2月とは打って変わって、★5つ作品が3作。
やっぱり2月は忙しすぎたよなあ。
えげつない残業量だった。
読書を楽しむには心の余裕が必要と、改めて思いました。
さて『ブラフマンの埋葬』。
固有名詞といえば、このブラフマンのみで、それ以外はすべてどこでもない誰でもない、どこかの誰かとして描かれるこの作品。
それだからこそ、主人公とブラフマンの交流の温かさが本当に好きでした。
タイトルがタイトルだけに、覚悟して読み始めたはずなのに、一瞬で小さくてもかけがえのない命が喪われてしまったことに大きなショックを受けてしまいました。
小川洋子の手腕にやられた。
『花火・来訪者』については、森鴎外をリスペクトする永井荷風に星5つ。
彼の作品ほど作者自身を投影しているものがあるだろうか。
あるだろうけど。
後世の人は永井荷風を文句ばっかり垂れる偏屈爺と思うかもしれないけれど、良いものは良いと認める人なのである。
好き嫌いは激しいが。
『世界の果てのこどもたち』は、タイトルといい表紙絵といい、もっとふわふわと柔らかい話かと思って読みはじめたら、違った。
戦争末期の満州が舞台でありながら、空は青く大きくて、子どもたちは日本人も満州人も韓国人も関係なくのびのび育つ。
だからこそ、そこからの人生の激変が胸に痛い。
その時代に生まれてしまっただけで、どうしてこんな目にあわされなければならないのか。
そして、戦後を境にきっぱりと生活が変わるわけではない。
ずっとずっと追いかけてくる、戦中の歪み。
そういう人生がいくつもいくつもあったということを、そして多分祖父母や父母の世代はそれが日常であったことを、忘れたくないと思う。
3月の読書メーター
読んだ本の数:32
読んだページ数:9979
ナイス数:712
おいしいコーヒーのいれ方 (4) 雪の降る音 (集英社文庫)の感想
夏休みの最後、父親の再婚話を聞くためにかれんと二人で福岡に行く話と、クリスマスにかれんに指輪を渡す予定が、ケンカして大みそかまでこじらせてしまう話。ここにきてこの作品の気に入らない理由がわかった。大人が、きちんと書かれていないことだ。青少年をターゲットにした作品なら、余計に大人をきちんと書いてほしいのだ。単身赴任をしても、自分の身の回りすらちゃんとできない勝利の父。そのうえデキ婚で再婚って、自分を律することも出来てないってことじゃないか。そんな父を子どもは尊敬できるのか?私なら軽蔑する。★★★★☆
読了日:03月02日 著者:村山 由佳
森の中に埋めた (創元推理文庫)の感想
風力発電に関する推進派(政府・企業)と反対派(市民)の対立。自分達の主張を通すためには手段を取らないそのやり口は、どちらも嫌悪を抱かせる。シリーズが進むたびにオリヴァーの情けなさが露になる。職場に連絡もしないで個人行動ばかりなのは組織人としてアウトでしょ。「結婚が破綻し、両親のところに居候し、ゾフィアのベビーシッターしかまともにできることがない。仕事にも身が入らない。ここにいる意味あるかい?」という、最後のオリヴァーのセリフに、ベビーシッターもまともにできてませんけど!と突っ込んだのは私だけではあるまい。★★★★☆
読了日:03月03日 著者:ネレ・ノイハウス
ブラフマンの埋葬 (講談社文庫)の感想
ブラフマンが何という動物なのかは作中で明らかにされてはいないけれど、私の脳内ではすっかりそれはカワウソとなって、せわしなく動き回り、水と戯れ、満ち足りて眠りについた。僕とブラフマンの間にある、言葉すら必要としない全きな信頼と愛情。子どもが親を慕うように、無条件で僕を信じ、求め、僕に何かあったら全力で守ろうとするブラフマン。こんなに美しい感情のやり取りがあるだろうか。だからこそあの瞬間、脳内でブラフマンの姿を追っていた私は、ただ涙を流しながら立ち尽くすことしかできなかった。★★★★★
読了日:03月04日 著者:小川 洋子
花火・来訪者 他十一篇 (岩波文庫)の感想
決して私小説ではないのに、随筆だと思って読んでいるといつの間にか小説の世界に迷い込んでしまう。きらびやかではない、いぶし銀の華やかさ。「女中のはなし」「来訪者」など、読んでいてぞくぞくする。新潮社と森鴎外の確執は知らなかった。森鴎外の死に際して新潮社の出した記事「鷗外博士は翻訳こそしたが彼の仕事が文壇にとってどれだけ意義あるものかは疑わしい。」これに激怒して荷風は新潮社からの作品の出版を断ったという。ちなみに現在は森鴎外の本も永井荷風の本も新潮社から出版されている。荷風からしたら不本意かもしれないけれど。★★★★★
読了日:03月06日 著者:永井 荷風
一の食卓 5 (花とゆめCOMICS)の感想
斎藤一が試衛館から離れ、京都に行くことになった経緯、明(はる)の初めての友達、女のくせに通詞を目指す琴のはなし、築地のパン職人にクロワッサンのつくり方を教えるため、実力を隠して下働きに徹しようとする明の話の3本。さて、この作品は斎藤一を描きたいのか、食卓を描きたいのか。とりあえず斎藤は明に「あきらめるな」「あらがえ」と言う。女性が男性の中に入って生きる難しさと、身分の差に苦しむ男世界の苦しさ。未だ諦めずに抗わなければならない世であることにがっかりだよ。
読了日:03月07日 著者:樹なつみ
一の食卓 6 (花とゆめCOMICS)の感想
え?え?第一部終了?何も解決してませんけど?岩倉卿暗殺計画は未然に防げたけれど、犯人の目星はついているらしいが、一部はここまで。明の思いと一の生き様。このまま一つの話に収まるのだろうか。相当無理を重ねたところで終わったけれども。明はざんぎり頭になって、男として厨房に立つことにしたけれど、女のまま通詞を目指す琴とのエピソードが生きてないと感じた。
読了日:03月07日 著者:樹なつみ
君の膵臓をたべたい (双葉文庫)の感想
人の死をエサに感動を強要するような小説が嫌い。ましてこの、いかにも「気になるでしょ?」的なあざといタイトル。ケンカ腰でこの本を読みました。「わたし、もうすぐ死ぬんだよ」とあっけらかんと言う、語り手の少年のクラスメイトである山内桜良(さくら)。「死ぬよ。」彼女がそう言うたびに、「死にたくない!」と彼女が叫んでいるような気がして、読んでいても息苦しい。それでも、この本は若い人に読んでもらいたいと思った。何が起こるかわからないからこそ、自分の時間の無駄遣いをしている余裕など誰にもないのだと気づいてほしいから。★★★★☆
読了日:03月07日 著者:住野 よる
RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日 (カドカワ銀のさじシリーズ)の感想
戸隠忍術対陰陽師。学校祭の場を借りたこの戦いは、思わぬ決着を迎えた。少年も少女も成長する。いつまでも同じ場所にはいられないということだ。残りあと一冊でこの世界の在りようまで変えられる気がしないので、最終巻は泉水子と深行の決意で終わるのかな。泉水子の気持は最初から深行に会ったけど、深行の方も自覚的だったのか。そのうえで泉水子の言葉を欲しがるというのは、まだ自信がないということ?★★★★☆
読了日:03月08日 著者:荻原 規子
とりぱん(13) (ワイドKC)の感想
このマンガを読み始めたとき、つぐみんの間の悪さ、不器用さが不憫でしょうがなかったけれど、この頃はそれでいいような気がしてきた。作者も書いているように「打たれ強い弱腰」ってなんか最強じゃないですか?いや、全然最強じゃないな。派遣OLつぐみちゃんじゃないけど、がら空きの店には入れないタイプ。なのに、相席にビビる。やっぱ最弱か…。でも、つぐみんいいなあ。癒される。表紙はカワラヒワ。
読了日:03月08日 著者:とりの なん子
ローマ人の物語 (25) 賢帝の世紀(中) (新潮文庫)の感想
賢帝として有名なハドリアヌス。ローマ史をほとんど知らない私でも、それだけは知っているくらい。だけど今回これを読んだけど、彼が突出した賢帝とはちょっと思えなかった。しかし、ハドリアヌスのすごいところは、就任直後に自分のやりやすいように素早く反対派を粛清したことと、皇帝が不在でも機能するように法を、組織を整備したこと。通算すると10数年も国を空けた皇帝なんてちょっと考えられないが、行く先々できっちり仕事をこなし、帝国を盤石のものにしたのである。それはそれで突出してるか。★★★★☆
