3月は思ったほど読めませんでした。
残業と飲み会が多かったので、自由時間はついうとうとしてしまったからだと思います。
そろそろ暖かくなってくるので土日は外出する機会も増え、読書ペースは上がらないと思いますが、出来る範囲でがつがつと本を読みます。
さて、22冊のうち★5つは5冊。
どれもが本当に楽しい読書でした。
そして見事に傾向がバラバラ。笑
最初は佐藤亜紀の『雲雀』
これはジェルジェが主役の長編『天使』から派生した短編集。
能力者である殺し屋ジェルジェの半生にかかわった人々、親やライバルや敵などの生き様を通して、『天使』では捉えどころのなかったジェルジェという人物を立体的に浮かび上がらせている。
凄絶な人生なのに、核の部分がピュア。
だから彼の周囲の人は彼に惹かれてしまうのだろう。
瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』
だって瀬尾まいこの本だもの。
血が繋がっていようといまいと、親子でありたいと双方が思っていれば、それはもう親子。
冷静にポジティブ。
幸せを呼び込むコツはこれだな、と思った。
難しいけどね。
中原涼『笑う宇宙』
シニカルでクールでキレのある短編。
なんとどんぴしゃりで好みの作品でした。
フレドリック・ブラウンを初めて読んだときの感動を思い出しました。
ジェーン・オースティン『ノーサンガー・アビー』
200年前のイギリスで書かれたラブコメが、こんなに楽しいとは!
終始にやにやクスクスしながら読みました。
オースティン、天才やな。
原尞『天使たちの探偵』
私立探偵沢崎のシリーズは全て面白く読みましたが、プロットが複雑な分、何度も読み返しながらの読書になってしまう。
その点短編集は、シンプルにただ面白い。
コスパもタイパも悪い沢崎の行動。
だから深く真実に向かって行けるのだと思う。
簡単に目に入る物事の、上っ面だけでは決して納得しない強かさこそが彼の魅力なのだ。
3月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:7296
ナイス数:636
愚か者死すべし (ハヤカワ文庫 JA ハ 4-7)の感想
新シリーズということだったので、何かが変わったかと思ったけれど、沢崎自体は今までどおり。さて、肝心の事件の方だけど、いったいどれがメインの事件と言っていいのかわからないくらい、複数の事件が錯綜する。無為な命が多数失われる。そして自己中な論理を振りかざす犯人。その構図は変わっていない。だけど読後感は悪くない。被害者が子どもではなく、そこそこ悪党の大人だったからだろうか。必要以上の金はもらわないというスタイルも変わらず。しかしこの仕事っぷりで、どうやって自宅の家賃と事務所の家賃と駐車場代を支払えているのか?★★★★☆
読了日:03月02日 著者:原 りょう
雲雀の感想
長篇小説『天使』のスピンオフ短編集。第一次大戦から第二次大戦の間の、ロシア、オーストリア、チェコ、ユーゴなどの殺伐とした世界を描きながら、何かふと温かいものを感じられる作品群。長編があってこその短編ではあるけれど、『天使』よりこちらの『雲雀』の方が好きだな。ジェルジュが鳥籠から逃げ出した雲雀のように、遠く高く飛んで行けますように。彼の幸せを祈らずにはいられない。★★★★★
読了日:03月03日 著者:佐藤 亜紀
ミス・ビアンカ ひみつの塔の冒険 (岩波少年文庫)の感想
船遊びのピクニックで、ミス・ビアンカは古びた塔に誰かが閉じ込められているらしいことに気づく。閉じ込められていたのは、ガラスの館で大公妃に仕えていた執事のマンドレーク。脱出するだけではなく、真っ当な人間として生きていくための手立てをも考えるミス・ビアンカ。果して彼は本当に改心するのか。そしてミス・ビアンカはどうやって出口の見当たらない塔から彼を脱出させるのか。今までで一番読後感が良かった。あんまり人の悪意が甚だしくなかったし、更生させることができるというミス・ビアンカの信念もよかった。★★★★☆
読了日:03月04日 著者:マージェリー・シャープ
新ロードス島戦記1 闇の森の魔獣 新装版 (角川スニーカー文庫)の感想
舞台はロードス島ではなく、マーモ島。主人公はマーモ島の公王となった18歳のスパーク。王家の人間ではなく若い騎士が、なぜ焼野原とやせた土地ばかりのこの島で王になるのか、この辺の事情は分からない。彼が統治する前のマーモ帝国。邪教を信じる者たちが支配する国。それが復活を目指して暗躍する。若さゆえ各国の首脳から侮られ、実績がないため国民からの信頼もないスパークは、問題が起こるたびに少数精鋭の仲間と共に現場に向かう。出版されたときは新しいスタイルの小説だったと思うけど、今読むとちょっと辛いかな。今後の展開に期待。★★★★☆
