秋の夜長に読書の秋、読書の外圧は高いのに、あんまり本が読めませんでした。
旅行に行った、というのもありますが、読書以外に時間を使いすぎてます。
パズルとかゲームとか勉強とか動画視聴とか…。
でも、今回はちょっと苦手分野の、または難しい本が多かったというのもあります。
難しい本に時間を取られ、得意の小説でペースをつかめず、パズルやゲームに逃げるという負のスパイラル。
今月は虚心坦懐に読書に向き合いたいと思います。
ということで、★5つは2冊。
『星界の紋章』は、登場人物たちはみんなそれぞれに必死なのだけど、読んでる分にはとにかく楽しくって、まったく屈託なく読めました。
シリーズが進むにつれて欠点も見えてきたけれど、それでもこの楽しさは★5つだったので。
『安楽死を遂げた日本人』は逆に、最初から最後まで「死」について「生」について考えざるを得ない作品でした。
まだ大丈夫と思いたいけれど、人はいつ死ぬかわからないので、自分はどうしたいのかを考えて、周囲の人に伝えておくのは大切なことだと思いました。
10月の読書メーター
読んだ本の数:21
読んだページ数:5948
ナイス数:633
風立ちぬ/菜穂子 (小学館文庫)の感想
「風立ちぬ」はまだ、節子とその父親の互いを思いやる心情とか、節子が語り手の私を精神的に支えようと努めるところなどがあるが、「菜穂子」に至っては、母と娘の冷たい断絶、夫婦の間の無関心、恋人への自分勝手な怒りなど、ちょっと読んでいてイライラした。解説も、この作品の解説は書けなかったのか、宮崎駿の映画について多くの文字を費やしているくらいだった。私が日本近代文学が苦手だからなのかな。サナトリウム文学を読むなら、『魔の山』で充分。宮崎駿の映画「風立ちぬ」には感動したけれど、今これを読むべき需要はあるのかなあ。★★★★☆
読了日:10月01日 著者:堀 辰雄
星界の紋章〈1〉帝国の王女 (ハヤカワ文庫JA)の感想
高校生の頃SFを読み始めたきっかけがスペースオペラだったので、とにかく楽しい読書でした。30年くらい前の作品。今っぽく尖ってなくて、ほんと好きだわ。50ページくらいで次々に場面転換するので、テンポよく読めるのもいい。そして猛烈に次巻が気になる。よい本に巡り合えました。”けれども、彼らは誠忠と隷属の区別をちゃんとつけていたものだ。”これ、大人として大事なことだよね。★★★★★
読了日:10月03日 著者:森岡 浩之
邪馬台 蓮丈那智フィールドファイルⅣ (新潮文庫)の感想
蓮丈那智シリーズ唯一の長編ですが、実に実に読みごたえがありました。確かにこじつけなんですよ、いろいろと。だけど圧倒的な知識、造形の深さに、わくわくとひれ伏してしまう。ただ、全体を通じて書かれる謎は、多岐にわたりすぎて、結局何が書かれていたのかがわかりにくくなっている。というのも、全体の6割ほどを書いたまま作者が亡くなってしまい、続きを公私にわたるパートナーが書いたものだから、だと思う。古代の陰謀については複雑すぎて理解が追いついていないのだけど、卑弥呼と神功皇后が同時代に生きていたというのは目からウロコ。★★★★☆
読了日:10月04日 著者:北森 鴻,浅野 里沙子
黒牢城の感想
はっきり言って期待外れ。まず、歴史小説としてマイナーな題材なので、それを補足するためにどうしても長くなってしまいます。どちらかというと米澤穂信の場合、長編より短篇の切れ味が好きなので、これは嗜好の問題ですが。さらにミステリとしても、探偵役の黒田官兵衛にさほどの魅力がない。肝心の謎は、4つの章それぞれの謎、全部分かりました。ミステリファンなら簡単でしょ?村重が見たくないところに真実がある。ミステリならミステリ、歴史小説なら歴史小説と、割り切って書いたほうが良かったのでは、と思う。★★★★☆
読了日:10月08日 著者:米澤 穂信
サスツルギの亡霊 (講談社文庫)の感想
南極の昭和基地が舞台の、クローズド・サークル・ミステリー。限られた人間関係の中で、誰が敵で誰が味方なのかわからない。というか、主人公自身が、自分の立ち位置をわかっていない。何があっても怪しいし、なにを言われても怪しい。動けば動くほど何者かにからめとられていくような閉塞感が心地よい。そして文章が読みやすいので、ぐいぐい読み進められる。結末は、誰も幸せにならないような気がするのだけど、どうなんだろう。★★★★☆
読了日:10月10日 著者:神山 裕右
ねぎぼうずのあさたろう〈その6〉みそだまのでんごろうのわるだくみ (日本傑作絵本シリーズ)の感想
今回のあさたろうは強い。何しろ弟分のにんにくにきちが用事でいないのに、ひとりで事件を解決してしまったのだから。ヤクザと味噌屋の二股稼業、みそだまのでんごろうが、まるまめやの味噌を奪い狼藉の限りをつくしたのを、たった一人で乗り込んで、攫われたまるまめやの娘を助け、でんごろう一味をやっつける。ネギ汁最強だなあ。しかし、いよいよあさたろうの旅の目的がわからなくなってきたぞ。そしてにきちは再び合流できるのか。★★★★☆
読了日:10月11日 著者:飯野 和好
しんせつなともだちの感想
以前読んだ『どうぞのいす』にも似て、動物たちが別の誰かのために行動するぐるぐる話。ただ、この絵本の場合は、蕪をふたつ見つけたうさぎが、ひとつを友達のろばに持って行くのですが、その後次々現れる動物たちも含めてみんな、自分の手持ちのものを食べて、蕪をともだちに持って行きます。友だちが必ず留守なのは、まあご愛敬。擬人化されていないリアルな動物たちの表情や動きから目が離せない。そして何の表情もない蕪が、そこはかとなくユーモラス。最後のページは蕪を見ただけで笑えてしまう。★★★★☆