読了日:03月09日 著者:塩野 七生
マルコの夢の感想
ゴールデンウィークが過ぎても就職が決まらない一馬は、フランスで働く姉の仕事を手伝うために渡仏し、その後三つ星レストランで働くことになった。流されるように生きている一馬が、そこで自分を成長させる物語かと思いきや、今度は幻の食材「マルコ」の買い付けのために日本に戻される。幻の食材を求めて奔走する話なのかと思いきや、話はとんでもない方向へと流されてゆく。絡めとられていく。キノコに。キノコに?なにやらむずむずする読後感。キノコの最終形態は冬虫夏草ならぬ冬人夏草なのではないかと思い至る。考えすぎでしょうか。★★★★☆
読了日:03月10日 著者:栗田 有起
新装版 功名が辻 (1) (文春文庫)の感想
私は山内一豊が好きではない。なぜなら、幕末の土佐藩の迷走は、山内一豊の器の小ささがその種だったと思っているから。功名を立てたい、とやみくもに思うだけで、ほぼほぼ妻の千代の掌で転がされておる。しかし、千代、いけ好かないです。世間知らずの温室育ちで嫁いできた割りには、人の心を読んで、状況を掴むのが上手い。気持ち悪いくらいに。本心を押し隠して、夫を自分の思うとおりに動かす。怖い女です。と、悪口ばかり書きましたが、とっても読みやすいのです。情景が次々と目に浮かんできて、気がつくとあっという間に読み終えていました。★★★★☆
読了日:03月11日 著者:司馬 遼太郎
砂の女 (新潮文庫)の感想
砂丘に住んでいるかもしれない、新種の虫を捜しにちょっと立ち寄った海沿いの寒村で、砂に埋もれた一軒家に閉じ込められる男。脱出するために、考えられる限りの方法を試みるが、砂は崩れ、彼は外に出ることができない。そういう状況に陥るのも怖いけれど、元々その家に住んでいる女の、状況をまるごと受け入れる姿も恐ろしい。世界を知ろうと思わなければ、どんな環境でも人は閉塞感を感じることなく生きていけるのか?もしかしてそれは、ブラック企業だと思いながらも会社のやり方にならされていく私たちの姿なのかもしれない。★★★★☆
読了日:03月12日 著者:安部 公房
おいしいコーヒーのいれ方 (5) 緑の午後 (集英社文庫)の感想
感想が浮かびません。ただ文字列を目で追っただけ。(* ̄- ̄)ふ~んって。感受性が枯渇したのか、登場人物の気持に寄り添えません。人気シリーズだというのに、残念です。★★★☆☆
読了日:03月13日 著者:村山 由佳
NATURAL (第1巻) (白泉社文庫)の感想
第一話は長年ペルーで単身赴任していたお父さんが、養子にしたミゲールを連れて日本に帰って来るのを迎える理子(あやこ)の話。このまま理子が主役かと思ったら、それ以降はミゲールが話の中心。なぜ彼は日本人の養子になったのか。どうもそれは、過去の出来事が関係しているらしいが、それはこれから明かされるのだろう。バスケと弓道を通して、仲間または自分と向き合うミゲール。そんな彼の友人たち、母子家庭の堂本、彼の幼馴染み大沢、日本生まれだが見た目が黒人なのでアイデンティティに悩むJRとの関係性もとても良い。
読了日:03月14日 著者:成田 美名子
NATURAL (第2巻) (白泉社文庫)の感想
バスケ編はひとまず終了。今巻では弓道からの青森編。西門(さいもん)さんに誘われて、バスケと弓道の練習を兼ねて青森へ。行きがかりで神事に参加することになったミゲール。自分は悪い人間だというミゲールに西門は言う。「人間は…誰でも間違うし失敗するんだ。だから祈るんだよ」堂本と大沢のコンビが、「あいつ」の沢田と七尾みたいで懐かしい。コマ割りの上手さと、トーンに頼らない手描きの網掛けの安心感。ストーリーも画力も最上の成田美名子のマンガを存分に堪能しました。で、ミゲールに何が起きるの?どきどき。
読了日:03月14日 著者:成田 美名子
葛飾土産 (中公文庫)の感想
戦後の作品を集めた作品集。戦後の食糧難について”われわれが再びバナナやパインアップルを貪り食うことのできるのはいつの日であろう。この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以って山海の美味に飽くことができるだろうか。”と書いた荷風。思ったより早く飽食の時代に突入してしまったけれど、荷風はなんと思っただろうか。やっぱり何か毒づくんだろうなあ。★★★★☆
読了日:03月16日 著者:永井 荷風
悪しき狼 (創元推理文庫)の感想
今回の事件は、いつにも増して読み進めるのが辛かった。児童虐待。性暴力。何度も辛くて本を置き、続きが気になって再び手に取った。そしてこのシリーズは、社会の上辺にいる人たちの自己中心的な行動が犯罪を引き起こし、そして犯罪の影には必ず悪女が…というパターンになっている。今回はその犯罪の影、必要だったかな?が、目を覆いたくなるようなおぞましい暴力をふるう割には、詰めが甘い。それからヨーロッパを股にかけた人脈を誇る割に、実行部隊が少なすぎるよね。そしてやつは今後も出てくるのかな?★★★★☆
読了日:03月18日 著者:ネレ・ノイハウス
世界の果てのこどもたち (講談社文庫)の感想
珠子、茉莉、美子(ミジャ)。終戦前の満州でひと夏の間、3人は友達だった。それは彼女たちの長い長い生涯のなかのほんの短い時間だったけれど、この出会いが今後の辛い人生の中で彼女たちの精神的な支えになった。戦争中よりも、戦後の生活の方が辛い。戦争が終わっても、ずっとずっと戦争の影が彼女たちを追いかける。だけど彼女たちは、少なくとも家族に愛され友達と楽しく過ごした過去がある。だから生きてこられたのだ。どんな大義名分があろうとも、弱いというだけで踏みつけられる世の中は間違っていると強く思った。★★★★★
読了日:03月19日 著者:中脇 初枝
RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと (カドカワ銀のさじシリーズ)の感想
ずっと自分の弱さにコンプレックスを感じていた泉水子。負けず嫌いで自分に自信のある高柳や真響(まゆら)は、相手を完膚なきまでに叩き潰してこその勝利と考えるが、遠い将来人類を滅亡に導くという姫神をうちに抱える泉水子は、繋げることで戦いを回避し、結果すべてを受け入れる。全てを受け入れるというのは、善も悪もないということ。未だ自分の力を制御できない泉水子。そして、素直なあまり簡単に人に騙されてしまう泉水子。深行はそんな泉水子に、一緒に道を探していこうという。うん、いいね。★★★★☆
読了日:03月20日 著者:荻原 規子
NATURAL (第3巻) (白泉社文庫)の感想
青森での夏合宿、冬合宿、その間の青森一泊旅行と青森情報満載で、青森に住んでいた時に津軽三年かねさ味噌食べてたな~とか、奥入瀬ってまさしくあんな場所だったな~などと懐かしく思い出す。のはさておいて、理子とミゲールと西門と彩紀、部長、堂本とほのかに恋愛の匂い。だがそれは、成田作品では決して主流にはならない。西門の予知夢の謎はまだ明かされないけれど、未来は変えられる。心がけ次第でという台詞が、この先のミゲールの悲劇を回避するのだと信じたい。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子
NATURAL (第4巻) (白泉社文庫)の感想
ファビアンの登場により、遂にペルー時代のミゲールの過去が明かされる。幼いミゲールがファビアンを撃ってしまったこと、それはずっとミゲールの苦しみのタネとして彼の心に残っていたけれど、ファビアンが生きていた、そして日本にいたということが、この先のミゲールにどう関わって来るのか?報復を恐れてミゲールを守ろうとする友人たち(西門も含む)と、ファビアンの真意を知りたいミゲール。ミゲールの安全を守るため、携帯を買ってミゲールに持たせる大沢がいい。目立たないけれど自分に何ができるのか、じっくり考えて行動できる子だ。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子
NATURAL (第5巻) (白泉社文庫)の感想
