カバー裏より
『事故で愛妻を喪い、失意の只中にあるうだつの上がらない大学講師の松嶋は、物故作家の未発表手記を入手する。絶望を乗り越え、名を上げるために、物故作家の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、彼の行く手には得体の知れない悪意が横たわっていた。二転三転する物語の結末は?著者渾身の傑作巨篇。』
主人公・松嶋は3ヶ月前に妻を交通事故で失くした大学講師。
夫婦喧嘩の果て、子どもを連れて実家に帰った時の事故のため、義理の両親との仲も上手くいかなくなり、子どもも取り上げられ、失意のまま日々を過ごしている。
そんな時、短編を数編発表しただけで自殺した作家の手記が手に入る。
これをもとに論文を書き、世に認められたら娘と暮らせるようになるかもしれない。
これが、まず一つ目のストーリー。
手記には戦後、医学校を中退し、叔父の病院を手伝いながら小説を書く語り手・佐脇依彦の身辺が綴られる。
偶然知り合った復員兵・井口の、死を前にした頼みである人探しをしたことによって、周囲の人々に次々襲いかかる悪意ある出来事。
誰が、なぜ、佐脇に悪意を向けるのか。
手記は最後までそれがわからないまま、書き手の自殺で終わっている。
松嶋は佐脇に何が起きたのかを調べ始めるが、それとともに松嶋自身にも悪意が降りかかってくる。
誰が、なぜ、松嶋に悪意を向けるのか。
そしてそれは、手記とどうかかわっているのか。
複雑に絡まる謎。
多数の登場人物。
しかし文章はすこぶる読みやすくわかりやすい。
手記部分が終わるまでで300ページ超。
全体で650ページの長編でしたが、面白くてするする読めました。
ただ、生き証人である長谷川医師に、論文の発表前にどうして一度手記を魅せなかったのか?そこがちょっと浅いよね。
だって長谷川医師は「見せて欲しい」と言っていたのだから。
そして見せてさえいれば、これほど大きな事件にはならなかったはずなのだから。
そう、悪意の主の企みは実に雑なのよ。
だけど主人公のガードが甘い。
そんなので学術的に評価される論文ができるのか?ってレベルだと思います。
でもまあ、面白かった。