12月1日(日)
先月に比べたら、かなりの減。
分厚い本が多かったので、冊数が増えないのはしょうがないとして、一日当たりのページ数まで減ってしまったのは、体が動くようになってきて、読書以外に時間がとられるようになったから。
働きながら毎日1冊以上読む人って、どうやって時間を作っているのだろう。
★5つは2冊。
『かか』は、すごく薄い本で、読みにくい文体で、行ったり来たりするとりとめのない文章から、すごく重たい読後感を得ました。
母親に愛してもらいたいのに、否定されるばかりのかか。
「ババ」は毒親かもしれないが、「かか」だって、うーちゃんたちからしたら毒親だ。
だって自分のことばかりで、子どものことなんか全然見えてないもの。
だけどうーちゃんは、憎んでいるはずのかかの心を救うために、とんでもないことを考える。
女性という性の持つ身体性、心と身体の協調性、文体の持つ説得力。
圧倒された。
『タワー』
こういう、自分では絶対に思いつかない設定のSFって、読んでいてわくわくが止まらない。
ディストピア小説のはずなのに、そこはかとなく漂うユーモアににやにやしちゃう。
日本のSFだとタワーの内部を深掘りしそうだけど、タワーの外だってタワーの影響を受けるんだぜって書けるところが、韓国の作家かなあと思った。
11月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:7666
ナイス数:632
エイラ 地上の旅人(4) 野生馬の谷 下の感想
同族を探す旅に出なくてはいけないことが分かっていながら、彼らに拒絶されたらという不安から旅立てないエイラ。エイラより一足早く群れに戻ったウィニーだったが、連れ合いを亡くし、お腹に子を宿した姿でエイラのもとに戻ってくる。しかし、今度はベビーが一匹の雄ライオンとして巣立っていったのだった。そんな時、旅をしていたエイラと同族の兄弟がベビーの棲み処に忍び込み、弟のソノーランは即死、兄のジョンダラーが瀕死の状態でエイラに発見される。惹かれあうエイラとジョンダラー。しかし言葉や風習の差が、ふたりの理解を妨げる。★★★★☆
読了日:11月01日 著者:ジーン・アウル
かか (河出文庫)の感想
独特のかか弁で書かれた非常に読みにくい文体が、奇をてらったものではなく、必要だったのだなあと思う。すごい作家が誕生したものだ、と思った。19歳の浪人生うーちゃんの語る家族の姿は、実に歪だ。うーちゃんが母を求めてやまないように、かかもどれだけ顧みられなくてもババに愛してもらいたくてたまらない。だからうーちゃんはかかを憎む。そして徐々に壊れていく、かか。女性という性の持つ身体性。心と身体の協調性。文体の持つ説得力。なんかもうこれ、町田康に読んでもらいたいわ、と思ったら、解説が町田康だった。やっぱりね。★★★★★
読了日:11月02日 著者:宇佐見りん
『子宝船』 きたきた捕物帖(二) (PHP文芸文庫)の感想
事件はスッキリ解決、読後さわやかというわけにはいかない、もやもやドロドロしたものが多いのに、なぜこのシリーズが読みやすいのかと言えば、偏に北一の、若木のようなまっすぐなしなやかさに負うところが大きい。惜しむらくは「きたきた」捕物帳という割に、喜多次の活躍シーンが少ないこと。喜多次にしかできないアプローチで事件を解決に導くのはいいのだけれど、あくまで北一への手助け止まりで、相棒というにはほど遠い。身上の謎が解かれ行くとともに、北一との仲が深まることを期待している。★★★★☆
読了日:11月03日 著者:宮部 みゆき
三国志 (6の巻) (ハルキ文庫 き 3-6 時代小説文庫)の感想
なんか、だんだん飽きてきました、この三国志に。いろんな人が書いた三国志を読みましたが、これが一番オリジナル色が強い。呂布なんて、どんだけ好きなのよってくらい長い期間にわたって大活躍。けれど読みたいのは英雄伝ではない。三国志は戦う男たちの話であるとともに、国づくりの話でもあるはず。ところがそれが、浅い。『水滸伝』は、英雄譚だったので、この作者の筆の勢いでぐいぐい読めたけど、『三国志』は違うんだよなあ。次でやっと折り返し。先は長いな。★★★★☆
読了日:11月04日 著者:北方 謙三
テレヴィジョン・シティ 下の感想
