11月って短くない?
大阪旅行から帰ってきて、ぼーっと過ごしたのもあるのかもしれない。
有休消化のため、11月から金曜日に休むことにしたのもあるのかもしれない。
何をしたという記憶もないまま、ひと月が過ぎてしまった。
12月は逆に忙しい予定なので、本、読めるかなあ…。

★5つはなんと6冊。
ぼーっと過ごした割に、よい本を読んでいた。

『硝子戸のうちそと』と『ツボちゃんの話』は、ともに文筆家の夫との別れを書いたもの。(『硝子戸のうちそと』はそれだけではないが)
半藤一利、坪内祐三、どちらも私が尊敬してやまない人であるので、その最期がともに静かな訪れだったことに安堵した。
夫婦のありかたはそれぞれだけど、全くの信頼を置いているのが見える繫がりが共通していて、その後に読んだ『木曜殺人クラブ』とともに、老いの生き方についてすごく考えるきっかけとなった。
たくさん読んで、善く死にたい。

『クジラアタマの王様』は、実に伊坂幸太郎らしい作品。
彼は犯罪者を書くことも多いけれど、人知れず悪と戦う人を書くことも多い。
悪は手段を問わないので、往々にしてそれはひどい痛みを伴う。
肉体的に、精神的に、社会的に。
なんで善を行う方が痛いんだよ!と思いながら読み進めて、最後は泣き笑いのように心は温かくなる。
コロナ前に書かれた感染症の流行で閉塞感漂う世の中や、痛みを伴わない正義の暴走の反転など、相変わらず世の中を見る目が鋭いのもさすが。

『戦前尖端語辞典』。
辞書を読むのが好きで、こういうある種極端な辞典って本当に好き。
勉強のためだけではなく、読んで楽しい辞書って、それだけで存在に★5つ。

『クリスマス人形のねがい』。
ルーマー・ゴッデンは少女の孤独や不安を書かせたら右に出る者はいない作家だと思う。
最終的にはクリスマスの話なので、幸せになるだろうことは予想できるんだけど、まあ、びっくりするほどのハッピーエンドなのも嬉しい。


11月の読書メーター
読んだ本の数:21
読んだページ数:5931
ナイス数:546


硝子戸のうちそと硝子戸のうちそと感想
夏目漱石の孫である著者が『硝子戸のうちそと』なんて本を出したら、それは夏目漱石に関する思い出だと思うじゃない?確かに最初こそ漱石だったり、その妻の鏡子の思い出を書いてあるけれど、ほとんどは身辺雑記。ご近所さんとのやり取りなんかは、こんなに赤裸々に書いていいのだろうかと心配になるくらい。そして最後は夫である半藤一利の晩年の様子。こちらもまた赤裸々。キリっと切れ味のある文章は、彼女が江戸っ子だからなのでしょうか。「墨子を読みなさい。」半藤一利の最後の言葉の重さを、私たちも受け止めなければならない。★★★★★
読了日:11月01日 著者:半藤 末利子

吃音: 伝えられないもどかしさ (新潮文庫 こ 71-1)吃音: 伝えられないもどかしさ (新潮文庫 こ 71-1)感想
身近に吃音の人はいないけれど、仮にいたとして、子どもの頃に出会ったとしても、多分私はからかったりすることはない。けれど、彼らがどれほど苦しんでいるのかを理解もしなかったのではないか。一見大したことなさそうだけれど、当事者の悩みは様々だ。人に知られたくないと思う人、理解してもらって少しの配慮が必要な人、個性として見てほしい人、障碍者として扱ってほしい人。当人たちの性格もそれぞれ、環境もそれぞれ。ひとくくりにできる正解なんてない。だからこそ、もっと彼らの話を聞いて、もっと理解を深めなくてはならないと思った。★★★★☆
読了日:11月02日 著者:近藤 雄生

クジラアタマの王様 (新潮文庫)クジラアタマの王様 (新潮文庫)感想
クジラアタマの王様?ハシビロコウの話?まさかね。本当に一ひねりも二ひねりもある、ハシビロコウの話でした。理不尽な何かに巻き込まれ、わけもわからずのっぴきならない羽目に陥る主人公たちは、伊坂幸太郎の定番。軽妙な会話と飄々とした岸の性格のおかげで、テンポよく話は進む。理不尽に巻き込まれても、チームプレーでピンチを回避する爽快感。3/4までは順風満帆。新型インフルエンザの恐怖が世の中を席巻する。小さなエピソードもすべて伏線として回収していく手練れの技に、ページを繰る手がとまりませぬ。★★★★★
読了日:11月03日 著者:伊坂 幸太郎