ミゲールの周りにはいつも人がいると言ったのはファビアンだけど、ファビアンにも、彼のそばで彼を心配し、見守る人がいたことを知る。子どものころにきちんと育ててもらえなかったファビアンは、人とコミュニケーションということ自体を知らなかったのだ。両手をひろげてファビアンを受け入れたミゲールを、刺してしまったことの意味。それはおたがいに言葉を尽して話し合わなければ、理解のできないことだったのだ。そして二人はきっと、そのままの自分を受け入れることで、人として一歩成長してくのだろう。未来は変えられたのだから。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子
ローマ人の物語 (26) 賢帝の世紀(下) (新潮文庫)の感想
うーん、賢帝ハドリアヌスですか。確かに有能な皇帝であったと思うけれど、賢帝であったかというと、どうだろう。公私の、ON-OFFの切り替えが上手い人なのだと思うけど、人としての魅力に欠けるよね。これ、周囲の人は大変だったろうなあと思いながら読んでいたら、案の定同時代に生きた人たちのハドリアヌス評はあまり高くない。国情を現状維持するって地味に大変だけれど、評価が低いのが常。だけど、人として賢かったアントニヌス・ピウスはきっちり仕事をしたうえに、国民の支持も厚かった。こういう人を賢帝というのではないかしら。★★★★☆
読了日:03月23日 著者:塩野 七生
夢見通りの人々 (新潮文庫)の感想
大阪の下町(っていうの?)にある、夢見通り商店街に住む人々が織りなす人間模様。ちょっぴりビターが濃い目だけど、人々は鬱屈を抱えながらも強かに、あっけらかんと生きている。特に秀逸なのが、かまぼこ屋の2階に住んでいる里見春太。真面目で、不器用で、間が悪くて、いつも報われない。だけど彼を見ていると、どういうわけか人生それほど悪いものじゃないなあと思えてくる。幸せなんて簡単な言葉では言い表せない、何とも言えないぬくもりがこの町にはある。ヒリヒリとした痛みももれなくついてくるけれど。★★★★☆
読了日:03月24日 著者:宮本 輝
新装版 功名が辻 (2) (文春文庫)の感想
千代は伊右衛門のことを支えていると思っているのかもしれないけれど、下から支えているというよりも、上から支配しているように見える。そして私が千代について気に入らないのは、彼女の視界の中には、上の世界と自分達しかいないこと。日常的な家臣への目配りのようなものがない。ちょっとしか出てこない北政所はきちんと存在感を示しているのに。もちろんこれはあくまでも司馬遼太郎が書く千代であって、本当は違うのかもしれない。でも、後の土佐藩を見ると、やっぱり周囲の人に対する配慮のない夫婦だったのではないかと思う。偏見だけど。★★★★☆
読了日:03月25日 著者:司馬 遼太郎
おいしいコーヒーのいれ方 (6) 遠い背中 (集英社文庫)の感想
なんで二人の恋をそんなに秘密にしなければならないのか、本当にわからない。かれんが実の娘であるとかないとか、そんなのが付き合うことの障害になりますか?23歳の大人のかれんに出生の秘密を打ち明ける覚悟のない花村の両親ではないと思う。それとも、戸籍を見ればすぐにわかるような、養女である事実を、死ぬまで隠し通せると思っているのか?お見合いの話を持って来るよりも、そっちの方が先じゃないの?いつも立派な親である必要はないけれど、少なくとも子どもの悩みが子どもの悩みで終わるような、大人の度量を見せて欲しいのだけど。★★★★☆
読了日:03月27日 著者:村山 由佳
花よりも花の如く (1) (花とゆめCOMICS)の感想
『NATURAL』の主要人物・榊原西門(さいもん)の実兄憲人(のりと)を主役にした、能を題材にした読み切り連作。憲人の母の実家が能の一家だが、叔父さんがいるので後継ぎというわけではない。西門は伯父さんの家に養子に行って、神主として神社を継ぐ。で、実家の弓道家はは誰が継ぐの?妹?って家系図を見て思ったけど、本編を読んでそんなことはどうでもよくなってしまった。痴漢の冤罪で謹慎処分になっても、かならず戻ってくると思える場所があるって、いい。コミックで読んだけど、kindleで外伝も読了。
読了日:03月28日 著者:成田 美名子
花よりも花の如く (2) (花とゆめCOMICS)の感想
「とうとうたらりたらりら」が秀逸。憲人の幼い頃の事故がトラウマになっていないかそっと確認する祖父。通りすがりの人の善意に救われた憲人は、自分も人を救いたいと思うし、人の善意を信じたいと願う。それと能の「養老」や「翁」などと絡めつつ、憲人の能楽師としての成長を描く。
亡くなった伯母が、趣味で能を習っていて、鼓など打たせてもらったこともあるけど、もっと能のことを聞いておけばよかったなあと残念に思う。
読了日:03月28日 著者:成田 美名子
眠れるラプンツェル (角川文庫)の感想
山本文緒の小説はたいてい好きだけど、これはダメだったなあ。読んでいて気持ち悪くてしょうがなかった。結婚6年目、子どもなし、夫は多忙でめったに帰ってこない。私が気持ち悪いのは汐美の夫だ。どれほど汐美の心が空虚でも、気づかない。興味がない。自分が居心地のよい家庭を作ってくれないのなら、妻なんぞ要らないのだ。汐美の恋愛についても思うところはあるけれど、何よりもこの夫の汐美に対する興味のなさが気持ち悪くて。そういう人が人の心を打つCMを作るのもまた気持ち悪かった。★★★★☆
読了日:03月28日 著者:山本 文緒
生者と死者に告ぐ (創元推理文庫)の感想
殺人を犯した犯人は、もちろん悪い。何しろ殺された人たちには何の落ち度もないのだから。では、犯人はなぜそれらの人を殺さねばならなかったのか。ここが、この作品の肝なのだけど。怪しい人が何人も出てくるのね。プロファイルされた犯人像に近い人が何人も。で、被害者家族がまた、一筋縄ではいかないのよ。どうして本当のことを言わないの?何を隠しているの?そしてなんとまあ、自分勝手な人であることよ。そして、今回初登場の彼女。絶対彼女はオリヴァーと付き合うことになるよね。★★★★☆
読了日:03月30日 著者:ネレ・ノイハウス
とりぱん(14) (ワイドKC)の感想
巻を追うごとに面白くなってきているお便りコーナー。先日車で走っていると、木の実を咥えたカラスが道路わきを飛んでいたので、うちの車のタイヤで殻を割るのか!と身構えたけど、何事もなく飛び去って行った。ねえ、とりのなん子さんみたいな面白いことって、どうやったら体験できるの?今回はつぐみんの話が少なくて寂しい。早く日本に戻ってきて~。
読了日:03月30日 著者:とりの なん子
読書メーター
やっぱり2月は忙しすぎたよなあ。
えげつない残業量だった。
読書を楽しむには心の余裕が必要と、改めて思いました。
さて『ブラフマンの埋葬』。
固有名詞といえば、このブラフマンのみで、それ以外はすべてどこでもない誰でもない、どこかの誰かとして描かれるこの作品。
それだからこそ、主人公とブラフマンの交流の温かさが本当に好きでした。
タイトルがタイトルだけに、覚悟して読み始めたはずなのに、一瞬で小さくてもかけがえのない命が喪われてしまったことに大きなショックを受けてしまいました。
小川洋子の手腕にやられた。
『花火・来訪者』については、森鴎外をリスペクトする永井荷風に星5つ。
彼の作品ほど作者自身を投影しているものがあるだろうか。
あるだろうけど。
後世の人は永井荷風を文句ばっかり垂れる偏屈爺と思うかもしれないけれど、良いものは良いと認める人なのである。
好き嫌いは激しいが。
『世界の果てのこどもたち』は、タイトルといい表紙絵といい、もっとふわふわと柔らかい話かと思って読みはじめたら、違った。
戦争末期の満州が舞台でありながら、空は青く大きくて、子どもたちは日本人も満州人も韓国人も関係なくのびのび育つ。
だからこそ、そこからの人生の激変が胸に痛い。
その時代に生まれてしまっただけで、どうしてこんな目にあわされなければならないのか。
そして、戦後を境にきっぱりと生活が変わるわけではない。
ずっとずっと追いかけてくる、戦中の歪み。
そういう人生がいくつもいくつもあったということを、そして多分祖父母や父母の世代はそれが日常であったことを、忘れたくないと思う。
3月の読書メーター
読んだ本の数:32
読んだページ数:9979
ナイス数:712

