務める桂人(けいと)は、密かにスタンを敬遠していた。 卒業まで、極力目立たず、無害な空気のように過ごしたい──。 そんなある日、桂人はスタンの情事を目撃!! 見られても悪びれず挑発するスタンに、桂人は優等生の仮面を剥がされてしまう。 さらに、二人一組で行う当番で、スタンのお目付け役を任されてしまい!? 栄えある寮代表(ヘッドボーイ)の座は、誰の手に──!? ノブレス・オブリージュの旗の下、 パブリックスクールを統治する、監督生たちの秘めた激情と恋!!

 

このシリーズがちょっと苦手な私ですが、

(面白いんだけど、もやもやがいつも残るの)

今回もかなぁ‥と構えていたんだよね。

 

最初はスタンの横暴さに、

ちょっと苦手なタイプだなと思っていたのよ。

だって、桂人の過去(養父にレ○プ)はかなり陰湿なものなのに、

スタンはその傷口に塩をぬるような事を言い放ったりするのよね。

だから、スタンに魅力を感じなかったんだけど、

読み進むうちにスタンの苦悩と秘密に

最初の頃の悪印象は綺麗になくなった。

 

樋口さんの作品はどの作品も「愛って何?」がテーマになっていて、

今回も親の愛に振り回された子供であるスタンと佳人が、

傷つけ合いながらも、互いに惹かれ合いそれを隠し、

でも思いが溢れてしまうというカポーでした。

私的には最初のエド&礼よりも

こちらのスタン&桂人の方が好みのカポーですかねぇ。

 

スタンは優秀だけどその優秀さを封印しているフシがあって、

露悪的に見せているんだよね。

色んな生徒とHしたりしてるし。

だけどよくよく観察していると、彼と関係を持った生徒というのは

落ちこぼれだったりで、スタンは何気に彼らの勉強面も

フォローしてあげている。(いい人になりたくないからHを代償にしているのだろうけど)

そしてスタンには双子の弟アルバートがいて、

このアルが、なんというか、、、

一番タチ悪いタイプというか・・・。

悪気なく傷つける、全然気付いてない、空気が読めない、

最初、わざとにやってんの?と思ったくらい。

このアルのバカなのかわざとなのかわからない反応に

イラッとしましたねーー。

なのに、スタンではなくアルが家督を継ぐことになるんですよ。

ここにスタンの苦悩が隠されていたわけだけど‥。

 

スタンは本当にアルのことを大切に思っていたので、

彼を守りたいという気持ちが強かったんだろうけど、

それが桂人という存在によって桂人のことも守りたいと思い、

だけどあっちもこっちもじゃ守れなくて‥。

でも桂人はスタンが思うほど弱い人間じゃないのだ。

桂人は桂人でもちろん、読んでて危うい部分がたくさんあるんだけど、

いざって時に肝が据わっているのは

実は桂人の方。

(桂人は義父からの仕打ちばかりでなく、最も愛して欲しかった母親から

半ばネグレクト気味で愛してもらえなかったのが一番のトラウマなのだ)

学園内で処世術に長け(それも長けていると思われないようなさりげなさ)、

とにかく毎日をやり過ごそうとだけを考えている。

最初の頃の桂人は半ば死んでる感じで、

あんまり生気を感じなかったんだけど、

スタンが絡むようになって、人間らしくなった気がしたな〜。

もともと備わっている性格が前面に出てきたというか。

それからは彼の魅力が皆にも広まって、

それはそれでスタンがやきもきしちゃうわけだけど〜w

 

スタンの抱える闇が重くて、

でもそれを桂人に告白したとき、

泣きながら「俺に死に場所を与えてくれ」と訴えるスタンに

一番胸がつまりました。

子供はどの時代でもどの立場でも、

親の愛情を受けたいと本能で思うもの。

それが受けられなかったり、いびつなものであれば

誰であっても傷つき、棘となって残ってしまう。

だけど、彼らは暗い闇から自力で脱することが出来た。

空気の読めないアルもまたしかり。

良い方向に収まって良かった。

(アルが変わってくれたのもほっとしたよ)