クイズで88本ノック 最強クイズ集団からの“謎解き"挑戦状クイズで88本ノック 最強クイズ集団からの“謎解き"挑戦状感想
88問中60問くらいを山本さんが作問と聞いて購入。子どもから大人まで楽しめるとあるが、すべての漢字にルビがふってあるので概ね子ども向けだろう。謎解き初心者としては、傾向と対策をつかむための良書。できれば山本さんが謎解き班にいる間に読みたかった。ふくらPが、一冊の本を、100%正解できるようになるまで何回も読みこみ、「できる(ようになった)自分」に喜びを感じることが勉強のモチベーションであるのに対し、伊沢さんや山本さんは、「知らないことに出合う」に喜びを感じるという。どちらもありだと思うけど、私は後者だな。★★★★☆
読了日:11月04日 著者:QuizKnock

ねぎぼうずのあさたろう〈その8〉にんにくにきち はしる! (日本傑作絵本シリーズ)ねぎぼうずのあさたろう〈その8〉にんにくにきち はしる! (日本傑作絵本シリーズ)感想
あさたろうから離れてにんにくにきちが何をしていたのか、のお話。9歳の時に家を出た母を探して、にきちは旅に出ることにしました。とちのみこぞうに、「それらしい人がいる」と聞いて、あさたろうに告げず会いに行きます。しかし、母が営んでいる料亭は悪者一味に狙われていて…。いい話ですが、一つ気になるのが、にきちの顔。盗人のような風体に母親は警戒しますが、もともと盗人顔じゃないか?それとも母と生き別れた後のすさんだ生活が、にきちの顔を大きく変えてしまったのでしょうか。うーむむ。★★★★☆
読了日:11月05日 著者:飯野和好

ただ栄光のためでなく (集英社文庫)ただ栄光のためでなく (集英社文庫)感想
ノンフィクション・ノベルとはこれ如何に?どうも作者が作家になる前に石油業界で長らく働いていたところから、結構事実に即してもいる小説ということでしょうか。展開が早いし、敵味方がはっきりしているので、読みやすいし楽しい。伏線もめっちゃわかりやすくて、全然隠れてないんだけど、それも良しとしよう。ただ、主人公の佐伯を引き取って育ててくれた槙原が病に倒れたあとがいけない。プロットにちょっと難があるけれど、ストーリーは面白くて、2日かかるかと思われた本書を1日で読んでしまった。★★★★☆
読了日:11月06日 著者:落合 信彦

となりのアインシュタインとなりのアインシュタイン感想
子ども向けの相対性理論の本。章のタイトルはそれぞれ「光のきもち」「たましいの重さ」「鏡の中のひかり」「虹の彼方」「時間の環」「宇宙の蜃気楼」「時空の檻」「はじまりの前、無限の向こう側」身近なところからだんだんスケールが大きくなっていきます。でも、私たちの住むこの世界は、身近なところから、遠く離れた宇宙の果てまでひとつながりで繋がっているというのは、心が大きく広がっていく心持ちになります。大きな世界を感じたところで、もう一回読もう。★★★★☆
読了日:11月07日 著者:福江 純

ハッピーバースデーハッピーバースデー感想
学校でのいじめの話でも読んでいて辛いのに、それに加えて、親が自分の子どもに対して無視したり心ない言葉をぶつけたりするのは本当につらい。主人公のあすかは、母親から「あすかなんて生まなきゃよかった」と言われて育つ。明日香はお母さんのこと好きなのに、お母さんはお兄ちゃんの直人だけを可愛がる。あまりに辛すぎてとうとう声を出すことができなくなったあすか。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、ひとりの不幸な子どもの周囲には何人かの不幸な大人がいるのかもしれないと思いました。もちろんそれは免罪符にはなりませんが。★★★★☆
読了日:11月08日 著者:青木 和雄,吉富 多美

アンデルセン童話集 (1978年) (国土社版世界の名作〈20〉)アンデルセン童話集 (1978年) (国土社版世界の名作〈20〉)感想
アンデルセンのすごいところは、たった一人で一発逆転『みにくいあひるの子』から、ザ悲劇の『人魚姫』や『マッチ売りの少女』、因果応報の『赤いくつ』など、いろんなパターンで優れた童話を書いたことだと思います。まあちょっと『木の精ドリアーデ』のように、主義主張が前面に出過ぎのものもありますが。『父さんのすることはいつもよし』は、逆わらしべ長者の話。物を交換するたびに損をしているんだけど、最終的に夫婦の絆で大逆転。だけど、私はこの父さんを信じることはできないな。絶対怒っちゃう。★★★★☆
読了日:11月09日 著者:ハンス・クリスチャン・アンデルセン