読了日:10月12日 著者:方 軼羣
完本 マイルス・デイビス自叙伝 (ON MUSIC)の感想
ジャズに詳しくない私でも知っているジャズの巨匠たちがこれでもかと出てくるので、わからないなりにも興味深く読めました。驚いたのは、これほどの有名人たちのほとんどがドラッグ中毒であったこと。そうか。1940年だ言ってそういう時代だったのか。リンカーンが読んで感動し、奴隷解放を決意したという『アンクル・トムの小屋』は、黒人からの評価がとても低いのですが、マイルス・デイビスも「俺たちの中にはアンクル・トムみたいなやつはいない」というようなことを何度も書いていて、そういうことも勉強になりました。★★★★☆
読了日:10月13日 著者:マイルス デイビス,クインシー トループ
星界の紋章〈2〉ささやかな戦い (ハヤカワ文庫JA)の感想
てっきりジントの物語なのかと思ったら、どうも今作を読む限りではラフィールが主役の話のような気がしてきました。ユーモアSFのつもりで読んでいたので、突然の、生き残りをかけた闘いの厳しさに、目が覚めた想いでした。貴族には貴族の生き方があり矜持がある。それを守るためならどんな手段を取っても…というのは、ジントよりもラフィールこそが皇帝の孫として日々突きつけられたものなのです。男爵領から脱出しても、逃げついた先は反乱軍に制圧された場所。生活様式も言葉も通貨も違う異国で、今度はジントがラフィールを守ります。★★★★☆
読了日:10月18日 著者:森岡 浩之
天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイル V (蓮丈那智フィ-ルドファイル)の感想
『鬼無里』と『奇偶論』が生前著者が書いたもの。『天鬼越』は遺されたプロットを基に浅野里沙子が書いたもの。残り3作は浅野里沙子が書いた新作。最後の『偽蜃絵』は、「偽」とか「蜃気楼」の文字から、偽北森鴻となった浅野里沙子の思いを感じた。また、謎の男についても、ミステリ好きならすぐわかるであろう謎で読者をニヤリと笑わせてシリーズを終えるという構成も、よかったと思う。きちんとシリーズの始末をつけてくださって、関係者の皆さんに感謝します。★★★★☆
読了日:10月19日 著者:北森 鴻,浅野 里沙子
津軽 (角川文庫)の感想
この年になるまで『走れメロス』以外ほとんど読んでこなかった太宰治。そりゃあ、いつかは読もうと思っていたよ。でも、今まで縁がなかったのね。この作品が太宰初心者向けなのかどうかわかりませんが、面白かった。今まで勝手に思っていた、ナルシストのような、ちょっと重ためのコマッタちゃんのような太宰ではなく、素直で軽やかな文章に、とても好感を抱いた。作中ではぼかしてあるけれど、明らかに志賀直哉と思われる人物への悪口を言えば言うほど、文学ファンから引かれてしまうところも、いかにも不器用な感じで、全体的に愉快に読んだ。★★★★☆
読了日:10月20日 著者:太宰 治
暗闇のスキャナー (創元SF文庫)の感想
うーん、最近とみにこの手の現実と妄想の境界があやふやで、死と暴力が隣り合わせのような作品が苦手だ。いろいろと忙しかったせいか、読書の体力が落ちてきているのか、自分の趣味嗜好にこだわりが強くなったのかはわからないが、苦行の読書だった。『時計仕掛けのオレンジ』のような世界で、そこまでの鋭さもなく、覆面麻薬捜査官である主人公の正体がばれようがどうしようが、どちらにしても自業自得ではないかと思えばもう、物語の先なんてどうでもいいような気になってしまう。なんか、ごめんなさい。★★★☆☆
読了日:10月21日 著者:フィリップ・K・ディック
この橋をわたっての感想
この本が出る2年前、読者主催の「新井素子作家生活四十周年記念パーティ」が行われたという、その、お返しの本なのかな、と思いました。書下ろし長編のイメージが圧倒的に強い著者が、ショートショートや連載小説に挑戦した、それらの作品が収録されています。既読は『妾は、猫で御座います』のみ。だけど、どれも既読感がないわけではありません。なにしろ新井素子なのだから。40年変わらない文体、テーマやアプローチもなんなら変わっていないのです。1ページ目から最後のページまで新井素子でしかない本でした。★★★★☆
読了日:10月22日 著者:新井 素子
ねぎぼうずのあさたろう その7 (日本傑作絵本シリーズ)の感想
前作では弟分のにんにくにきちがいなかったため、ひとりで無双をかましたあさたろうでしたが、今作では眠り薬を盛られて山賊・まつぼっくりのもんえもんにつかまってしまいます。が、タイミングよく帰ってきたにきちに助けられます。しかし、お頭を見限った、からすうりのきんぞうと、やまなしのごんじ。刀でお頭に切りかかる二人を見てみぬ振りできるあさたろうではありません。あさたろうに助けられたもんえもんは心を入れ替え、子分たちとちゃみせを始めることにしたのでした。めでたしめでたし…ってまだ続くよ。★★★★☆
読了日:10月23日 著者:飯野 和好
名探偵コナン (104) (少年サンデーコミックス)の感想