文体に慣れたせいか、上巻よりはスムーズに読むことができた。バッドエンドのディストピア小説であることもわかった。そのうえで、読むのしんど!慣れたとはいえ、好きじゃないんです、こういう勿体つけた書き方。みんな、アナナスに説明をしない。説明を求めると「今は言えない」とか言って、結局最後まで言わない。終焉が迫っているのが分かっている時に、それってどうなの?最終的には閉じた環というよりも、下降する螺旋を想起しました。だって、彼らの世界って、生産がなくて消費からの廃棄ばかりじゃない。明るい未来を思い描きようがない。★★★★☆
読了日:11月05日 著者:長野 まゆみ
The MANZAI 2 (ピュアフル文庫)の感想
学校祭で行った漫才で、調子に乗って先生たちをおちょくったのが響いたのか、3年になってクラスが別々になった歩と秋本。行きがかり上、学校祭限定で漫才をしたはずなのに、懲りずにまた、今度は商店街の夏祭りでの漫才披露を歩に提案し続ける秋本。秋本がなぜこんなに歩に執着するのか、少しだけ理由が明かされたけど、そっち方向に話がいくの?まじで?そして、秋本に片思い中の美少女の名前が萩本っていうのは偶然なんだろうか、計算なんだろうか。萩の文字の中に秋が含まれていることが気になってしょうがない。QuizKnock見すぎ?★★★★☆
読了日:11月06日 著者:あさの あつこ
花まんま (文春文庫 し 43-2)の感想
彼の描く子ども時代の思い出って、『三丁目の夕日』のような温かみのあるオレンジ色がかかっている。私にはそのような懐かしい子ども時代の思い出っていうのがほぼないので、以前読んだときは、そこがピンとこなかった。今回久しぶりに読んでみて、やっぱり子ども時代を懐かしむ気にはなれないけれど、時代に対するノスタルジーというのは少しわかるようになった。日常に普通にある風景の中に、ふと見える死の影だったり、別れの切なさだったりが上手いと思う。大阪の下町の風景というのは、作者の作風と多分合っているんだろうな。知らんけど。★★★★☆
読了日:11月07日 著者:朱川 湊人
札幌乙女ごはん。コミックス版の感想
かなり以前に本屋さんで平積みになっていましたが、今日たまたま行った札幌市図書・情報館にあったので、読んできました。札幌で働くOLたちの恋愛事情に絡めた、実際のお店紹介マンガ。恋愛事情はさておき、合コン会場は美味しそうなお店が多いなあ。羨ましい。PASEOや4プラなど、もうない場所も多くて、今更実用向きではないが、カラオケMashが札幌のチェーン店だったことや、porocoがローカル雑誌だったことなど、今更知った情報に衝撃。
読了日:11月08日 著者:松本あやか
永遠の都 上 (潮文学ライブラリー)の感想
主人公は、幼い時に両親を亡くし、里親から奴隷商人に売られ、イギリスで乞食の売り上げを大人たちに取り上げらるなどして、生きる希望も手段もなかったところを、イタリア移民の医師に拾われたデイビット・ロッシィ。ヒロインはその医師の娘・ローマ。最初は話が全然見えなくて、ちんぷんかんぷんだったのだけど、読み進めるうちにこれは『モンテ・クリスト伯』のような面白い作品胃になるのではないかと思い始める。が、とりあえず思い始めたところで、続く。くう~。★★★★☆
読了日:11月09日 著者:ホールケイン
エイラ 地上の旅人(5) マンモスハンター 上の感想
エイラができすぎ。ひとりで生きてきたのだからしょうがないが、ネアンデルタール人の知識とクロマニオン人の発想力をかけ合わせた結果、誰も考えつかないようなことを実践してしまうのだ。動物と暮らし、動物を手なずけること。投石器という武器の改善と習得。薬師としての知識。そのうえたいそうな美人。それに比べたら言葉がたどたどしいとか、歌ったり踊ったりが苦手なんてかわいいもんじゃないのっていうか、それすらもチャームポイント10割増し。今のところ、狩のシーンはバイソンのみ。圧倒的狩り巧者エイラ。スーパーウーマン。★★★★☆
読了日:11月11日 著者:ジーン・アウル
タワーの感想
たぶん初めて読んだと思うのですが、想像以上に面白かったです韓国SF。674階建ての巨大なタワー国家「ビーンスターク」を舞台に繰り広げられる、緩くつながった連作短篇。最初の『東方の三博士―犬入りバージョン』がまず面白い。一番人気のある作品が『タクラマカン配達事故』らしい。私も一番好き。現実の世界は、ディストピアに向かっているのだろうか。それともこの作品から微かに漂う希望の光を信じていいのだろうか。★★★★★
読了日:11月12日 著者:ペ・ミョンフン
台所太平記 (中公文庫 た 30-58)の感想