夏休みの最後、父親の再婚話を聞くためにかれんと二人で福岡に行く話と、クリスマスにかれんに指輪を渡す予定が、ケンカして大みそかまでこじらせてしまう話。ここにきてこの作品の気に入らない理由がわかった。大人が、きちんと書かれていないことだ。青少年をターゲットにした作品なら、余計に大人をきちんと書いてほしいのだ。単身赴任をしても、自分の身の回りすらちゃんとできない勝利の父。そのうえデキ婚で再婚って、自分を律することも出来てないってことじゃないか。そんな父を子どもは尊敬できるのか?私なら軽蔑する。★★★★☆
読了日:03月02日 著者:村山 由佳

風力発電に関する推進派(政府・企業)と反対派(市民)の対立。自分達の主張を通すためには手段を取らないそのやり口は、どちらも嫌悪を抱かせる。シリーズが進むたびにオリヴァーの情けなさが露になる。職場に連絡もしないで個人行動ばかりなのは組織人としてアウトでしょ。「結婚が破綻し、両親のところに居候し、ゾフィアのベビーシッターしかまともにできることがない。仕事にも身が入らない。ここにいる意味あるかい?」という、最後のオリヴァーのセリフに、ベビーシッターもまともにできてませんけど!と突っ込んだのは私だけではあるまい。★★★★☆
読了日:03月03日 著者:ネレ・ノイハウス