読了日:03月05日 著者:水野 良
そして、バトンは渡された (文春文庫)の感想
瀬尾まいこという人は、デビューの時からずっと、血の繫がりより大切なものが家族にはあると言い続けてきた。優子は、血の繋がらない泉ヶ原からは動じない強さを、梨花からは芯の強さと行動力を、森宮からは柔軟な心を受け継いでいる。なんだ、ちゃんと親子じゃん。そう思って読んでいたはずなのに、最後まで読んで安堵の涙がこぼれてしまう。いつもやられてしまうな。あと、瀬尾まいこ作品はどれもこれも食事のシーンがいい。決して幸せ満載の作品ばかりではないのだが、食べて幸せを感じられるのは救いだ。★★★★★
読了日:03月06日 著者:瀬尾 まいこ
モップの精は深夜に現れる (実業之日本社文庫)の感想
最初の話『悪い芽』も読後感がよろしくはなかった。しかし『鍵のない扉』と『オーバー・ザ・レインボウ』は駄目だ。「死ねばいいのに」と思うのと、「死ぬかもしれないことをやる」のは全然違う。と、文句を言いながらも読んでしまう。キリコのキャラクターがいいんだなあ。”相手に自分の考えを押しつけるのではなく、自分が考えを曲げて相手に従うのではなく、それ以外の解決法を見つけている。”服装は奇天烈でも、中身は大人だよね。★★★★☆
読了日:03月07日 著者:近藤 史恵
心淋し川の感想
表題作の『心淋し川』がまず良い。お互いに想い合い、身分違いというわけでもないのに、結ばれないこともある。それが縁というものなのかもしれないなあ。逆に『冬虫夏草』は、母の業が怖い。差配が最後に言う「子供のためと口にする親ほど、存外、子供のことなぞ考えてないのかもしれないな」が心に刺さる。そこにあるのは愛情ではなく、ただの執着だ。差配の茂十が繋ぐ、ゆるい連作かと思ったら、最後の『灰の男』はがっつり茂十の話だった。死んだように生きるしかなかった男が生き直す場所は、この心町(うらまち)しかなかったのだろう。★★★★☆
読了日:03月08日 著者:西條 奈加
エセー〈1〉の感想
最初の方はエッセイと言うよりも、哲学や歴史についてを読んでいる気がしました。塩野七生の『ローマ人の物語』、ダンテの『神曲』、佐藤賢一のフランス史物などを読んでいたおかげで、思ったほどつらくはありませんでしたが、やっぱり知識の不足が残念だなあ。ところで、「エセー(随想録)」というので、「枕草子」や「徒然草」のような身辺雑記から発するあれこれかと思ったのですが、それよりちょっと宗教・哲学寄り。宗教戦争についてなどは、書いた当初は時事問題くらいの感覚だったのかしら。今読むとがっつり歴史なのですが。★★★★☆
読了日:03月09日 著者:
笑う宇宙の感想
第一章と二章はショート・ショート。三章と四章は短編。ショート・ショートからにじみ出てくる悪意の切れ味に、思わずニヤリとしてしまう。フレドリック・ブラウンや星新一が好きな人は好きだと思う。短編の方は、読んでいる間中、人間という存在に対する嫌悪を突きつけられているようで、ちょっとしんどい。特に『青い竜の物語』は、人間に対する絶望ですらない、全くの無であり拒絶。『笑う宇宙』は筒井康隆的不条理な、家族の物語。作品世界が狂っているのか、読んでいるこちらがおかしくなってきているのか。どちらにしても孤独なのである。★★★★★
読了日:03月10日 著者:中原 涼
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語の感想
部屋から出たくない人ではなく、出られない人のためのアンソロジー。書かれているのは、なんらかの状況に閉じ込められて出ることができない人、または蛸。一番閉塞感が強く感じられたのが『私の女の実』。夫は妻の身体に痣が出来ていることに気づきもしなかった。自由にここではないどこかへ行きたかった妻を縛り付けているという自覚もなかった。結局どこへも行けなかった妻は、夫に優しく世話をされるようになる。それは解放?復讐?それとも…。家族との縁が薄かった夫が最後に感じたのは喜び?悲しみ?いかようにも読める、懐の深い小説でした。★★★★☆
読了日:03月13日 著者:萩尾 望都,萩原 朔太郎,フランツ・カフカ,立石 憲利,星 新一,エドガー・アラン・ポー,梶尾 真治,宇野 浩二,ハン・ガン,ロバート・シェクリイ,上田 秋成
居酒屋ぶたぶた (光文社文庫)の感想
ぶたぶたさんが居酒屋、バー、おでん屋、ワインバー、本のバーなど、お酒に関係するいろんなお店で働いている。どの店でもぶたぶたさんの作る料理や選んだお酒が美味しそう。ミステリ好きの人たちが曜日ごとにテーマを決め、曜日ごとにマスターをやるという、本のバーは面白そう。ミステリについて熱く語らっているお客さんたちの話を聞いているだけでもいい。話を聞くということでは、おでん屋さんのぶたぶたさん、お客さんの悩みは聞くけれど、解決はしないというスタンスはわかる。結局納得のいく解決策は自分の中からしか出てこないものだから。★★★★☆
