ひとくちににボケると言っても、一直線に記憶がなくなるわけではなくて、忘れたり覚えていたりの行ったり来たりなのだそうです。
今日の母の現在地は、自分が結婚するまで住んでいた函館。
 
「今、(函館の)川原町に住んでいるのは誰だっけ?」
何度も自分の実家の様子を私に聞くので、でも私も全然様子はわからないので、「今度函館に行きますか?」と聞くと、「もう私のこと迎えてくれる人いないもの」という。
義理のお姉さんの話好きなところが苦手だと何度も言うけど、何度も気にかける。
行きたいけど、「来ないで」って言われるのが怖いんかなあ。
 
母の実の妹も函館なので、そっちに連絡してみたら?と言うと、「だって連絡くれないんだもの」とすねる。
自分は連絡しないくせに、連絡してほしい。
 
「最近函館に帰ることあるの?」
私ですか?私は函館に一度も住んでいたことはありませんよ。
「え?ほんとに?」
 
「アキちゃん(母の妹の娘)は今何してるの?」
結婚してお母さんになってますよ。
と言った数分後「アキちゃんは今度何年生になるの?」
「アキちゃんは元気でやっているの?」
ん?もしかして娘と名を間違ってる?
孫の名前は覚えていますか?
「孫…?私の…?ちょっとすぐには出てこないですけど」
じゃあ、孫は何人いますか?
「…何人だっけ…」
 
後退している。
気にするのは函館のことばかりで、あんなにかわいがっていた孫のことも忘れかけてる…。
ちょっとショックだったけど、まあ、また思い出すこともあるかもしれないし…。
それより、そんなに函館に帰りたいのなら、秋になって気候がよくなったら、一度函館に連れて行こうかと思ったり。
 
この間渡した、私の作ったチラシがちゃんと壁に貼ってありました。
ただし、あまり効果はないとのこと。

 
 
 
本日の読書:追憶のかけら 貫井徳郎

 

 

カバー裏より

『事故で愛妻を喪い、失意の只中にあるうだつの上がらない大学講師の松嶋は、物故作家の未発表手記を入手する。絶望を乗り越え、名を上げるために、物故作家の自殺の真相を究明しようと調査を開始するが、彼の行く手には得体の知れない悪意が横たわっていた。二転三転する物語の結末は?著者渾身の傑作巨篇。』

 

主人公・松嶋は3ヶ月前に妻を交通事故で失くした大学講師。

夫婦喧嘩の果て、子どもを連れて実家に帰った時の事故のため、義理の両親との仲も上手くいかなくなり、子どもも取り上げられ、失意のまま日々を過ごしている。

そんな時、短編を数編発表しただけで自殺した作家の手記が手に入る。

これをもとに論文を書き、世に認められたら娘と暮らせるようになるかもしれない。

これが、まず一つ目のストーリー。

 

手記には戦後、医学校を中退し、叔父の病院を手伝いながら小説を書く語り手・佐脇依彦の身辺が綴られる。

偶然知り合った復員兵・井口の、死を前にした頼みである人探しをしたことによって、周囲の人々に次々襲いかかる悪意ある出来事。

誰が、なぜ、佐脇に悪意を向けるのか。

手記は最後までそれがわからないまま、書き手の自殺で終わっている。

 

松嶋は佐脇に何が起きたのかを調べ始めるが、それとともに松嶋自身にも悪意が降りかかってくる。

誰が、なぜ、松嶋に悪意を向けるのか。

そしてそれは、手記とどうかかわっているのか。

 

複雑に絡まる謎。

多数の登場人物。

しかし文章はすこぶる読みやすくわかりやすい。

 

手記部分が終わるまでで300ページ超。

全体で650ページの長編でしたが、面白くてするする読めました。

ただ、生き証人である長谷川医師に、論文の発表前にどうして一度手記を魅せなかったのか?そこがちょっと浅いよね。

だって長谷川医師は「見せて欲しい」と言っていたのだから。

そして見せてさえいれば、これほど大きな事件にはならなかったはずなのだから。

 

そう、悪意の主の企みは実に雑なのよ。

だけど主人公のガードが甘い。

そんなので学術的に評価される論文ができるのか?ってレベルだと思います。

でもまあ、面白かった。