ブラフマンが何という動物なのかは作中で明らかにされてはいないけれど、私の脳内ではすっかりそれはカワウソとなって、せわしなく動き回り、水と戯れ、満ち足りて眠りについた。僕とブラフマンの間にある、言葉すら必要としない全きな信頼と愛情。子どもが親を慕うように、無条件で僕を信じ、求め、僕に何かあったら全力で守ろうとするブラフマン。こんなに美しい感情のやり取りがあるだろうか。だからこそあの瞬間、脳内でブラフマンの姿を追っていた私は、ただ涙を流しながら立ち尽くすことしかできなかった。★★★★★
読了日:03月04日 著者:小川 洋子

決して私小説ではないのに、随筆だと思って読んでいるといつの間にか小説の世界に迷い込んでしまう。きらびやかではない、いぶし銀の華やかさ。「女中のはなし」「来訪者」など、読んでいてぞくぞくする。新潮社と森鴎外の確執は知らなかった。森鴎外の死に際して新潮社の出した記事「鷗外博士は翻訳こそしたが彼の仕事が文壇にとってどれだけ意義あるものかは疑わしい。」これに激怒して荷風は新潮社からの作品の出版を断ったという。ちなみに現在は森鴎外の本も永井荷風の本も新潮社から出版されている。荷風からしたら不本意かもしれないけれど。★★★★★
読了日:03月06日 著者:永井 荷風