読了日:03月14日 著者:矢崎 存美
新ロードス島戦記2 新生の魔帝国 (角川スニーカー文庫)の感想
1巻がマーモ公国の人物紹介だったとしたら、この巻では魔帝国の現況報告。のっけからニースの秘密が明かされて、ヒロイン枠の彼女が闇落ちするとなると、この先スパークと彼女の恋愛は成就しないということなのか。確かに私が読んだ版の表紙は、中央にニースが描かれているのだけれど、その背後に大きく描かれているのはリーフ。つまり、そういうことか。って納得して読んでいたのに、ニースはあっさり自分の秘密をスパークに告白してしまったからね。だけど、あんまりわくわくしないんだなあ。今時、こんなに善悪ハッキリの展開があるだろうか。★★★★☆
読了日:03月15日 著者:水野 良
それまでの明日 (ハヤカワ文庫JA)の感想
料亭の女将の身辺調査のはずが、強盗事件に巻き込まれ、ヤクザと警察の両方から目を付けられる。強盗事件で知り合った青年の人懐こさがうさん臭いと思ったけれど、うさん臭いのはそっちでしたか。さて、最終章を読み始めても、タイトルの『それまでの明日』のそれの意味が解らなかったけれど、残り10行ほどでそれの意味が明確になる。年をとらない沢崎も、時代の中には存在しているわけだ。既に『それからの昨日』の執筆を始めているそうなので、出版を気長に待つ。私が生きてるうちに完成してね。お願い。★★★★☆
読了日:03月16日 著者:原りょう
数学にときめく―あの日の授業に戻れたら (ブルーバックス)の感想
結局この本を読んでも数学にはときめきませんでした。でも、ムギ畑算数教室の皆さんにはときめきました。「ムギ畑」というのは、ワーキングマザーとその予備軍が集う、会員制のサイトです。20年前の本なので、今もあるのかはわかりませんが。その場所で、仕事とも子どもとも関係のない、『算数』をお母さんたちが一生懸命考えるのです。損得でも義務でもない、楽しみとしての『算数』。大事なのは、公式を覚えることではなく、考え方を身につけること。そしてそれは、一朝一夕にできることではないということ。素敵。★★★★☆
読了日:03月18日 著者:新井 紀子
地下の湖の冒険 (ミス・ビアンカシリーズ 4)の感想
ミス・ビアンカシリーズの今回は、囚人友の会の名誉会長となったミス・ビアンカが、猫に対する勇気ある行動をとった者に対する叙勲から始まります。しかし、弱者に対して手を差し伸べる、その境遇から助け出す、そういう精神が最近は見られなくなってきているのではないか、とミス・ビアンカは思います。それは、一般的な福祉とはまた別のものだと思うのです。今回、冒険自体はそれほど大変ではなかったのですが、ミス・ビアンカの弱者救出への強い思いがはっきり書かれていて、面白かったです。★★★★☆
読了日:03月19日 著者:マージェリー・シャープ
エセー〈2〉の感想
全体として、ギリシャ・ローマ時代の偉人の言葉を引き合いにして語られるモンテーニュの思想は、哲学より歴史の面白さを感じられる。フランス語で歴史をなんというのかは知らないけれど、英語のhistoryとはまさに、彼の話ってことで、何年に何があったかではなく、だれがいつ何をしたかってことなんだな。(中国の歴史もそうだよね)でも結局偉人の言葉からのあれこれは、あんまり刺さらなかったなあ。セネカとかウェルギリウスが何を言おうと、他人事として面白いだけなんだなあ。★★★★☆
読了日:03月21日 著者:ミシェル・ド モンテーニュ
指差す標識の事例 上 (創元推理文庫)の感想
多少世間知らずなところがあるとはいえ、医学生として病人を見ると治療せずにはいられない好青年のマルコ・ダ・コーラの手記が第一章に当たる。そして二章に入ると、ジャック・プレストコットの手記となる。なるほど、この本に4人の訳者がいるというのは、そういうことか。この二人の手記は、それぞれに自分は善人であると思い、正しい行いをし、神に対して恥じることがないように書いていあるが、書かれている内容は必ずしも同じではない。信用できる語り手なんて存在はない、というのがこのタイトル『指差す標識の事例』ってことなんだろうか。★★★★☆
読了日:03月23日 著者:イーアン・ペアーズ
モップの魔女は呪文を知ってる (実業之日本社文庫)の感想
相変わらずキリコが夜間清掃をする場所での謎解きの話なんだけれど、作品の中で時間が流れているのがわかる。シリーズ一巻目の最後に結婚して、二巻目の最後の話でその後の結婚生活がちょっと出たけれども、このまま出先での謎解きがメインなら、結婚した意味があまりないかなあと思ったけれど、今回はよかったな。キリコの家庭が見えてくることで、キリコが悩むこともあり、人物が立体的になるので。看護師も人間だからいろいろあるだろうけれど、患者の子どもたちを傷つけるのは許せない。体の傷も、心の傷も。★★★★☆
