私は喫茶店の砂糖入れから目の前の紅茶に砂糖を入れました。

 

 

私「?」

 

 

くるくるとスプーンで砂糖を溶かしながら、

 

目の前の安藤さんをながめています。

 

 

なんとなく、

 

職場ではなく喫茶店に呼び出すということは、

 

そこで話せない内容の事を話したいのか、

 

もしくはかなりプライベートな話をするのかと、

 

想像していましたが。

 

 

なんだか職場で話していてもいいような内容に思えて、

 

不思議に思ったのでした。

 

 

 

安藤さん「ごめんね?

 

変な話をして…。」

 

 

 

私「え、あ、いえ、大丈夫です…。」

 

 

 

安藤さんはうすく微笑みを浮かべていました。

 

 

安藤さんはカップをソーサーの上に置いて、

 

言葉を続けました。

 

 

 

安藤さん「そういえば、数か月前、

 

怖い事件があったわね…。」

 

 

 

私「なんでした?」

 

 

 

安藤さん「こんななにもない、

 

田舎町に事件があったじゃない?

 

 

人身売買のブローカーが潜伏していたとか、

 

なんとか…。」

 

 

 

私「あぁ、ありましたね。

 

表向きは建設会社を装った、

 

ヤクザみたいでしたね。」

 

 

 

安藤さん「怖いわぁ?

 

 

私そうゆう事って完璧に他人事だと思ってたもの。

 

 

それでヤクザの人たちって、

 

結局海外に逃亡したらしいじゃないの。」

 

 

 

私「そうですね…?」

 

 

 

安藤さんのいわんとしていることがいまいちつかめない。

 

 

職場の話題としてはふさわしくないと言えばそうだが、

 

別に仕事の合間の雑談レベルで、

 

話せない内容ではないように思える。

 

 

 

安藤さん「そうえば以前、

 

しんじゅさんに聞かれたことがあったわよね?

 

ゼンリンの住宅地図を持って、

 

『この四角』ってなんですか?って。」

 

 

 

私「あ、はい。

 

聞きました。」

 

 

 

安藤さん「そうね、私も答えたわ?

 

『ゼンリンさんが把握していない建物は文字が入っていない。

 

物置小屋か未登記家屋か、

 

同じ敷地内の人の所有で文字を入れてないだけだろう』って。」

 

 

 

私「あ、はい。そうですね。」

 

 

 

私は不思議な気持ちで紅茶に口をつける。

 

 

 

安藤さん「ふ…と、気づいたのよ。

 

 

しんじゅさんが私に尋ねた場所、

 

そのヤクザの本拠地だったって。」

 

 

 

私「……。」

 

 

 

安藤さん「ねぇ、知ってる?

 

○○課の課長補佐さん、

 

急に退職されたらしいんだけど。」

 

 

 

私「あ、はい。」

 

 

 

安藤さん「なんでも親御さんの介護で、

 

定年を待たずに退職されたんですって。」

 

 

 

私「そうなんですか…。」

 

 

 

安藤さん「それで退職金も受け取らずに辞職されたんですって。

 

おかしいわよね?

 

仕事辞めてまで親御さんの介護をされるなら、

 

お金はより必要でしょうし…。」

 

 

 

私「お金が十分にあったからじゃないですか?」

 

 

 

安藤さん「しんじゅさんは、

 

そう答えるのね…。」

 

 

 

私「あ、はい…。

 

なにか?」

 

 

 

安藤さん「ふふ。(笑)」

 

 

 

安藤さんは穏やかに微笑んでいる。

 

 

私はなんだか、

 

キツネにつままれたような気がしてしまったのでした。