最近のコナンの中では話が動いた満足感が高い。いろんな人の過去の出来事が少しずつ分かってきて、今まで見えていなかったエピソードの繫がりが見えてきた。個人的には羽田棋士のエピソードが良かったよね。次はまた停滞巻の気がするけど、ちょっとでいいから前進してほしいものです。
読了日:10月23日 著者:青山 剛昌
安楽死を遂げた日本人の感想
誰だって痛いことや苦しいことは嫌だ。ましてやその先に「死」しかないのだったら、楽に死なせてほしいと思うだろう。けれどいま日本では、安楽死は認められていない。そんななか、安楽死を望む人たちが、どのような手続きを取ってどのように行動していったのかを書いたノンフィクション。そもそも「死」は当事者だけのものなのか。遺された家族の思いは考慮しなくてもいいのか。大切なことだからこそ、考えは人それぞれ。充分に議論して、「安楽死」「尊厳死」「セデーション」など選択肢を増やしていただければいいと思います。★★★★★
読了日:10月24日 著者:宮下 洋一
平凡 (新潮文庫 草 14-1)の感想
二葉亭四迷と言えば言文一致体。さぞかし読みにくいのではないか。と思ったら、めっちゃ読みやすいの。そして、面白い。本人は「自然主義文学」を書くと言って書いているのだけど、いわゆる自然文学の、うじうじと自身の問題に拘泥しているような勝手なイメージを持っていたけれど、この作品は違う。確かに自身の情けなさを綴っているのだけど、どことなく軽やか。それは、自分を嗤う目をもって書いているからではないか、と思った。自虐系ブログみたいな面白みがあったから、今でも通用するんじゃないかな。★★★★☆
読了日:10月25日 著者:二葉亭 四迷
アメリカン・スクール (新潮文庫)の感想
敗戦前の軍隊や終戦直後の日本を描いた短編集。終戦前後の世相中心。『汽車の中』なんかはまだ余裕だったので、世間知らずの学校の先生が、初めて闇物資を買いに行って、なりふり構わない世間の人々に比べてあまりにも繊細な自分には生きる価値がないと思ってしまう姿を見て、共感したり突っ込み入れたりできたけど。軍隊の中のいじめの話とかは、読んでいてもちょっと引いちゃったよね。そんな中で『アメリカン・スクール』は、敗戦後の日本で、学校の先生たちがいかに混乱していたのかが、ユーモアを伴って切実に迫ってくる。★★★★☆
読了日:10月27日 著者:小島 信夫
聖家族 (SDP Bunko)の感想
芥川をモデルとした九鬼の死後、その死を乗りこえるために徐々に距離を縮めていく堀をモデルにした篇理(へんり)と、九鬼と恋愛関係にあった細木夫人。堀辰雄の文章ってすごくストレートで的確で、余計な装飾などはないので、気持ちよく読み進めているのに何を読まさているのか途方に暮れることがある。というか、ストーリー以上のものを私は受け取れなかった。名前は変えてあるものの、実際の生活をこれほど赤裸々に描いているのに、文章がとてもフラットなことに驚く。日記じゃないんだよね。小説なんだよね。純文学難しいねえ。★★★★☆
読了日:10月29日 著者:堀 辰雄
檸檬 (角川文庫)の感想
『檸檬』『桜の樹の下には』『冬の蠅』などは何度か読んでいるくらい好きだけど、今回は未完の習作と遺稿の『瀬山の話』『海』『温泉』が気になった。特に、『瀬山の話』の中に、完成稿になる前の『檸檬』が挿入されている部分。または同じモチーフを何度も書き直している『温泉』。当たり前だが、改稿後の方が明らかに出来がいい。だけどこれは、病み疲れ体力を失った体でできるものでは、なかなかない。言葉を足し、引き、表現を変え、視点を動かし、ひとつひとつの文章の最善を探すには、どれほどのエネルギーを必要としたのだろう。★★★★☆
読了日:10月30日 著者:梶井 基次郎
星界の紋章〈3〉異郷への帰還 (ハヤカワ文庫JA)の感想
まず、いちいち付いているアーヴ語のルビが煩雑。続きが気になると言っているのに、目が忙しくてなかなか進まないもどかしさ。それから登場人物が多くて、誰が誰だか最後の方はもう思い出せなかった。でも、敵味方ははっきりキッパリわかるので問題なし。さらに、位置関係がわからない。巻頭に平面宇宙図でも載せておいていただけるとよかったのだが。最後に、クラスビュールからの脱出行あたりから物語が駆け足。以上文句たらたら書きましたが、面白かったのは間違いない。SFを読み始めた頃のわくわく感を思い出しながら、終始楽しく読みました。★★★★☆
読了日:10月31日 著者:森岡 浩之
読書メーター
旅行に行った、というのもありますが、読書以外に時間を使いすぎてます。
パズルとかゲームとか勉強とか動画視聴とか…。
でも、今回はちょっと苦手分野の、または難しい本が多かったというのもあります。
難しい本に時間を取られ、得意の小説でペースをつかめず、パズルやゲームに逃げるという負のスパイラル。
今月は虚心坦懐に読書に向き合いたいと思います。
ということで、★5つは2冊。
『星界の紋章』は、登場人物たちはみんなそれぞれに必死なのだけど、読んでる分にはとにかく楽しくって、まったく屈託なく読めました。
シリーズが進むにつれて欠点も見えてきたけれど、それでもこの楽しさは★5つだったので。
『安楽死を遂げた日本人』は逆に、最初から最後まで「死」について「生」について考えざるを得ない作品でした。
まだ大丈夫と思いたいけれど、人はいつ死ぬかわからないので、自分はどうしたいのかを考えて、周囲の人に伝えておくのは大切なことだと思いました。
10月の読書メーター
読んだ本の数:21
読んだページ数:5948
ナイス数:633