読了日:03月25日 著者:近藤 史恵
ノーサンガー・アビー (ちくま文庫)の感想
主人公は、田舎の牧師館で暮らす平凡な17歳の少女・キャサリン。恋に恋するお年頃のこのヒロインは、『小さい頃はとても不器量で、男の子の遊びが大好きなお転婆娘で、勉強もできないし、音楽や絵の習い事もさっぱりだった。』と作者にきっぱり書かれるくらい、華やかなヒロイン像とは真逆の設定。私の脳内ではキャサリンとヘンリーが『はいからさんが通る』の紅緒さんと少尉に変換されました。そう、200年前のイギリスの小説を今の日本人が読んでも全然違和感がない。ヒストリカルロマンス小説やラブコメが好きな人は絶対ハマると思います。★★★★★
読了日:03月26日 著者:ジェイン オースティン
海の家のぶたぶた (光文社文庫)の感想
ぶたぶたさんの海の家は、かき氷をウリにしているけれど、この作品を書かれたときにたくさんできたかき氷の専門店は、今どのくらい残っているのだろう。ぶたぶたさんのお店は大丈夫だろうか。他の料理も美味しいみたいだから、大丈夫だといいのだけれど、流行りものに乗っかるっていうのはリスクも大きいから心配だわ。★★★★☆
読了日:03月27日 著者:矢崎 存美
天使たちの探偵 (ハヤカワ文庫JA)の感想
私立探偵沢崎シリーズの長編の既刊をすべて読んでしまったので、最後にとっておいた短編集を読んだ。長編と長編の間に起きた事件だけど、長編で出て来た人の初登場はここだったのか、と思うことしばしば。沢崎は子どもに対しても不愛想だし、必ずしもハッピーエンドではないけれど、やっぱり面白くて一気に読める。というか、長編はプロットが複雑で、登場人物も錯綜して一筋縄ではいかないけれど、短編は事件がひとつなのでとても読みやす野である。これは、短編の方が好きという人もいるかもしれない。私はどちらも好きだけど。★★★★★
読了日:03月28日 著者:原 りょう
エセー〈3〉の感想
後半の方が興味深いテーマだったのだけど、何でだろう、なかなか文意が頭に入ってこない。というわけで、付箋は本の前半にばかり付きました。”徳とは、色鮮やかで、強力な染料なのであって、魂が一度それにひたされると、あとはもう、魂もろともはぎ取らないかぎり、その色が落ちることはない。”得ではなく徳を行動原理にしたいと常々思っていますが、難しいですね。自己中ではないつもりですが、好き嫌いが徳の足を引っ張るのです。精進しなくては。★★★★☆
読了日:03月31日 著者:ミシェル・ド モンテーニュ
読書メーター
残業と飲み会が多かったので、自由時間はついうとうとしてしまったからだと思います。
そろそろ暖かくなってくるので土日は外出する機会も増え、読書ペースは上がらないと思いますが、出来る範囲でがつがつと本を読みます。
さて、22冊のうち★5つは5冊。
どれもが本当に楽しい読書でした。
そして見事に傾向がバラバラ。笑
最初は佐藤亜紀の『雲雀』
これはジェルジェが主役の長編『天使』から派生した短編集。
能力者である殺し屋ジェルジェの半生にかかわった人々、親やライバルや敵などの生き様を通して、『天使』では捉えどころのなかったジェルジェという人物を立体的に浮かび上がらせている。
凄絶な人生なのに、核の部分がピュア。
だから彼の周囲の人は彼に惹かれてしまうのだろう。
瀬尾まいこの『そして、バトンは渡された』
だって瀬尾まいこの本だもの。
血が繋がっていようといまいと、親子でありたいと双方が思っていれば、それはもう親子。
冷静にポジティブ。
幸せを呼び込むコツはこれだな、と思った。
難しいけどね。
中原涼『笑う宇宙』
シニカルでクールでキレのある短編。
なんとどんぴしゃりで好みの作品でした。
フレドリック・ブラウンを初めて読んだときの感動を思い出しました。
ジェーン・オースティン『ノーサンガー・アビー』
200年前のイギリスで書かれたラブコメが、こんなに楽しいとは!
終始にやにやクスクスしながら読みました。
オースティン、天才やな。
原尞『天使たちの探偵』
私立探偵沢崎のシリーズは全て面白く読みましたが、プロットが複雑な分、何度も読み返しながらの読書になってしまう。
その点短編集は、シンプルにただ面白い。
コスパもタイパも悪い沢崎の行動。
だから深く真実に向かって行けるのだと思う。
簡単に目に入る物事の、上っ面だけでは決して納得しない強かさこそが彼の魅力なのだ。
3月の読書メーター
読んだ本の数:22
読んだページ数:7296
ナイス数:636