一応、千倉磊吉(ちくららいきち)という作家の家で働く女中さんの話というフィクションの態を取っているけど、これは谷崎純一郎宅で働いていた女中さんたちの話。すべてがすべて完全実話じゃないかもしれませんが、この突拍子もなさは多分ほとんど実話。だからとても愉快に読んだ。折々挟まれる挿絵がまたいい。それぞれの女中さんの特徴を見事少ない線で書き表しているのだが、谷崎がモデルの千倉磊吉だけがうさぎの被り物をした三頭身に描かれているのはなぜだ?笑★★★★☆
読了日:11月14日 著者:谷崎 潤一郎
特捜部Q―自撮りする女たち― (ハヤカワ・ミステリ 1927)の感想
前回の事件で、捜査上の成り行きで心理療法を受けたQの3人。それぞれに心身に症状が出たけれど、ローセが一番影響が出ていたようで心配だったのだが、今作ではあれから2年、ローセがずっと不調だったことが分かる。今回の一連の犯罪は、どれもこれも身勝手な言い分の、暴力。今までのこのシリーズでは、毎回毎回虐げられた子どもたちの事件が扱われてきたのだけれど、今回は虐げられて育った子どものなれの果て、というか。次作までにローセが復帰できるのかはわからない。その時にローセが、自分が大切に思われていることを知ってくれていれば。★★★★☆
読了日:11月16日 著者:ユッシ・エーズラ・オールスン
少女小説から世界が見えるの感想
『若草物語』『家なき娘』『小公女』『赤毛のアン』『あしながおじさん』産業革命から始まる核家族と男女分業の家庭。植民地政策、階級社会、労働力としての子ども。大きく変わる社会の中で、自立した一人の人間として立ち上がる少女たちの時代。ほとんどが教師にならざるを得ないという、極めて狭い選択肢でも、前向きに。なんてことを全然考えなくても、やっぱり面白いのだこれらの小説は。自分らしく生きて、周りの環境さえ変えてしまえるだけのバイタリティを持つ彼女たち。いつまでも、いくつになっても、彼女たちは私の大切な存在だ。★★★★☆
読了日:11月17日 著者:川端 有子
(新装版)三国志 七の巻 諸王の星 (ハルキ文庫 き 3-47)の感想
うーん。初めて読む三国志が、この北方謙三の三国志だった人は、『赤壁の戦い』ってなんでそんなに有名なの?って戸惑っちゃうんじゃないかな。そのくらい、あっさり。しかも、すべてが周瑜目線。諸葛亮はただ「風が強いですな」と言っただけ。ここで活躍しないと、ほぼ諸葛亮の軍師としての活躍の場はないのでは?中国の歴史を知っている作者の眼を借りているかのごとく、先を見通した発言を繰り返す周瑜や曹操。少し鼻に付くようになってきた。今後はしばらく馬超の巻になるのかな。そして曹操亡き後は司馬懿がメインになるのかな。★★★★☆
読了日:11月19日 著者:北方 謙三
The MANZAI 3 (ピュアフル文庫 あ 1-3)の感想
夏祭りの特設ステージで漫才をやろう!いやだ!っで終わった前巻の直後から。肝心の夏祭りが、市の助成金撤廃のせいで、開催できないかもしれないことに。しかし新しい浴衣を買った森口、篠原の女子チームと、その浴衣姿を見たいと願う高原、蓮田の男子チームの下心により、規模を縮小しての夏祭り開催を実現させるのが今回のメイン。それにしても、ずっと「いやだ」と言い続けている歩のところに、毎日通い詰めて強引に漫才にもっていく秋本が、ちょっと気持ち悪い。ほかのことには気が回るのに、そこだけ歩の気持ち無視って。★★★★☆
読了日:11月20日 著者:あさの あつこ
改造版 少年アリスの感想
もともとの作品を読んでいないので、どこがどう改稿されたのかわからないまま読了。確かにデビュー作とは思えぬほどの緻密な世界観の構築。兄から借りた鳥類図鑑を学校に忘れ、取りに行かねばならない蜜蜂。お供するのは飼い犬の耳丸と親友のアリス。本を手にして安堵したとき、理科室から声がする。私たちが日常知っている世界とは違う理屈で回っていく世界。もしかして、私が知らないだけで、そうなのかもしれないなあと思わせる反面、やっぱり突拍子なくも感じる。そういうあたりが宮沢賢治っぽいなあ、と。★★★★☆
読了日:11月21日 著者:長野 まゆみ
魔法の文字の感想
今回の主人公はメギーではなく、ホコリ指です。そしてモーも、フェノグリオの書いた詩のせいで、勇敢な義賊の役割を与えられ、スネークヘッドと対峙します。大好きなホコリ指が自分の代わりに死んでしまったことで、言葉の力でホコリ指を生き返らせようと画策するファリッド。ここで次の巻に続きます。世界観が分かっているので、前作よりも読みやすくはあったのですが、何しろ800ページもあるもので、読み進めるのが大変でした。物語世界は作者のものなのか?死者をよみがえらせるということは?など、考えさせられることもたくさん。★★★★☆
