私「大丈夫ですよ。

 

それにこれで、

 

しょうもない慣習も撲滅できたわけですから。

 

 

社長も人事制度を考え直してくれて、

 

人間関係の新陳代謝も良くなります。

 

 

きっと、これがきっかけで、

 

この会社はもっと良くなりますよ(笑)」

 

 

 

私がにこにこと微笑みながら言うと、

 

安藤さんはちょっと言葉を詰まらせていたようでした。

 

 

 

安藤さん「…私はもう少ししたら退職しちゃうけれど…。

 

これからは、もっと女性も活躍してほしいわ…。

 

しんじゅちゃん、よろしくね!」

 

 

 

私「あはは!タスキを渡されちゃった!

 

私は高卒なんで、

 

そんな出世しないと思いますけどね(笑)」

 

 

 

安藤さん「…K主任はしんじゅさんのことを、

 

天才だと言ってたわ?」

 

 

 

私「あはは!買いかぶりですよ!

 

いい風に誤解してもらっちゃって、

 

ラッキーですね☆」

 

 

 

安藤さん「しんじゅさん、

 

以前私に聞いてきたことあったわよね?

 

『代決』って何ですか?って。」

 

 

 

私「あ、はい。」

 

 

 

安藤さん「それに『一番古い紙の資料は、

 

どこに保存されていますか?』って。」

 

 

 

私「はい。」

 

 

 

安藤さん「『気になることがあるから、

 

ちょっと調べたい』って言って、

 

書庫の書類を探していた事あったわね?」

 

 

 

私「はい。手が空いている時に、

 

ちょこちょこ調べていました。」

 

 

 

安藤さん「しんじゅさん、

 

『後学のために』って、

 

他課の書類のコピーをとっていたわね?

 

 

『何をコピーしたの?』って聞いたら、

 

相見積もりの書類だったわ?

 

 

アタシ、何を勉強したいのかしら?

 

って不思議に思ったのを覚えているわ。

 

 

係の仕事はひたすら支払いをすることだから。

 

予算をいじれるのは係長クラスになってからだしね。」

 

 

 

私「あはは。そんな事ありましたかね?」

 

 

 

安藤さん「代決の事を聞かれた時に、

 

なんでそんな事を聞いたのかしら?

 

って思ったのよ。

 

 

しんじゅちゃんが手にしていた書類は、

 

決裁欄がスカスカだったわ…。

 

 

『課長が長期不在の時に、

 

補佐が替わりに承認をすることを代決だ』

 

と教えたけど。

 

 

私も妙に白い決裁欄だな、

 

と、思ったのよね…。」

 

 

 

私「あはは、そうでしたか?」

 

 

 

安藤さん「それにそれより前に、

 

しんじゅちゃん、

 

請求書をじっと見つめていたわ。

 

 

手がとまっているから、

 

不思議に思って声をかけたら、

 

私に言ったわ?

 

 

『会社名を見ると建設会社みたいなのに、

 

肩書が合名会社なのは珍しい』って。

 

私はちょっと言っている意味が分からなかったの。

 

 

そうしたら株式会社と有限会社と合資会社とか、

 

いろんな会社の設立の仕方を説明してくれたわ。

 

 

私は言ってることがチンプンカンプンだったけれど、

 

背筋がぞくっとしたわ。

 

この子、何を言っているのかしら?って。」

 


 

私「あぁ、商業高校出身なんで、

 

そこらへん、授業で習うんですよ(笑)」

 

 

 

安藤さん「それで隣の島の係長に、

 

『その会社と取引するのは辞めた方がいい』

 

って言いだした時は、

 

ちょっと先走りすぎなのかな?

 

って思ったけれど。

 

何日もたたない間に、

 

その会社は倒産した…。

 

 

それで後から気になって調べてみたの。

 

そうしたら、しんじゅちゃんの言う通りで、

 

ウチの会社と取引するには違和感がある感じだったわ…。

 

なにより金額が大きすぎる。」

 

 

 

私「そうでしたか?」

 

 

 

安藤さん「そこまではまだ、

 

偶然で片付く話だと思うけれど…。

 

でも…。

 

その会社の代表者の名字と、

 

代決していた課長補佐の名字が

 

一緒なのは偶然かしら?」

 

 

 

私「偶然ですね。」

 

 

 

安藤さん「その課長補佐が、

 

急に退職したのも偶然かしら?」

 

 

 

私「偶然ですね。」

 

 

 

安藤さん「社長が急に人事制度を改めたのも、偶然かしら?」

 

 

 

私「偶然ですね、きっと。」

 

 

 

安藤さん「…それがしんじゅちゃんの答えなのね…。

 

 

きっとK主任もしんじゅちゃんが、

 

注目され過ぎないように配慮した結果なのでしょうね…。

 

 

ところどころ、すごく不器用ですもの。

 

あぶなっかしいわ。

 

 

私もこれ以上は追及しないわ?

 

係長にも黙っておきます。」

 

 

 

私「安藤さん、ありがとうございます。(笑)」

 

 

 

安藤さん「そして未来ある若者に、

 

組織の暗部を見せてしまってごめんなさい…。

 

 

私もK主任以上に長くこの仕事に携わっていたのに、

 

まったく気づかなかった。

 

先輩としても失格だわ。

 

 

私たちがふがいないばかりに、

 

腐ったものを見せてしまったわ…。

 

その始末さえ、お粗末ときている。

 

 

恥ずかしくて、穴があったら入りたいわ…。」

 

 

安藤さんは顔を手で隠すようにして、

 

うつむいてしまいました。

 

 

 

私「いえ、本当に何も。

 

仮に私が何かを見つけたとしても、

 

それは全て偶然ですよ。(笑)

 

顔をあげてください、安藤さん。

 

 

私はこの係に配属されて、

 

とても優しい方々に囲まれて、

 

ありがたいと思っていますし、

 

感謝していますから。」

 

 

 

安藤さん「…本当にもったいない…。

 

それか、ある意味お買い得なのかも?」

 

 

 

私「なにがです?」

 

 

 

安藤さん「ウチの会社はこれだけ優秀な人材を、

 

月10数万のお給料で雇えているのですから。

 

 

けれど、逆に残念でもあるわ…。

 

これだけ華やかな見た目の女性になっちゃうと、

 

誰も気づけないわ。

 

しんじゅちゃんがすごく頭脳明晰な女性だという事を。

 

 

あ~~~!!

 

なんだかモヤモヤするぅ!」

 

 

 

私「あはは!

 

私、今回のことで、

 

一つ勉強になりました。(笑)」

 

 

 

安藤さん「なにを学んだの?」

 

 

 

私「私の事をキレイだとか、

 

かわいいと言ってくれる人がたくさん出てきました。

 

これが大人の忖度(そんたく)というヤツですね!

 

人間関係の潤滑油として、

 

リップサービスをたくさん受け取っちゃいました(笑)」

 

 

 

安藤さん「あ…これ、きっと、

 

何かかんちがいしているわ…。

 

 

でも、ま、面白いから、このままにしとこう(笑)

 

これぐらいの意趣返しはいいわよね?

 

本当の事を教えてくれなかったんですもの(笑)」