新シリーズということだったので、何かが変わったかと思ったけれど、沢崎自体は今までどおり。さて、肝心の事件の方だけど、いったいどれがメインの事件と言っていいのかわからないくらい、複数の事件が錯綜する。無為な命が多数失われる。そして自己中な論理を振りかざす犯人。その構図は変わっていない。だけど読後感は悪くない。被害者が子どもではなく、そこそこ悪党の大人だったからだろうか。必要以上の金はもらわないというスタイルも変わらず。しかしこの仕事っぷりで、どうやって自宅の家賃と事務所の家賃と駐車場代を支払えているのか?★★★★☆
読了日:03月02日 著者:原 りょう

長篇小説『天使』のスピンオフ短編集。第一次大戦から第二次大戦の間の、ロシア、オーストリア、チェコ、ユーゴなどの殺伐とした世界を描きながら、何かふと温かいものを感じられる作品群。長編があってこその短編ではあるけれど、『天使』よりこちらの『雲雀』の方が好きだな。ジェルジュが鳥籠から逃げ出した雲雀のように、遠く高く飛んで行けますように。彼の幸せを祈らずにはいられない。★★★★★
読了日:03月03日 著者:佐藤 亜紀

船遊びのピクニックで、ミス・ビアンカは古びた塔に誰かが閉じ込められているらしいことに気づく。閉じ込められていたのは、ガラスの館で大公妃に仕えていた執事のマンドレーク。脱出するだけではなく、真っ当な人間として生きていくための手立てをも考えるミス・ビアンカ。果して彼は本当に改心するのか。そしてミス・ビアンカはどうやって出口の見当たらない塔から彼を脱出させるのか。今までで一番読後感が良かった。あんまり人の悪意が甚だしくなかったし、更生させることができるというミス・ビアンカの信念もよかった。★★★★☆
読了日:03月04日 著者:マージェリー・シャープ