読了日:11月23日 著者:コルネーリア フンケ
エイラ 地上の旅人(6) マンモスハンター 中の感想
前巻の最後、フレベクの反対の声は上がったが、無事エイラはマムトイ族ライオン簇(むら)の一員として迎えられることになった。エイラをめぐる三角関係は措くとして、マムトイ族の冬の過ごし方などの描写はやはり興味深い。雪に閉ざされた洞窟の中での蒸し風呂、祭り、手作業、春が近づくにつれ耐え切れなくなる悪臭。なるほどね~、と思うこと多々。(それが想像由来のものであれ)そしてエイラは子狼を育てることに…。★★★★☆
読了日:11月26日 著者:ジーン・アウル
永遠の都 中 (潮文学ライブラリー)の感想
イタリアの当局のせいで、幼いころに生き別れたロッシィとローマ。運命のめぐりあわせでロッシィは革命の指導者に、ローマは貴族の忘れ形見として再会した。で、いろいろあって、二人は相思相愛になるのですが(ってか最初から相思相愛だったよね)、それを許さないのが実質ローマの最高権力者である総理大臣・ボネリィ男爵。あの手この手で二人を引き離そうとする。ローマが男爵に別れを告げた次の日から、借金取りが続々やってくるという世知辛さ。貴族がすべて腐敗しているわけではないように、庶民だって絶対的な善人ではないんだよなあ。★★★★☆
読了日:11月27日 著者:ホールケイン
雪が白いとき、かつそのときに限り (ハヤカワ・ミステリ)の感想
陸秋搓の本は何冊か読んでいて、どれも割りと好きだ。けれどこの本は作者が好きだからというよりも、タイトルの美しさで手に取った。『雪が白いとき、かつそのときに限り』実際に雪は事件にとって重要なアイテムではあったけれど、このタイトルの意味としては、思春期の儚さと、その瞬発力・集中力の強さを表したものなのではないか。足跡のない白い雪に残された死体。最後に二人が交わす会話が哀しい。「普通も……とても貴重なものだって。それに大事にしないと、すぐになくなってしまうものだって」★★★★☆
読了日:11月28日 著者:陸 秋槎
双月高校、クイズ日和 (講談社文庫 あ 118-5)の感想
これはまたなんともすがすがしい青春小説ではないですか。
なのにクイズ同好会の面々は、「キモイ」とか「暗い」とか「オタク」とか言われてる。QuizKnock以前のクイズ好きって、こんな目で見られてたんですかねえ。7人のメンバーはそれぞれに悩みやコンプレックスを抱え、それは往々にして対立したりもするのだけれど、著者の眼は決して一人の方向だけを向いているわけではなく、メンバー同士の関係も7角形における対角線のように交差している。福留功男さんの解説もとてもよかった。★★★★☆
読了日:11月29日 著者:青柳 碧人
読書メーター
先月に比べたら、かなりの減。
分厚い本が多かったので、冊数が増えないのはしょうがないとして、一日当たりのページ数まで減ってしまったのは、体が動くようになってきて、読書以外に時間がとられるようになったから。
働きながら毎日1冊以上読む人って、どうやって時間を作っているのだろう。
★5つは2冊。
『かか』は、すごく薄い本で、読みにくい文体で、行ったり来たりするとりとめのない文章から、すごく重たい読後感を得ました。
母親に愛してもらいたいのに、否定されるばかりのかか。
「ババ」は毒親かもしれないが、「かか」だって、うーちゃんたちからしたら毒親だ。
だって自分のことばかりで、子どものことなんか全然見えてないもの。
だけどうーちゃんは、憎んでいるはずのかかの心を救うために、とんでもないことを考える。
女性という性の持つ身体性、心と身体の協調性、文体の持つ説得力。
圧倒された。
『タワー』
こういう、自分では絶対に思いつかない設定のSFって、読んでいてわくわくが止まらない。
ディストピア小説のはずなのに、そこはかとなく漂うユーモアににやにやしちゃう。
日本のSFだとタワーの内部を深掘りしそうだけど、タワーの外だってタワーの影響を受けるんだぜって書けるところが、韓国の作家かなあと思った。
11月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:7666
ナイス数:632