「風立ちぬ」はまだ、節子とその父親の互いを思いやる心情とか、節子が語り手の私を精神的に支えようと努めるところなどがあるが、「菜穂子」に至っては、母と娘の冷たい断絶、夫婦の間の無関心、恋人への自分勝手な怒りなど、ちょっと読んでいてイライラした。解説も、この作品の解説は書けなかったのか、宮崎駿の映画について多くの文字を費やしているくらいだった。私が日本近代文学が苦手だからなのかな。サナトリウム文学を読むなら、『魔の山』で充分。宮崎駿の映画「風立ちぬ」には感動したけれど、今これを読むべき需要はあるのかなあ。★★★★☆
読了日:10月01日 著者:堀 辰雄

高校生の頃SFを読み始めたきっかけがスペースオペラだったので、とにかく楽しい読書でした。30年くらい前の作品。今っぽく尖ってなくて、ほんと好きだわ。50ページくらいで次々に場面転換するので、テンポよく読めるのもいい。そして猛烈に次巻が気になる。よい本に巡り合えました。”けれども、彼らは誠忠と隷属の区別をちゃんとつけていたものだ。”これ、大人として大事なことだよね。★★★★★
読了日:10月03日 著者:森岡 浩之

蓮丈那智シリーズ唯一の長編ですが、実に実に読みごたえがありました。確かにこじつけなんですよ、いろいろと。だけど圧倒的な知識、造形の深さに、わくわくとひれ伏してしまう。ただ、全体を通じて書かれる謎は、多岐にわたりすぎて、結局何が書かれていたのかがわかりにくくなっている。というのも、全体の6割ほどを書いたまま作者が亡くなってしまい、続きを公私にわたるパートナーが書いたものだから、だと思う。古代の陰謀については複雑すぎて理解が追いついていないのだけど、卑弥呼と神功皇后が同時代に生きていたというのは目からウロコ。★★★★☆
読了日:10月04日 著者:北森 鴻,浅野 里沙子