舞台はロードス島ではなく、マーモ島。主人公はマーモ島の公王となった18歳のスパーク。王家の人間ではなく若い騎士が、なぜ焼野原とやせた土地ばかりのこの島で王になるのか、この辺の事情は分からない。彼が統治する前のマーモ帝国。邪教を信じる者たちが支配する国。それが復活を目指して暗躍する。若さゆえ各国の首脳から侮られ、実績がないため国民からの信頼もないスパークは、問題が起こるたびに少数精鋭の仲間と共に現場に向かう。出版されたときは新しいスタイルの小説だったと思うけど、今読むとちょっと辛いかな。今後の展開に期待。★★★★☆
読了日:03月05日 著者:水野 良

瀬尾まいこという人は、デビューの時からずっと、血の繫がりより大切なものが家族にはあると言い続けてきた。優子は、血の繋がらない泉ヶ原からは動じない強さを、梨花からは芯の強さと行動力を、森宮からは柔軟な心を受け継いでいる。なんだ、ちゃんと親子じゃん。そう思って読んでいたはずなのに、最後まで読んで安堵の涙がこぼれてしまう。いつもやられてしまうな。あと、瀬尾まいこ作品はどれもこれも食事のシーンがいい。決して幸せ満載の作品ばかりではないのだが、食べて幸せを感じられるのは救いだ。★★★★★
読了日:03月06日 著者:瀬尾 まいこ

最初の話『悪い芽』も読後感がよろしくはなかった。しかし『鍵のない扉』と『オーバー・ザ・レインボウ』は駄目だ。「死ねばいいのに」と思うのと、「死ぬかもしれないことをやる」のは全然違う。と、文句を言いながらも読んでしまう。キリコのキャラクターがいいんだなあ。”相手に自分の考えを押しつけるのではなく、自分が考えを曲げて相手に従うのではなく、それ以外の解決法を見つけている。”服装は奇天烈でも、中身は大人だよね。★★★★☆
読了日:03月07日 著者:近藤 史恵

表題作の『心淋し川』がまず良い。お互いに想い合い、身分違いというわけでもないのに、結ばれないこともある。それが縁というものなのかもしれないなあ。逆に『冬虫夏草』は、母の業が怖い。差配が最後に言う「子供のためと口にする親ほど、存外、子供のことなぞ考えてないのかもしれないな」が心に刺さる。そこにあるのは愛情ではなく、ただの執着だ。差配の茂十が繋ぐ、ゆるい連作かと思ったら、最後の『灰の男』はがっつり茂十の話だった。死んだように生きるしかなかった男が生き直す場所は、この心町(うらまち)しかなかったのだろう。★★★★☆
読了日:03月08日 著者:西條 奈加

最初の方はエッセイと言うよりも、哲学や歴史についてを読んでいる気がしました。塩野七生の『ローマ人の物語』、ダンテの『神曲』、佐藤賢一のフランス史物などを読んでいたおかげで、思ったほどつらくはありませんでしたが、やっぱり知識の不足が残念だなあ。ところで、「エセー(随想録)」というので、「枕草子」や「徒然草」のような身辺雑記から発するあれこれかと思ったのですが、それよりちょっと宗教・哲学寄り。宗教戦争についてなどは、書いた当初は時事問題くらいの感覚だったのかしら。今読むとがっつり歴史なのですが。★★★★☆
読了日:03月09日 著者:

第一章と二章はショート・ショート。三章と四章は短編。ショート・ショートからにじみ出てくる悪意の切れ味に、思わずニヤリとしてしまう。フレドリック・ブラウンや星新一が好きな人は好きだと思う。短編の方は、読んでいる間中、人間という存在に対する嫌悪を突きつけられているようで、ちょっとしんどい。特に『青い竜の物語』は、人間に対する絶望ですらない、全くの無であり拒絶。『笑う宇宙』は筒井康隆的不条理な、家族の物語。作品世界が狂っているのか、読んでいるこちらがおかしくなってきているのか。どちらにしても孤独なのである。★★★★★
読了日:03月10日 著者:中原 涼