間章著作集II 〈なしくずしの死〉への覚書と断片間章著作集II 〈なしくずしの死〉への覚書と断片感想
原題は「クレジット払いの死」で、生まれ落ちたときから「死」に向けて少しずつ命を支払っていくのが人生、という意味でしょうか。作家である主人公のフェルディナンの、悲惨で、理不尽で、非衛生的でシュールな半生が、延々と書かれています。ストーリーは特になし。さらに暴力的なシーンとか、糞尿のシーンとかも多くて、脳がちっとも喜ばない。下巻読むのはどうしようかなあ…と思っていたはずなのに、うっかり図書館に予約してしまったから、きっと読むんだろうなあ。★★★☆☆
読了日:11月12日 著者:間章

高瀬庄左衛門御留書高瀬庄左衛門御留書感想
2年前に妻を亡くし、跡継ぎもないまま息子も事故死。仕事の合間に絵を描くことで、ゆっくりと死んでいこうとしている高瀬庄左衛門。しかし彼は、そうするにはあまりに真っ当な人だった。実家に帰した嫁は、庄左衛門に絵を習いに5日に一度ほど通って来るが、彼女の弟の不審な行動を止めたことから、ゆるやかに流れていた彼の人生が大きく変わる。…のだけれど、ドラマチックに大きく転換するわけではない。あくまでも庄左衛門のペースでじっくりと話は進む。だからといって中だるみのようなものもない。手練れの技だな。★★★★★
読了日:11月14日 著者:砂原 浩太朗

戦前尖端語辞典戦前尖端語辞典感想
江戸時代ならまだしも、大正8年から昭和15年までに出版された新語・流行語辞典に、どれほど知らない言葉があるかと思ったら、大概知りませんでしたね。明治維新後、外来語と海外の思想や文化がどっと日本に押し寄せてきたのが、少し落ち着いてきた大正から昭和の戦前まで。融通無下に海外の言葉や思想を日本語に落とし込んで使っています。辞書なので、語釈や例文もありますが、当時の語釈だけでは今はわかりにくいので、突っ込みとして現在の解説もついています。いろいろ愉しい読書でした。★★★★★
読了日:11月15日 著者:平山 亜佐子

牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って牙: アフリカゾウの「密猟組織」を追って感想
本のページを開くと思ったより大きな文字と広い行間。あれ?ポプラ社の本かな?違いました。老眼に優しい体裁ですが、中身はぐっと読みごたえありです。というか、心が痛くて腹が立ちます。象牙、なんですよね、狙いは。正義感があって行動力もある若者たちが、環境保全のレンジャーとして密猟者たちに殺されているという現状。人の命より象牙が大事か?人として恥ずかしいし、悔しい。★★★★☆
読了日:11月17日 著者:三浦 英之

ねぎぼうずのあさたろう その9 (日本傑作絵本シリーズ)ねぎぼうずのあさたろう その9 (日本傑作絵本シリーズ)感想
その5に登場したきゅうりのきゅうべえが再び登場。しかし顔色が悪い。何かあったのか?と思ったけれども、古漬けのような顔いろの理由は特に明かされず、きゅうべえはあさたろうのねぎじるを今一度浴びたいというのです。年貢米を襲う一味の用心棒のきゅうべえ。あさたろうとしては見逃すわけにいかず、ねぎじるを飛ばします。ねぎじるを浴びたきゅうべえは刀を捨て、真っ当に生きることになった(らしい)。残すところあとわずか。落としどころはいったいどこだ?★★★★☆
読了日:11月18日 著者:飯野 和好

クリスマス人形のねがい (大型絵本)クリスマス人形のねがい (大型絵本)感想
アイビーは、セント・アグネスという家(はっきり書いてはいないが、孤児院)で暮らす6歳の少女。ホリーは箱から出されたばかりのクリスマス人形。おもちゃ屋さんのウインドウに飾られますが、結局ホリーを選んでくれる女の子はいませんでした。ルーマー・ゴッデンって、子どものかなしみ・不安を書かせたら右に出る人はいないと思うの。6歳の少女の孤独と、それに負けない強い心に、現実はそんなに甘くないよと思いながらも、ついアイビーの幸運を祈ってしまう。ルーマー・ゴッデン×バーバラ・クーニ―、最高です。★★★★★
読了日:11月19日 著者:ルーマー ゴッデン