同族を探す旅に出なくてはいけないことが分かっていながら、彼らに拒絶されたらという不安から旅立てないエイラ。エイラより一足早く群れに戻ったウィニーだったが、連れ合いを亡くし、お腹に子を宿した姿でエイラのもとに戻ってくる。しかし、今度はベビーが一匹の雄ライオンとして巣立っていったのだった。そんな時、旅をしていたエイラと同族の兄弟がベビーの棲み処に忍び込み、弟のソノーランは即死、兄のジョンダラーが瀕死の状態でエイラに発見される。惹かれあうエイラとジョンダラー。しかし言葉や風習の差が、ふたりの理解を妨げる。★★★★☆
読了日:11月01日 著者:ジーン・アウル

独特のかか弁で書かれた非常に読みにくい文体が、奇をてらったものではなく、必要だったのだなあと思う。すごい作家が誕生したものだ、と思った。19歳の浪人生うーちゃんの語る家族の姿は、実に歪だ。うーちゃんが母を求めてやまないように、かかもどれだけ顧みられなくてもババに愛してもらいたくてたまらない。だからうーちゃんはかかを憎む。そして徐々に壊れていく、かか。女性という性の持つ身体性。心と身体の協調性。文体の持つ説得力。なんかもうこれ、町田康に読んでもらいたいわ、と思ったら、解説が町田康だった。やっぱりね。★★★★★
読了日:11月02日 著者:宇佐見りん