部屋から出たくない人ではなく、出られない人のためのアンソロジー。書かれているのは、なんらかの状況に閉じ込められて出ることができない人、または蛸。一番閉塞感が強く感じられたのが『私の女の実』。夫は妻の身体に痣が出来ていることに気づきもしなかった。自由にここではないどこかへ行きたかった妻を縛り付けているという自覚もなかった。結局どこへも行けなかった妻は、夫に優しく世話をされるようになる。それは解放?復讐?それとも…。家族との縁が薄かった夫が最後に感じたのは喜び?悲しみ?いかようにも読める、懐の深い小説でした。★★★★☆
読了日:03月13日 著者:萩尾 望都,萩原 朔太郎,フランツ・カフカ,立石 憲利,星 新一,エドガー・アラン・ポー,梶尾 真治,宇野 浩二,ハン・ガン,ロバート・シェクリイ,上田 秋成

ぶたぶたさんが居酒屋、バー、おでん屋、ワインバー、本のバーなど、お酒に関係するいろんなお店で働いている。どの店でもぶたぶたさんの作る料理や選んだお酒が美味しそう。ミステリ好きの人たちが曜日ごとにテーマを決め、曜日ごとにマスターをやるという、本のバーは面白そう。ミステリについて熱く語らっているお客さんたちの話を聞いているだけでもいい。話を聞くということでは、おでん屋さんのぶたぶたさん、お客さんの悩みは聞くけれど、解決はしないというスタンスはわかる。結局納得のいく解決策は自分の中からしか出てこないものだから。★★★★☆
読了日:03月14日 著者:矢崎 存美

1巻がマーモ公国の人物紹介だったとしたら、この巻では魔帝国の現況報告。のっけからニースの秘密が明かされて、ヒロイン枠の彼女が闇落ちするとなると、この先スパークと彼女の恋愛は成就しないということなのか。確かに私が読んだ版の表紙は、中央にニースが描かれているのだけれど、その背後に大きく描かれているのはリーフ。つまり、そういうことか。って納得して読んでいたのに、ニースはあっさり自分の秘密をスパークに告白してしまったからね。だけど、あんまりわくわくしないんだなあ。今時、こんなに善悪ハッキリの展開があるだろうか。★★★★☆
読了日:03月15日 著者:水野 良

料亭の女将の身辺調査のはずが、強盗事件に巻き込まれ、ヤクザと警察の両方から目を付けられる。強盗事件で知り合った青年の人懐こさがうさん臭いと思ったけれど、うさん臭いのはそっちでしたか。さて、最終章を読み始めても、タイトルの『それまでの明日』のそれの意味が解らなかったけれど、残り10行ほどでそれの意味が明確になる。年をとらない沢崎も、時代の中には存在しているわけだ。既に『それからの昨日』の執筆を始めているそうなので、出版を気長に待つ。私が生きてるうちに完成してね。お願い。★★★★☆
読了日:03月16日 著者:原りょう

結局この本を読んでも数学にはときめきませんでした。でも、ムギ畑算数教室の皆さんにはときめきました。「ムギ畑」というのは、ワーキングマザーとその予備軍が集う、会員制のサイトです。20年前の本なので、今もあるのかはわかりませんが。その場所で、仕事とも子どもとも関係のない、『算数』をお母さんたちが一生懸命考えるのです。損得でも義務でもない、楽しみとしての『算数』。大事なのは、公式を覚えることではなく、考え方を身につけること。そしてそれは、一朝一夕にできることではないということ。素敵。★★★★☆
読了日:03月18日 著者:新井 紀子

ミス・ビアンカシリーズの今回は、囚人友の会の名誉会長となったミス・ビアンカが、猫に対する勇気ある行動をとった者に対する叙勲から始まります。しかし、弱者に対して手を差し伸べる、その境遇から助け出す、そういう精神が最近は見られなくなってきているのではないか、とミス・ビアンカは思います。それは、一般的な福祉とはまた別のものだと思うのです。今回、冒険自体はそれほど大変ではなかったのですが、ミス・ビアンカの弱者救出への強い思いがはっきり書かれていて、面白かったです。★★★★☆
読了日:03月19日 著者:マージェリー・シャープ