はっきり言って期待外れ。まず、歴史小説としてマイナーな題材なので、それを補足するためにどうしても長くなってしまいます。どちらかというと米澤穂信の場合、長編より短篇の切れ味が好きなので、これは嗜好の問題ですが。さらにミステリとしても、探偵役の黒田官兵衛にさほどの魅力がない。肝心の謎は、4つの章それぞれの謎、全部分かりました。ミステリファンなら簡単でしょ?村重が見たくないところに真実がある。ミステリならミステリ、歴史小説なら歴史小説と、割り切って書いたほうが良かったのでは、と思う。★★★★☆
読了日:10月08日 著者:米澤 穂信

南極の昭和基地が舞台の、クローズド・サークル・ミステリー。限られた人間関係の中で、誰が敵で誰が味方なのかわからない。というか、主人公自身が、自分の立ち位置をわかっていない。何があっても怪しいし、なにを言われても怪しい。動けば動くほど何者かにからめとられていくような閉塞感が心地よい。そして文章が読みやすいので、ぐいぐい読み進められる。結末は、誰も幸せにならないような気がするのだけど、どうなんだろう。★★★★☆
読了日:10月10日 著者:神山 裕右

今回のあさたろうは強い。何しろ弟分のにんにくにきちが用事でいないのに、ひとりで事件を解決してしまったのだから。ヤクザと味噌屋の二股稼業、みそだまのでんごろうが、まるまめやの味噌を奪い狼藉の限りをつくしたのを、たった一人で乗り込んで、攫われたまるまめやの娘を助け、でんごろう一味をやっつける。ネギ汁最強だなあ。しかし、いよいよあさたろうの旅の目的がわからなくなってきたぞ。そしてにきちは再び合流できるのか。★★★★☆
読了日:10月11日 著者:飯野 和好

以前読んだ『どうぞのいす』にも似て、動物たちが別の誰かのために行動するぐるぐる話。ただ、この絵本の場合は、蕪をふたつ見つけたうさぎが、ひとつを友達のろばに持って行くのですが、その後次々現れる動物たちも含めてみんな、自分の手持ちのものを食べて、蕪をともだちに持って行きます。友だちが必ず留守なのは、まあご愛敬。擬人化されていないリアルな動物たちの表情や動きから目が離せない。そして何の表情もない蕪が、そこはかとなくユーモラス。最後のページは蕪を見ただけで笑えてしまう。★★★★☆
読了日:10月12日 著者:方 軼羣