事件はスッキリ解決、読後さわやかというわけにはいかない、もやもやドロドロしたものが多いのに、なぜこのシリーズが読みやすいのかと言えば、偏に北一の、若木のようなまっすぐなしなやかさに負うところが大きい。惜しむらくは「きたきた」捕物帳という割に、喜多次の活躍シーンが少ないこと。喜多次にしかできないアプローチで事件を解決に導くのはいいのだけれど、あくまで北一への手助け止まりで、相棒というにはほど遠い。身上の謎が解かれ行くとともに、北一との仲が深まることを期待している。★★★★☆
読了日:11月03日 著者:宮部 みゆき

なんか、だんだん飽きてきました、この三国志に。いろんな人が書いた三国志を読みましたが、これが一番オリジナル色が強い。呂布なんて、どんだけ好きなのよってくらい長い期間にわたって大活躍。けれど読みたいのは英雄伝ではない。三国志は戦う男たちの話であるとともに、国づくりの話でもあるはず。ところがそれが、浅い。『水滸伝』は、英雄譚だったので、この作者の筆の勢いでぐいぐい読めたけど、『三国志』は違うんだよなあ。次でやっと折り返し。先は長いな。★★★★☆
読了日:11月04日 著者:北方 謙三

文体に慣れたせいか、上巻よりはスムーズに読むことができた。バッドエンドのディストピア小説であることもわかった。そのうえで、読むのしんど!慣れたとはいえ、好きじゃないんです、こういう勿体つけた書き方。みんな、アナナスに説明をしない。説明を求めると「今は言えない」とか言って、結局最後まで言わない。終焉が迫っているのが分かっている時に、それってどうなの?最終的には閉じた環というよりも、下降する螺旋を想起しました。だって、彼らの世界って、生産がなくて消費からの廃棄ばかりじゃない。明るい未来を思い描きようがない。★★★★☆
読了日:11月05日 著者:長野 まゆみ

学校祭で行った漫才で、調子に乗って先生たちをおちょくったのが響いたのか、3年になってクラスが別々になった歩と秋本。行きがかり上、学校祭限定で漫才をしたはずなのに、懲りずにまた、今度は商店街の夏祭りでの漫才披露を歩に提案し続ける秋本。秋本がなぜこんなに歩に執着するのか、少しだけ理由が明かされたけど、そっち方向に話がいくの?まじで?そして、秋本に片思い中の美少女の名前が萩本っていうのは偶然なんだろうか、計算なんだろうか。萩の文字の中に秋が含まれていることが気になってしょうがない。QuizKnock見すぎ?★★★★☆
読了日:11月06日 著者:あさの あつこ

彼の描く子ども時代の思い出って、『三丁目の夕日』のような温かみのあるオレンジ色がかかっている。私にはそのような懐かしい子ども時代の思い出っていうのがほぼないので、以前読んだときは、そこがピンとこなかった。今回久しぶりに読んでみて、やっぱり子ども時代を懐かしむ気にはなれないけれど、時代に対するノスタルジーというのは少しわかるようになった。日常に普通にある風景の中に、ふと見える死の影だったり、別れの切なさだったりが上手いと思う。大阪の下町の風景というのは、作者の作風と多分合っているんだろうな。知らんけど。★★★★☆
読了日:11月07日 著者:朱川 湊人

かなり以前に本屋さんで平積みになっていましたが、今日たまたま行った札幌市図書・情報館にあったので、読んできました。札幌で働くOLたちの恋愛事情に絡めた、実際のお店紹介マンガ。恋愛事情はさておき、合コン会場は美味しそうなお店が多いなあ。羨ましい。PASEOや4プラなど、もうない場所も多くて、今更実用向きではないが、カラオケMashが札幌のチェーン店だったことや、porocoがローカル雑誌だったことなど、今更知った情報に衝撃。
読了日:11月08日 著者:松本あやか

主人公は、幼い時に両親を亡くし、里親から奴隷商人に売られ、イギリスで乞食の売り上げを大人たちに取り上げらるなどして、生きる希望も手段もなかったところを、イタリア移民の医師に拾われたデイビット・ロッシィ。ヒロインはその医師の娘・ローマ。最初は話が全然見えなくて、ちんぷんかんぷんだったのだけど、読み進めるうちにこれは『モンテ・クリスト伯』のような面白い作品胃になるのではないかと思い始める。が、とりあえず思い始めたところで、続く。くう~。★★★★☆
読了日:11月09日 著者:ホールケイン