斎藤一が試衛館から離れ、京都に行くことになった経緯、明(はる)の初めての友達、女のくせに通詞を目指す琴のはなし、築地のパン職人にクロワッサンのつくり方を教えるため、実力を隠して下働きに徹しようとする明の話の3本。さて、この作品は斎藤一を描きたいのか、食卓を描きたいのか。とりあえず斎藤は明に「あきらめるな」「あらがえ」と言う。女性が男性の中に入って生きる難しさと、身分の差に苦しむ男世界の苦しさ。未だ諦めずに抗わなければならない世であることにがっかりだよ。
読了日:03月07日 著者:樹なつみ

え?え?第一部終了?何も解決してませんけど?岩倉卿暗殺計画は未然に防げたけれど、犯人の目星はついているらしいが、一部はここまで。明の思いと一の生き様。このまま一つの話に収まるのだろうか。相当無理を重ねたところで終わったけれども。明はざんぎり頭になって、男として厨房に立つことにしたけれど、女のまま通詞を目指す琴とのエピソードが生きてないと感じた。
読了日:03月07日 著者:樹なつみ

人の死をエサに感動を強要するような小説が嫌い。ましてこの、いかにも「気になるでしょ?」的なあざといタイトル。ケンカ腰でこの本を読みました。「わたし、もうすぐ死ぬんだよ」とあっけらかんと言う、語り手の少年のクラスメイトである山内桜良(さくら)。「死ぬよ。」彼女がそう言うたびに、「死にたくない!」と彼女が叫んでいるような気がして、読んでいても息苦しい。それでも、この本は若い人に読んでもらいたいと思った。何が起こるかわからないからこそ、自分の時間の無駄遣いをしている余裕など誰にもないのだと気づいてほしいから。★★★★☆
読了日:03月07日 著者:住野 よる

戸隠忍術対陰陽師。学校祭の場を借りたこの戦いは、思わぬ決着を迎えた。少年も少女も成長する。いつまでも同じ場所にはいられないということだ。残りあと一冊でこの世界の在りようまで変えられる気がしないので、最終巻は泉水子と深行の決意で終わるのかな。泉水子の気持は最初から深行に会ったけど、深行の方も自覚的だったのか。そのうえで泉水子の言葉を欲しがるというのは、まだ自信がないということ?★★★★☆
読了日:03月08日 著者:荻原 規子

このマンガを読み始めたとき、つぐみんの間の悪さ、不器用さが不憫でしょうがなかったけれど、この頃はそれでいいような気がしてきた。作者も書いているように「打たれ強い弱腰」ってなんか最強じゃないですか?いや、全然最強じゃないな。派遣OLつぐみちゃんじゃないけど、がら空きの店には入れないタイプ。なのに、相席にビビる。やっぱ最弱か…。でも、つぐみんいいなあ。癒される。表紙はカワラヒワ。
読了日:03月08日 著者:とりの なん子

賢帝として有名なハドリアヌス。ローマ史をほとんど知らない私でも、それだけは知っているくらい。だけど今回これを読んだけど、彼が突出した賢帝とはちょっと思えなかった。しかし、ハドリアヌスのすごいところは、就任直後に自分のやりやすいように素早く反対派を粛清したことと、皇帝が不在でも機能するように法を、組織を整備したこと。通算すると10数年も国を空けた皇帝なんてちょっと考えられないが、行く先々できっちり仕事をこなし、帝国を盤石のものにしたのである。それはそれで突出してるか。★★★★☆
読了日:03月09日 著者:塩野 七生

ゴールデンウィークが過ぎても就職が決まらない一馬は、フランスで働く姉の仕事を手伝うために渡仏し、その後三つ星レストランで働くことになった。流されるように生きている一馬が、そこで自分を成長させる物語かと思いきや、今度は幻の食材「マルコ」の買い付けのために日本に戻される。幻の食材を求めて奔走する話なのかと思いきや、話はとんでもない方向へと流されてゆく。絡めとられていく。キノコに。キノコに?なにやらむずむずする読後感。キノコの最終形態は冬虫夏草ならぬ冬人夏草なのではないかと思い至る。考えすぎでしょうか。★★★★☆
読了日:03月10日 著者:栗田 有起

私は山内一豊が好きではない。なぜなら、幕末の土佐藩の迷走は、山内一豊の器の小ささがその種だったと思っているから。功名を立てたい、とやみくもに思うだけで、ほぼほぼ妻の千代の掌で転がされておる。しかし、千代、いけ好かないです。世間知らずの温室育ちで嫁いできた割りには、人の心を読んで、状況を掴むのが上手い。気持ち悪いくらいに。本心を押し隠して、夫を自分の思うとおりに動かす。怖い女です。と、悪口ばかり書きましたが、とっても読みやすいのです。情景が次々と目に浮かんできて、気がつくとあっという間に読み終えていました。★★★★☆
読了日:03月11日 著者:司馬 遼太郎

砂丘に住んでいるかもしれない、新種の虫を捜しにちょっと立ち寄った海沿いの寒村で、砂に埋もれた一軒家に閉じ込められる男。脱出するために、考えられる限りの方法を試みるが、砂は崩れ、彼は外に出ることができない。そういう状況に陥るのも怖いけれど、元々その家に住んでいる女の、状況をまるごと受け入れる姿も恐ろしい。世界を知ろうと思わなければ、どんな環境でも人は閉塞感を感じることなく生きていけるのか?もしかしてそれは、ブラック企業だと思いながらも会社のやり方にならされていく私たちの姿なのかもしれない。★★★★☆
読了日:03月12日 著者:安部 公房

感想が浮かびません。ただ文字列を目で追っただけ。(* ̄- ̄)ふ~んって。感受性が枯渇したのか、登場人物の気持に寄り添えません。人気シリーズだというのに、残念です。★★★☆☆
読了日:03月13日 著者:村山 由佳