ジャズに詳しくない私でも知っているジャズの巨匠たちがこれでもかと出てくるので、わからないなりにも興味深く読めました。驚いたのは、これほどの有名人たちのほとんどがドラッグ中毒であったこと。そうか。1940年だ言ってそういう時代だったのか。リンカーンが読んで感動し、奴隷解放を決意したという『アンクル・トムの小屋』は、黒人からの評価がとても低いのですが、マイルス・デイビスも「俺たちの中にはアンクル・トムみたいなやつはいない」というようなことを何度も書いていて、そういうことも勉強になりました。★★★★☆
読了日:10月13日 著者:マイルス デイビス,クインシー トループ

てっきりジントの物語なのかと思ったら、どうも今作を読む限りではラフィールが主役の話のような気がしてきました。ユーモアSFのつもりで読んでいたので、突然の、生き残りをかけた闘いの厳しさに、目が覚めた想いでした。貴族には貴族の生き方があり矜持がある。それを守るためならどんな手段を取っても…というのは、ジントよりもラフィールこそが皇帝の孫として日々突きつけられたものなのです。男爵領から脱出しても、逃げついた先は反乱軍に制圧された場所。生活様式も言葉も通貨も違う異国で、今度はジントがラフィールを守ります。★★★★☆
読了日:10月18日 著者:森岡 浩之

『鬼無里』と『奇偶論』が生前著者が書いたもの。『天鬼越』は遺されたプロットを基に浅野里沙子が書いたもの。残り3作は浅野里沙子が書いた新作。最後の『偽蜃絵』は、「偽」とか「蜃気楼」の文字から、偽北森鴻となった浅野里沙子の思いを感じた。また、謎の男についても、ミステリ好きならすぐわかるであろう謎で読者をニヤリと笑わせてシリーズを終えるという構成も、よかったと思う。きちんとシリーズの始末をつけてくださって、関係者の皆さんに感謝します。★★★★☆
読了日:10月19日 著者:北森 鴻,浅野 里沙子

この年になるまで『走れメロス』以外ほとんど読んでこなかった太宰治。そりゃあ、いつかは読もうと思っていたよ。でも、今まで縁がなかったのね。この作品が太宰初心者向けなのかどうかわかりませんが、面白かった。今まで勝手に思っていた、ナルシストのような、ちょっと重ためのコマッタちゃんのような太宰ではなく、素直で軽やかな文章に、とても好感を抱いた。作中ではぼかしてあるけれど、明らかに志賀直哉と思われる人物への悪口を言えば言うほど、文学ファンから引かれてしまうところも、いかにも不器用な感じで、全体的に愉快に読んだ。★★★★☆
読了日:10月20日 著者:太宰 治

うーん、最近とみにこの手の現実と妄想の境界があやふやで、死と暴力が隣り合わせのような作品が苦手だ。いろいろと忙しかったせいか、読書の体力が落ちてきているのか、自分の趣味嗜好にこだわりが強くなったのかはわからないが、苦行の読書だった。『時計仕掛けのオレンジ』のような世界で、そこまでの鋭さもなく、覆面麻薬捜査官である主人公の正体がばれようがどうしようが、どちらにしても自業自得ではないかと思えばもう、物語の先なんてどうでもいいような気になってしまう。なんか、ごめんなさい。★★★☆☆
読了日:10月21日 著者:フィリップ・K・ディック

この本が出る2年前、読者主催の「新井素子作家生活四十周年記念パーティ」が行われたという、その、お返しの本なのかな、と思いました。書下ろし長編のイメージが圧倒的に強い著者が、ショートショートや連載小説に挑戦した、それらの作品が収録されています。既読は『妾は、猫で御座います』のみ。だけど、どれも既読感がないわけではありません。なにしろ新井素子なのだから。40年変わらない文体、テーマやアプローチもなんなら変わっていないのです。1ページ目から最後のページまで新井素子でしかない本でした。★★★★☆
読了日:10月22日 著者:新井 素子

前作では弟分のにんにくにきちがいなかったため、ひとりで無双をかましたあさたろうでしたが、今作では眠り薬を盛られて山賊・まつぼっくりのもんえもんにつかまってしまいます。が、タイミングよく帰ってきたにきちに助けられます。しかし、お頭を見限った、からすうりのきんぞうと、やまなしのごんじ。刀でお頭に切りかかる二人を見てみぬ振りできるあさたろうではありません。あさたろうに助けられたもんえもんは心を入れ替え、子分たちとちゃみせを始めることにしたのでした。めでたしめでたし…ってまだ続くよ。★★★★☆
読了日:10月23日 著者:飯野 和好