エイラができすぎ。ひとりで生きてきたのだからしょうがないが、ネアンデルタール人の知識とクロマニオン人の発想力をかけ合わせた結果、誰も考えつかないようなことを実践してしまうのだ。動物と暮らし、動物を手なずけること。投石器という武器の改善と習得。薬師としての知識。そのうえたいそうな美人。それに比べたら言葉がたどたどしいとか、歌ったり踊ったりが苦手なんてかわいいもんじゃないのっていうか、それすらもチャームポイント10割増し。今のところ、狩のシーンはバイソンのみ。圧倒的狩り巧者エイラ。スーパーウーマン。★★★★☆
読了日:11月11日 著者:ジーン・アウル

たぶん初めて読んだと思うのですが、想像以上に面白かったです韓国SF。674階建ての巨大なタワー国家「ビーンスターク」を舞台に繰り広げられる、緩くつながった連作短篇。最初の『東方の三博士―犬入りバージョン』がまず面白い。一番人気のある作品が『タクラマカン配達事故』らしい。私も一番好き。現実の世界は、ディストピアに向かっているのだろうか。それともこの作品から微かに漂う希望の光を信じていいのだろうか。★★★★★
読了日:11月12日 著者:ペ・ミョンフン

一応、千倉磊吉(ちくららいきち)という作家の家で働く女中さんの話というフィクションの態を取っているけど、これは谷崎純一郎宅で働いていた女中さんたちの話。すべてがすべて完全実話じゃないかもしれませんが、この突拍子もなさは多分ほとんど実話。だからとても愉快に読んだ。折々挟まれる挿絵がまたいい。それぞれの女中さんの特徴を見事少ない線で書き表しているのだが、谷崎がモデルの千倉磊吉だけがうさぎの被り物をした三頭身に描かれているのはなぜだ?笑★★★★☆
読了日:11月14日 著者:谷崎 潤一郎

前回の事件で、捜査上の成り行きで心理療法を受けたQの3人。それぞれに心身に症状が出たけれど、ローセが一番影響が出ていたようで心配だったのだが、今作ではあれから2年、ローセがずっと不調だったことが分かる。今回の一連の犯罪は、どれもこれも身勝手な言い分の、暴力。今までのこのシリーズでは、毎回毎回虐げられた子どもたちの事件が扱われてきたのだけれど、今回は虐げられて育った子どものなれの果て、というか。次作までにローセが復帰できるのかはわからない。その時にローセが、自分が大切に思われていることを知ってくれていれば。★★★★☆
読了日:11月16日 著者:ユッシ・エーズラ・オールスン

『若草物語』『家なき娘』『小公女』『赤毛のアン』『あしながおじさん』産業革命から始まる核家族と男女分業の家庭。植民地政策、階級社会、労働力としての子ども。大きく変わる社会の中で、自立した一人の人間として立ち上がる少女たちの時代。ほとんどが教師にならざるを得ないという、極めて狭い選択肢でも、前向きに。なんてことを全然考えなくても、やっぱり面白いのだこれらの小説は。自分らしく生きて、周りの環境さえ変えてしまえるだけのバイタリティを持つ彼女たち。いつまでも、いくつになっても、彼女たちは私の大切な存在だ。★★★★☆
読了日:11月17日 著者:川端 有子

うーん。初めて読む三国志が、この北方謙三の三国志だった人は、『赤壁の戦い』ってなんでそんなに有名なの?って戸惑っちゃうんじゃないかな。そのくらい、あっさり。しかも、すべてが周瑜目線。諸葛亮はただ「風が強いですな」と言っただけ。ここで活躍しないと、ほぼ諸葛亮の軍師としての活躍の場はないのでは?中国の歴史を知っている作者の眼を借りているかのごとく、先を見通した発言を繰り返す周瑜や曹操。少し鼻に付くようになってきた。今後はしばらく馬超の巻になるのかな。そして曹操亡き後は司馬懿がメインになるのかな。★★★★☆
読了日:11月19日 著者:北方 謙三

夏祭りの特設ステージで漫才をやろう!いやだ!っで終わった前巻の直後から。肝心の夏祭りが、市の助成金撤廃のせいで、開催できないかもしれないことに。しかし新しい浴衣を買った森口、篠原の女子チームと、その浴衣姿を見たいと願う高原、蓮田の男子チームの下心により、規模を縮小しての夏祭り開催を実現させるのが今回のメイン。それにしても、ずっと「いやだ」と言い続けている歩のところに、毎日通い詰めて強引に漫才にもっていく秋本が、ちょっと気持ち悪い。ほかのことには気が回るのに、そこだけ歩の気持ち無視って。★★★★☆
読了日:11月20日 著者:あさの あつこ