第一話は長年ペルーで単身赴任していたお父さんが、養子にしたミゲールを連れて日本に帰って来るのを迎える理子(あやこ)の話。このまま理子が主役かと思ったら、それ以降はミゲールが話の中心。なぜ彼は日本人の養子になったのか。どうもそれは、過去の出来事が関係しているらしいが、それはこれから明かされるのだろう。バスケと弓道を通して、仲間または自分と向き合うミゲール。そんな彼の友人たち、母子家庭の堂本、彼の幼馴染み大沢、日本生まれだが見た目が黒人なのでアイデンティティに悩むJRとの関係性もとても良い。
読了日:03月14日 著者:成田 美名子

バスケ編はひとまず終了。今巻では弓道からの青森編。西門(さいもん)さんに誘われて、バスケと弓道の練習を兼ねて青森へ。行きがかりで神事に参加することになったミゲール。自分は悪い人間だというミゲールに西門は言う。「人間は…誰でも間違うし失敗するんだ。だから祈るんだよ」堂本と大沢のコンビが、「あいつ」の沢田と七尾みたいで懐かしい。コマ割りの上手さと、トーンに頼らない手描きの網掛けの安心感。ストーリーも画力も最上の成田美名子のマンガを存分に堪能しました。で、ミゲールに何が起きるの?どきどき。
読了日:03月14日 著者:成田 美名子

戦後の作品を集めた作品集。戦後の食糧難について”われわれが再びバナナやパインアップルを貪り食うことのできるのはいつの日であろう。この次の時代をつくるわれわれの子孫といえども、果してよく前の世のわれわれのように廉価を以って山海の美味に飽くことができるだろうか。”と書いた荷風。思ったより早く飽食の時代に突入してしまったけれど、荷風はなんと思っただろうか。やっぱり何か毒づくんだろうなあ。★★★★☆
読了日:03月16日 著者:永井 荷風

今回の事件は、いつにも増して読み進めるのが辛かった。児童虐待。性暴力。何度も辛くて本を置き、続きが気になって再び手に取った。そしてこのシリーズは、社会の上辺にいる人たちの自己中心的な行動が犯罪を引き起こし、そして犯罪の影には必ず悪女が…というパターンになっている。今回はその犯罪の影、必要だったかな?が、目を覆いたくなるようなおぞましい暴力をふるう割には、詰めが甘い。それからヨーロッパを股にかけた人脈を誇る割に、実行部隊が少なすぎるよね。そしてやつは今後も出てくるのかな?★★★★☆
読了日:03月18日 著者:ネレ・ノイハウス

珠子、茉莉、美子(ミジャ)。終戦前の満州でひと夏の間、3人は友達だった。それは彼女たちの長い長い生涯のなかのほんの短い時間だったけれど、この出会いが今後の辛い人生の中で彼女たちの精神的な支えになった。戦争中よりも、戦後の生活の方が辛い。戦争が終わっても、ずっとずっと戦争の影が彼女たちを追いかける。だけど彼女たちは、少なくとも家族に愛され友達と楽しく過ごした過去がある。だから生きてこられたのだ。どんな大義名分があろうとも、弱いというだけで踏みつけられる世の中は間違っていると強く思った。★★★★★
読了日:03月19日 著者:中脇 初枝

ずっと自分の弱さにコンプレックスを感じていた泉水子。負けず嫌いで自分に自信のある高柳や真響(まゆら)は、相手を完膚なきまでに叩き潰してこその勝利と考えるが、遠い将来人類を滅亡に導くという姫神をうちに抱える泉水子は、繋げることで戦いを回避し、結果すべてを受け入れる。全てを受け入れるというのは、善も悪もないということ。未だ自分の力を制御できない泉水子。そして、素直なあまり簡単に人に騙されてしまう泉水子。深行はそんな泉水子に、一緒に道を探していこうという。うん、いいね。★★★★☆
読了日:03月20日 著者:荻原 規子

青森での夏合宿、冬合宿、その間の青森一泊旅行と青森情報満載で、青森に住んでいた時に津軽三年かねさ味噌食べてたな~とか、奥入瀬ってまさしくあんな場所だったな~などと懐かしく思い出す。のはさておいて、理子とミゲールと西門と彩紀、部長、堂本とほのかに恋愛の匂い。だがそれは、成田作品では決して主流にはならない。西門の予知夢の謎はまだ明かされないけれど、未来は変えられる。心がけ次第でという台詞が、この先のミゲールの悲劇を回避するのだと信じたい。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子

ファビアンの登場により、遂にペルー時代のミゲールの過去が明かされる。幼いミゲールがファビアンを撃ってしまったこと、それはずっとミゲールの苦しみのタネとして彼の心に残っていたけれど、ファビアンが生きていた、そして日本にいたということが、この先のミゲールにどう関わって来るのか?報復を恐れてミゲールを守ろうとする友人たち(西門も含む)と、ファビアンの真意を知りたいミゲール。ミゲールの安全を守るため、携帯を買ってミゲールに持たせる大沢がいい。目立たないけれど自分に何ができるのか、じっくり考えて行動できる子だ。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子

ミゲールの周りにはいつも人がいると言ったのはファビアンだけど、ファビアンにも、彼のそばで彼を心配し、見守る人がいたことを知る。子どものころにきちんと育ててもらえなかったファビアンは、人とコミュニケーションということ自体を知らなかったのだ。両手をひろげてファビアンを受け入れたミゲールを、刺してしまったことの意味。それはおたがいに言葉を尽して話し合わなければ、理解のできないことだったのだ。そして二人はきっと、そのままの自分を受け入れることで、人として一歩成長してくのだろう。未来は変えられたのだから。
読了日:03月21日 著者:成田 美名子

