今日はライトなネタでも。

 

これは私が社会人一年目に体験したでごとである。

 

事務職をしていた私に、

 

職場の年配の男性が声をかけてきました。

 

50歳ぐらいかなぁ?

 

 

Sさん「しんじゅさん、この書類、

 

ハンコを押し直して?」

 

 

私「あ、はい、すいません…。」

 

 

私はシャチハタを手に取り、

 

押し忘れたとおぼしき決裁欄に手を伸ばす。

 

 

私「?ハンコ押してますよ?」

 

 

Sさん「いや、直した方がいい。」

 

 

私「陰影読めますよ?」

 

 

Sさん「いや、角度が悪い。」

 

 

私「角度?とは?」

 

 

Sさん「先輩の印鑑に対して、お辞儀してないだろう?」

 

 

私「へぇ、Sさんって、そんな冗談言うんですね!」

 

 

私は手を引っ込めた。

 

 

Sさん「何を言ってるんだ。

 

上長に対しての敬意を表しているんだ。」

 

 

私「へぇ、まだ冗談言うんですね?」

 

 

私は自分の印鑑を印箱にしまった。

 

 

Sさん「それが目上に対する態度か?」

 

 

私「すいません、Sさん、仕事が押してるんで、

 

冗談はまた後でお願いします。」

 

 

私は椅子を回転させて、

 

目の前にたまった書類の計算を始めた。

 

 

私の悪い癖だが、目の前の事に集中すると、

 

となりで泣こうが、わめこうが何も聞こえない。

 

 

しばらく電卓を叩いて、

 

集計の結果が出てきっちり数字が合った。

 

私は満足していた。

 

 

すると別の男性社員がおそるおそる声をかけてきた。

 

 

Iさん「あの…しんじゅさん、

 

さっきのあの態度はどうかと思うよ?」

 

 

私「はい?私、何かしました?」

 

 

Iさん「だから、印鑑の角度が悪いっていう指摘を、

 

冗談扱いしたのは、ちょっと…。」

 

 

私は眼鏡の縁を持ち上げながら、答えました。

 

 

私「なるほど。了解しました。」

 

 

Iさん「よかった。さ、早くSさんに謝りに行って…。」

 

 

私「SさんもIさんもお茶目さんなんですね?」

 

 

Iさん「え…。君はいったい、何を言って。」

 

 

私「決裁欄に押す、印鑑の角度で敬意を表す…。

 

なかなかウィットに富んだ冗談だと思います。

 

 

意外に気さくな方たちだと知って、私は安心しました。

 

今後もご指導ご鞭撻、

 

よろしくお願いいたします。」

 

 

頭をぺこりと下げます。

 

 

Iさん「え…茶化して、冗談にする気かい?」

 

 

私「えぇ、冗談以外の何物でもないでしょう?

 

まさかお給料をいただく身で、

 

勤務時間中に印鑑の角度に気を配れ、

 

それが礼儀や礼節だなんて、

 

年配の方から普通の新人が聞かされたら、

 

嫌がらせか何かと勘違いしてしまいますよ?

 

今後、冗談はよしてくださいね。」

 

 

 

Iさん「…分かった、謝るつもりはないんだな…。

 

これだから、最近の若い者は礼儀がなっていない。

 

今後の自分の身の振り方を考えるんだな。

 

後悔しても知らないぞ?」

 

 

 

私「ぶふっ!(笑)

 

まるで悪代官みたいな言い方!

 

面白い方ですね、Iさんも!

 

じゃ、次の締め処理がありますんで、

 

これで失礼します(笑)」

 

 

 

と、またカタカタと電卓やパソコンを叩く。

 

しばらくしてから、

 

同じ係の人が心配そうに私に声をかけてきました。

 

 

 

Kさん「あの…。

 

ご機嫌に仕事を頑張ってくれているところ、

 

悪いんだけど…。

 

多分、アレ、真面目な話で…。」

 

 

 

私「えぇ?K主任もそんな冗談言うんですね!(笑)」

 

 

 

Kさん「いや、冗談じゃなくて…。」

 

 

 

私「印鑑の角度に気を配るのが仕事のうちですか?

 

私が世間知らずの子供だと思って、

 

バカにしてもらっては困りますよ(笑)」

 

 

 

Kさん「いや、そういうんじゃなくて…。」

 

 

 

私「大丈夫ですよ。

 

きちんと朱肉が押してある印鑑なら問題はないハズです。」

 

 

 

Kさん「いや、そういうんじゃなくて、その…。」

 

 

 

私「それとも何ですか?

 

ウチの会社は全社的にそういう風習があるって言うんですか?」

 

 

 

Kさん「いや、全社的にはないけれど、

 

局地的にはあるっていうか…。」

 

 

 

私「じゃ、問題ないですね!」

 

 

 

Kさん「いや、その、あの、言い方アレだけど、

 

Sさん、Iさんってちょっと粘着質っていうか…。

 

新人のしんじゅさんが信じないのも無理ないけれど、

 

実際印鑑は角度をそろえるって言う内々の決まりがあって…。」

 

 

 

私「そんな就業規則ありましたっけ?

 

人事課の新人研修の時に聞いた覚えないですけど?」

 

 

 

Kさん「いや、あのズバリ言うと、

 

これからしんじゅさんが嫌な思いをしそうだから心配しているんだよ。

 

 

理不尽な話に思えるかもしれないけれど、

 

印鑑の角度はそろえておいた方がいい。

 

 

彼らの方が役職が上だし、

 

直属の上司の僕がそばにいて、

 

いつも守ってやれるとも限らないから。」

 

 

 

私「なんかよく分かりませんが、

 

K主任が心配してくださっているのは分かりました。

 

それじゃ謝ってきます。」

 

 

 

Kさん「よかった。

 

偏屈そうに見えて、そう、根は素直な子なんだよ。」

 

 

 

私「すいません、Sさん、

 

私印鑑の角度が悪かったらしくて、

 

知らずに失礼しました。

 

 

判を押し直しますんで、

 

さっきの書類見せてもらっていいですか?」

 

 

 

Sさん「君、何を言ってるの。

 

もう遅いよ。アッチ行って。」

 

 

 

私「あ、ハイ。

 

すいませんでした。」

 

 

 

のこのこと戻ってくる私。

 

K主任は頭を抱えています。

 

 

 

以後、その職場の男性陣から無視されるようになりました。

 

 

長くなってきたので続く。