もともとの作品を読んでいないので、どこがどう改稿されたのかわからないまま読了。確かにデビュー作とは思えぬほどの緻密な世界観の構築。兄から借りた鳥類図鑑を学校に忘れ、取りに行かねばならない蜜蜂。お供するのは飼い犬の耳丸と親友のアリス。本を手にして安堵したとき、理科室から声がする。私たちが日常知っている世界とは違う理屈で回っていく世界。もしかして、私が知らないだけで、そうなのかもしれないなあと思わせる反面、やっぱり突拍子なくも感じる。そういうあたりが宮沢賢治っぽいなあ、と。★★★★☆
読了日:11月21日 著者:長野 まゆみ

今回の主人公はメギーではなく、ホコリ指です。そしてモーも、フェノグリオの書いた詩のせいで、勇敢な義賊の役割を与えられ、スネークヘッドと対峙します。大好きなホコリ指が自分の代わりに死んでしまったことで、言葉の力でホコリ指を生き返らせようと画策するファリッド。ここで次の巻に続きます。世界観が分かっているので、前作よりも読みやすくはあったのですが、何しろ800ページもあるもので、読み進めるのが大変でした。物語世界は作者のものなのか?死者をよみがえらせるということは?など、考えさせられることもたくさん。★★★★☆
読了日:11月23日 著者:コルネーリア フンケ

前巻の最後、フレベクの反対の声は上がったが、無事エイラはマムトイ族ライオン簇(むら)の一員として迎えられることになった。エイラをめぐる三角関係は措くとして、マムトイ族の冬の過ごし方などの描写はやはり興味深い。雪に閉ざされた洞窟の中での蒸し風呂、祭り、手作業、春が近づくにつれ耐え切れなくなる悪臭。なるほどね~、と思うこと多々。(それが想像由来のものであれ)そしてエイラは子狼を育てることに…。★★★★☆
読了日:11月26日 著者:ジーン・アウル

イタリアの当局のせいで、幼いころに生き別れたロッシィとローマ。運命のめぐりあわせでロッシィは革命の指導者に、ローマは貴族の忘れ形見として再会した。で、いろいろあって、二人は相思相愛になるのですが(ってか最初から相思相愛だったよね)、それを許さないのが実質ローマの最高権力者である総理大臣・ボネリィ男爵。あの手この手で二人を引き離そうとする。ローマが男爵に別れを告げた次の日から、借金取りが続々やってくるという世知辛さ。貴族がすべて腐敗しているわけではないように、庶民だって絶対的な善人ではないんだよなあ。★★★★☆
読了日:11月27日 著者:ホールケイン

陸秋搓の本は何冊か読んでいて、どれも割りと好きだ。けれどこの本は作者が好きだからというよりも、タイトルの美しさで手に取った。『雪が白いとき、かつそのときに限り』実際に雪は事件にとって重要なアイテムではあったけれど、このタイトルの意味としては、思春期の儚さと、その瞬発力・集中力の強さを表したものなのではないか。足跡のない白い雪に残された死体。最後に二人が交わす会話が哀しい。「普通も……とても貴重なものだって。それに大事にしないと、すぐになくなってしまうものだって」★★★★☆
読了日:11月28日 著者:陸 秋槎

これはまたなんともすがすがしい青春小説ではないですか。
なのにクイズ同好会の面々は、「キモイ」とか「暗い」とか「オタク」とか言われてる。QuizKnock以前のクイズ好きって、こんな目で見られてたんですかねえ。7人のメンバーはそれぞれに悩みやコンプレックスを抱え、それは往々にして対立したりもするのだけれど、著者の眼は決して一人の方向だけを向いているわけではなく、メンバー同士の関係も7角形における対角線のように交差している。福留功男さんの解説もとてもよかった。★★★★☆
読了日:11月29日 著者:青柳 碧人
読書メーター