うーん、賢帝ハドリアヌスですか。確かに有能な皇帝であったと思うけれど、賢帝であったかというと、どうだろう。公私の、ON-OFFの切り替えが上手い人なのだと思うけど、人としての魅力に欠けるよね。これ、周囲の人は大変だったろうなあと思いながら読んでいたら、案の定同時代に生きた人たちのハドリアヌス評はあまり高くない。国情を現状維持するって地味に大変だけれど、評価が低いのが常。だけど、人として賢かったアントニヌス・ピウスはきっちり仕事をしたうえに、国民の支持も厚かった。こういう人を賢帝というのではないかしら。★★★★☆
読了日:03月23日 著者:塩野 七生

大阪の下町(っていうの?)にある、夢見通り商店街に住む人々が織りなす人間模様。ちょっぴりビターが濃い目だけど、人々は鬱屈を抱えながらも強かに、あっけらかんと生きている。特に秀逸なのが、かまぼこ屋の2階に住んでいる里見春太。真面目で、不器用で、間が悪くて、いつも報われない。だけど彼を見ていると、どういうわけか人生それほど悪いものじゃないなあと思えてくる。幸せなんて簡単な言葉では言い表せない、何とも言えないぬくもりがこの町にはある。ヒリヒリとした痛みももれなくついてくるけれど。★★★★☆
読了日:03月24日 著者:宮本 輝

千代は伊右衛門のことを支えていると思っているのかもしれないけれど、下から支えているというよりも、上から支配しているように見える。そして私が千代について気に入らないのは、彼女の視界の中には、上の世界と自分達しかいないこと。日常的な家臣への目配りのようなものがない。ちょっとしか出てこない北政所はきちんと存在感を示しているのに。もちろんこれはあくまでも司馬遼太郎が書く千代であって、本当は違うのかもしれない。でも、後の土佐藩を見ると、やっぱり周囲の人に対する配慮のない夫婦だったのではないかと思う。偏見だけど。★★★★☆
読了日:03月25日 著者:司馬 遼太郎

なんで二人の恋をそんなに秘密にしなければならないのか、本当にわからない。かれんが実の娘であるとかないとか、そんなのが付き合うことの障害になりますか?23歳の大人のかれんに出生の秘密を打ち明ける覚悟のない花村の両親ではないと思う。それとも、戸籍を見ればすぐにわかるような、養女である事実を、死ぬまで隠し通せると思っているのか?お見合いの話を持って来るよりも、そっちの方が先じゃないの?いつも立派な親である必要はないけれど、少なくとも子どもの悩みが子どもの悩みで終わるような、大人の度量を見せて欲しいのだけど。★★★★☆
読了日:03月27日 著者:村山 由佳

『NATURAL』の主要人物・榊原西門(さいもん)の実兄憲人(のりと)を主役にした、能を題材にした読み切り連作。憲人の母の実家が能の一家だが、叔父さんがいるので後継ぎというわけではない。西門は伯父さんの家に養子に行って、神主として神社を継ぐ。で、実家の弓道家はは誰が継ぐの?妹?って家系図を見て思ったけど、本編を読んでそんなことはどうでもよくなってしまった。痴漢の冤罪で謹慎処分になっても、かならず戻ってくると思える場所があるって、いい。コミックで読んだけど、kindleで外伝も読了。
読了日:03月28日 著者:成田 美名子

「とうとうたらりたらりら」が秀逸。憲人の幼い頃の事故がトラウマになっていないかそっと確認する祖父。通りすがりの人の善意に救われた憲人は、自分も人を救いたいと思うし、人の善意を信じたいと願う。それと能の「養老」や「翁」などと絡めつつ、憲人の能楽師としての成長を描く。
亡くなった伯母が、趣味で能を習っていて、鼓など打たせてもらったこともあるけど、もっと能のことを聞いておけばよかったなあと残念に思う。
読了日:03月28日 著者:成田 美名子

山本文緒の小説はたいてい好きだけど、これはダメだったなあ。読んでいて気持ち悪くてしょうがなかった。結婚6年目、子どもなし、夫は多忙でめったに帰ってこない。私が気持ち悪いのは汐美の夫だ。どれほど汐美の心が空虚でも、気づかない。興味がない。自分が居心地のよい家庭を作ってくれないのなら、妻なんぞ要らないのだ。汐美の恋愛についても思うところはあるけれど、何よりもこの夫の汐美に対する興味のなさが気持ち悪くて。そういう人が人の心を打つCMを作るのもまた気持ち悪かった。★★★★☆
読了日:03月28日 著者:山本 文緒

殺人を犯した犯人は、もちろん悪い。何しろ殺された人たちには何の落ち度もないのだから。では、犯人はなぜそれらの人を殺さねばならなかったのか。ここが、この作品の肝なのだけど。怪しい人が何人も出てくるのね。プロファイルされた犯人像に近い人が何人も。で、被害者家族がまた、一筋縄ではいかないのよ。どうして本当のことを言わないの?何を隠しているの?そしてなんとまあ、自分勝手な人であることよ。そして、今回初登場の彼女。絶対彼女はオリヴァーと付き合うことになるよね。★★★★☆
読了日:03月30日 著者:ネレ・ノイハウス

巻を追うごとに面白くなってきているお便りコーナー。先日車で走っていると、木の実を咥えたカラスが道路わきを飛んでいたので、うちの車のタイヤで殻を割るのか!と身構えたけど、何事もなく飛び去って行った。ねえ、とりのなん子さんみたいな面白いことって、どうやったら体験できるの?今回はつぐみんの話が少なくて寂しい。早く日本に戻ってきて~。
読了日:03月30日 著者:とりの なん子
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