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)感想
小学生の時PTA文庫にでもあったのだと思うのですが、文庫の江戸川乱歩を読んで、激しいショックを受けました。怖い。気持ち悪い。トラウマになって、その後江戸川乱歩はほとんど読まなかったと思います。今回この本を読んで、なぜあれほどまで怖かったのか、その理由が分かりました。光景が目に浮かぶのですよ。屋根裏から毒薬を垂らすところも、椅子の中に忍んだ人の感触も、闇の中に浮かび上がる芋虫のようなあれも…。ただ、さすがに私も大人になりましたので、「そうはならんだろう」という部分も見えてきました。今後は大丈夫と思います。★★★★☆
読了日:11月21日 著者:江戸川 乱歩

金正日暗殺指令 (小学館文庫)金正日暗殺指令 (小学館文庫)感想
タイトルは結構衝撃的だけれども、作品のほとんどはアメリカと韓国それぞれの作戦に対する下準備と、主人公たちの現在・過去。最初この本を図書館に予約しようとしたとき、直後に私が不審死したら、間違いなく原因はこの本だな、と思ったのですが、北朝鮮の内情についてはほとんど詳しいことは書かれていないので、大丈夫です。(でも、死んだらこの本のせいね)実際には暗殺されていないことをわかっているわけですから、どうやって作戦を失敗させるのか、が肝になるのですが、そんな事も気にならないくらい面白くて一気に読みました。★★★★☆
読了日:11月22日 著者:落合 信彦

すべての雲は銀の…(上) (講談社文庫)すべての雲は銀の…(上) (講談社文庫)感想
のっけから主人公は、彼女を兄貴に奪われてうじうじモード。なんか『おいしいコーヒーのいれ方』の勝利を彷彿させて、眉間にしわを寄せながら読み始める。失恋の痛手を忘れるため、主人公の祐介は、親友の紹介で菅平の宿で住み込みのバイトを始める。たかが数ヵ月できれいに心の整理ができるわけもなく、衝撃の展開で上巻は終わる。でも、「おいしいコーヒーのいれ方」とは違って、主人公はやや前向きだし、ストーリーは進んでいるので、思っていたより全然楽しく読むことができた。★★★★☆
読了日:11月24日 著者:村山由佳

ツボちゃんの話: 夫・坪内祐三ツボちゃんの話: 夫・坪内祐三感想
名前のせいか文体のせいか、年配の人を想像していたのに、たったの62歳で急逝しちゃったんだよ。2年くらい前から体調が悪かったって…若すぎるよ。偏屈で、怒りっぽくて、人見知りで、酒飲みで、多分簡単に仲良くなるのは難しい人。だけど、著者が描くツボちゃんは、なんてキュートなんだろう。亡くなった日のことを書いた第一章を読んで胸が痛み、途中クスクス笑ったりハラハラしたりしながら最後まで読んで、夫婦って切ないなと思う。一緒に亡くなるのはまれなことで、大抵はどちらかが残される。覚悟だけはしておかないとなあ…。★★★★★
読了日:11月25日 著者:佐久間 文子

ヒトコブラクダ層ぜっと(上)ヒトコブラクダ層ぜっと(上)感想
ゼロから物語を創り出せる人を尊敬している。でも、万城目学はレベチ。とりあえず三つ子の話。梵天、梵地、梵人の3人は中学生の頃から3人で暮らしている。運命の女神は彼らを(意思に反して)自衛隊に送り込み、訓練が終了したと同時にイラクへと誘う。あれよあれよと流される3人。とりあえず予想したことを書いてみる。多分、イナンナの正体は、突拍子がないと言われてもイナンナだ。そして、3人が連れてこられたのは、ありえないと言われてもアガデだ。で、世界観としては『ジュマンジ』みたいな?さて、実際はどうだろう。★★★★☆
読了日:11月27日 著者:万城目 学

木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ(1971))木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ(1971))感想
高齢者用施設(日本で考えるよりもずっと規模が大きく、自由度が高い)に暮らす「木曜殺人クラブ」のメンバー4人は、確かに頭はしっかりしているし(怪しい人もいるが)行動力もあるけれど。そしてその他の入居者も、それぞれに得意分野に秀でた人たちばかりで、実際の殺人事件の捜査も警察顔負けにやってしまう。でも、だからこそ、警察を出し抜いて犯人を見つけた後の対応にモヤモヤ。それでもなんとなく、シリーズの続きが気になる。文章のクセにも慣れてきた。次を読んだら、もう少し楽しめるかしら。★★★★☆
読了日:11月29日 著者:リチャード オスマン


読書メーター