翌日、聡銘学園へのいつもの通学の道を歩いていると、茂央の右肩に誰かの色白な掌が降りた。
「よっ」
振り返ると同時に茂央は一つ、溜息を漏らす。その声の主は茂央のよく知る人物、中村梓だった。
「何だ、梓かよ」
中村梓は茂央と同じ特進クラスで、近頃はクラス内で「茂央と付き合っている」という根拠の無い噂が広がっている。
「いいのか? ただでさえ在らぬ噂が広がってるってのに」
「あれ? 茂央、そんなん気にしてんの? アホクセー。言いたい奴には言わしときゃいいんだよ。ウチら、中学ん時からの友達ってだけで、それ以上も以下も無いんだから」
梓のこの強さは一体どこから来るのかが気になりながらも、茂央はそんなところを尊敬していた。
「それもそうだな。で、お前は卒業したらどうするんだっけ。就職? 進学?」
さり気なく話をすり替え、茂央はこの時期の高校生なら誰しもが友人に対し抱いているであろう質問をした。
「進学だよ。当たり前じゃん。大学行った方が得だぞって、お兄ちゃんが言ってたし。ま、言われなくてもあたしは最初からその気だったけどね。アンタは?」
「行ける大学行っとこうって感じかな。別にやりたいことも無いし、親に勉強を無理強いされてるから成績も十分だし」
「アハハ、無理強いって。どうせコソコソと漫画とか読んでるクセに」
「よくわかったね。でも御心配なく。成績が十分なのは事実なんで」