最近のコナンの中では話が動いた満足感が高い。いろんな人の過去の出来事が少しずつ分かってきて、今まで見えていなかったエピソードの繫がりが見えてきた。個人的には羽田棋士のエピソードが良かったよね。次はまた停滞巻の気がするけど、ちょっとでいいから前進してほしいものです。
読了日:10月23日 著者:青山 剛昌

誰だって痛いことや苦しいことは嫌だ。ましてやその先に「死」しかないのだったら、楽に死なせてほしいと思うだろう。けれどいま日本では、安楽死は認められていない。そんななか、安楽死を望む人たちが、どのような手続きを取ってどのように行動していったのかを書いたノンフィクション。そもそも「死」は当事者だけのものなのか。遺された家族の思いは考慮しなくてもいいのか。大切なことだからこそ、考えは人それぞれ。充分に議論して、「安楽死」「尊厳死」「セデーション」など選択肢を増やしていただければいいと思います。★★★★★
読了日:10月24日 著者:宮下 洋一

二葉亭四迷と言えば言文一致体。さぞかし読みにくいのではないか。と思ったら、めっちゃ読みやすいの。そして、面白い。本人は「自然主義文学」を書くと言って書いているのだけど、いわゆる自然文学の、うじうじと自身の問題に拘泥しているような勝手なイメージを持っていたけれど、この作品は違う。確かに自身の情けなさを綴っているのだけど、どことなく軽やか。それは、自分を嗤う目をもって書いているからではないか、と思った。自虐系ブログみたいな面白みがあったから、今でも通用するんじゃないかな。★★★★☆
読了日:10月25日 著者:二葉亭 四迷

敗戦前の軍隊や終戦直後の日本を描いた短編集。終戦前後の世相中心。『汽車の中』なんかはまだ余裕だったので、世間知らずの学校の先生が、初めて闇物資を買いに行って、なりふり構わない世間の人々に比べてあまりにも繊細な自分には生きる価値がないと思ってしまう姿を見て、共感したり突っ込み入れたりできたけど。軍隊の中のいじめの話とかは、読んでいてもちょっと引いちゃったよね。そんな中で『アメリカン・スクール』は、敗戦後の日本で、学校の先生たちがいかに混乱していたのかが、ユーモアを伴って切実に迫ってくる。★★★★☆
読了日:10月27日 著者:小島 信夫

芥川をモデルとした九鬼の死後、その死を乗りこえるために徐々に距離を縮めていく堀をモデルにした篇理(へんり)と、九鬼と恋愛関係にあった細木夫人。堀辰雄の文章ってすごくストレートで的確で、余計な装飾などはないので、気持ちよく読み進めているのに何を読まさているのか途方に暮れることがある。というか、ストーリー以上のものを私は受け取れなかった。名前は変えてあるものの、実際の生活をこれほど赤裸々に描いているのに、文章がとてもフラットなことに驚く。日記じゃないんだよね。小説なんだよね。純文学難しいねえ。★★★★☆
読了日:10月29日 著者:堀 辰雄

『檸檬』『桜の樹の下には』『冬の蠅』などは何度か読んでいるくらい好きだけど、今回は未完の習作と遺稿の『瀬山の話』『海』『温泉』が気になった。特に、『瀬山の話』の中に、完成稿になる前の『檸檬』が挿入されている部分。または同じモチーフを何度も書き直している『温泉』。当たり前だが、改稿後の方が明らかに出来がいい。だけどこれは、病み疲れ体力を失った体でできるものでは、なかなかない。言葉を足し、引き、表現を変え、視点を動かし、ひとつひとつの文章の最善を探すには、どれほどのエネルギーを必要としたのだろう。★★★★☆
読了日:10月30日 著者:梶井 基次郎

まず、いちいち付いているアーヴ語のルビが煩雑。続きが気になると言っているのに、目が忙しくてなかなか進まないもどかしさ。それから登場人物が多くて、誰が誰だか最後の方はもう思い出せなかった。でも、敵味方ははっきりキッパリわかるので問題なし。さらに、位置関係がわからない。巻頭に平面宇宙図でも載せておいていただけるとよかったのだが。最後に、クラスビュールからの脱出行あたりから物語が駆け足。以上文句たらたら書きましたが、面白かったのは間違いない。SFを読み始めた頃のわくわく感を思い出しながら、終始楽しく読みました。★★★★☆
読了日:10月31日 著者:森岡 浩之
読書メーター