全体として、ギリシャ・ローマ時代の偉人の言葉を引き合いにして語られるモンテーニュの思想は、哲学より歴史の面白さを感じられる。フランス語で歴史をなんというのかは知らないけれど、英語のhistoryとはまさに、彼の話ってことで、何年に何があったかではなく、だれがいつ何をしたかってことなんだな。(中国の歴史もそうだよね)でも結局偉人の言葉からのあれこれは、あんまり刺さらなかったなあ。セネカとかウェルギリウスが何を言おうと、他人事として面白いだけなんだなあ。★★★★☆
読了日:03月21日 著者:ミシェル・ド モンテーニュ

多少世間知らずなところがあるとはいえ、医学生として病人を見ると治療せずにはいられない好青年のマルコ・ダ・コーラの手記が第一章に当たる。そして二章に入ると、ジャック・プレストコットの手記となる。なるほど、この本に4人の訳者がいるというのは、そういうことか。この二人の手記は、それぞれに自分は善人であると思い、正しい行いをし、神に対して恥じることがないように書いていあるが、書かれている内容は必ずしも同じではない。信用できる語り手なんて存在はない、というのがこのタイトル『指差す標識の事例』ってことなんだろうか。★★★★☆
読了日:03月23日 著者:イーアン・ペアーズ

相変わらずキリコが夜間清掃をする場所での謎解きの話なんだけれど、作品の中で時間が流れているのがわかる。シリーズ一巻目の最後に結婚して、二巻目の最後の話でその後の結婚生活がちょっと出たけれども、このまま出先での謎解きがメインなら、結婚した意味があまりないかなあと思ったけれど、今回はよかったな。キリコの家庭が見えてくることで、キリコが悩むこともあり、人物が立体的になるので。看護師も人間だからいろいろあるだろうけれど、患者の子どもたちを傷つけるのは許せない。体の傷も、心の傷も。★★★★☆
読了日:03月25日 著者:近藤 史恵

主人公は、田舎の牧師館で暮らす平凡な17歳の少女・キャサリン。恋に恋するお年頃のこのヒロインは、『小さい頃はとても不器量で、男の子の遊びが大好きなお転婆娘で、勉強もできないし、音楽や絵の習い事もさっぱりだった。』と作者にきっぱり書かれるくらい、華やかなヒロイン像とは真逆の設定。私の脳内ではキャサリンとヘンリーが『はいからさんが通る』の紅緒さんと少尉に変換されました。そう、200年前のイギリスの小説を今の日本人が読んでも全然違和感がない。ヒストリカルロマンス小説やラブコメが好きな人は絶対ハマると思います。★★★★★
読了日:03月26日 著者:ジェイン オースティン

ぶたぶたさんの海の家は、かき氷をウリにしているけれど、この作品を書かれたときにたくさんできたかき氷の専門店は、今どのくらい残っているのだろう。ぶたぶたさんのお店は大丈夫だろうか。他の料理も美味しいみたいだから、大丈夫だといいのだけれど、流行りものに乗っかるっていうのはリスクも大きいから心配だわ。★★★★☆
読了日:03月27日 著者:矢崎 存美

私立探偵沢崎シリーズの長編の既刊をすべて読んでしまったので、最後にとっておいた短編集を読んだ。長編と長編の間に起きた事件だけど、長編で出て来た人の初登場はここだったのか、と思うことしばしば。沢崎は子どもに対しても不愛想だし、必ずしもハッピーエンドではないけれど、やっぱり面白くて一気に読める。というか、長編はプロットが複雑で、登場人物も錯綜して一筋縄ではいかないけれど、短編は事件がひとつなのでとても読みやす野である。これは、短編の方が好きという人もいるかもしれない。私はどちらも好きだけど。★★★★★
読了日:03月28日 著者:原 りょう

後半の方が興味深いテーマだったのだけど、何でだろう、なかなか文意が頭に入ってこない。というわけで、付箋は本の前半にばかり付きました。”徳とは、色鮮やかで、強力な染料なのであって、魂が一度それにひたされると、あとはもう、魂もろともはぎ取らないかぎり、その色が落ちることはない。”得ではなく徳を行動原理にしたいと常々思っていますが、難しいですね。自己中ではないつもりですが、好き嫌いが徳の足を引っ張るのです。精進しなくては。★★★★☆
読了日:03月31日 著者:ミシェル・ド モンテーニュ
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