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私が小学生の頃、
日本中でノストラダムスの予言が大流行していた。
「1999年の7月に人類は滅亡する!」
という例のお騒がせ終末予言である。
1999年には自分は30才を越えているな、とか、
その頃の自分は何をしているんだろう、などと、
私はいろいろと想像せずにはいられなかった。
子供ながらに私は、
この予言は全然信じていなかった。
人類は、そう簡単に滅んだりはしないだろうと、
なんとなく漠然と思っていた。
どちらかというと、
ロマンのない子供だったのかもしれない。
占いやおみくじを信じたことはなかったし、
神や仏や悪魔に祈ったこともなかった。
大人になって社会に出て働きだして、
あくせくと忙しく日々を過ごしながら、
1999年は、
ありふれた日常の中であっさりと過ぎていった。
人類は滅ばなかった。
ノストラダムスの、
あの、よくわからない意味不明であいまいな予言詩が、
実際に人類の破局を意味していたかどうかは疑問だ。
彼は直接的な表現としては滅亡とも破滅ともいってない。
そんなことはひとことも書かれてはいない。
要するに、
あとづけで当時の日本人が勝手に解釈して、
それを日本中で老若男女が騒いで楽しんでいただけだ。
私は、心霊現象や超能力は信じていない。
UFOも宇宙人も地底人も海底人もいないと思っている。
ただこれでは、
ずいぶんとロマンのない生き方かな、とも感じる。
これからここで、
1999年に起こるかもしれなかった人類の壊滅的破局を、
誰にも知られずにこっそりと回避させた人たちがいた...
という設定で、
荒唐無稽なストーリーを描いてみたい。
無論、100%完全なフィクションである。
私は、ある中年女性の自宅を訪れていた。
親戚でも知人でもなんでもなく、
ごく偶然の縁での、何の目的もない訪問だった。
その女性は、
とても不自由な生活を、ずっと何年も続けていた。
それは、本人でなければ想像もできないような、
苦しみに満ちたものだった。
彼女は、自分で立つことができなかった。
歩くこともできなかった。
24時間、寝たきりの状態だった。
床ずれ予防のための介護用ベッドの上で、
ひたすら横になっている毎日だった。
声を出すこともできなかった。
文字通りまったく声を出せないのである。
「痛い」とも「かゆい」とも発することさえできず、
ほかの誰かと会話することは不可能だった。
食事を口から取ることもできなかった。
喉を通して飲み込むことが困難で、
みぞおちの皮膚から胃に穴を開けられて、
チューブのような管を通して、
栄養液や水分を、毎日何回かに分けて、
口や喉を通さずに直接胃の中に注入されていた。
喉には、気管に1cm強の穴を開けられていた。
痰がからんで窒息しないために。
朝も昼も夕も夜も、
そして深夜や早朝にも、ひどく痰がからんだ時に、
彼女と一緒に住んでいる家族が、
吸引器を使って痰を吸い取る必要があった。
家族...
その中年女性は、夫と二人で住んでいた。
彼女の生活と生命の維持は、
彼女の夫が、自分の時間を彼女に捧げることによって、
かろうじて支えられていた。
彼女は、もう何年も前になるそうだが、
若くして脳出血である日突然倒れ、
危篤状態に陥ったものの、かろうじて一命をとりとめ、
手足に麻痺が後遺症として残ったまま、
一言も話せないまま、
口から飲み込むこともできないまま、
生きながらえているのだった。
それが何年も続いていた。
そのような危うげで不自由極まりない生活が。
彼女と、夫の二人で。
(殺して!)
私は突如として落雷に遭ったかのように、
脳天から衝撃を受けた。
その夫婦と一緒に、その家の一階の広いリビングで、
コーヒーを片手に椅子に座っているときに、
はっきりとしたメッセージを叩きつけられたのだ。
(早く! 殺しなさいよ!)
迷いのない、そして強要するかのような、
逃げることも拒むことも許されない、
極めて一方的なものだった。
(聞こえてるんでしょ! 殺すのよ!)
私は動揺を表に出さないように努めながら、
可能な限り落ち着いて、それをどう解釈するべきか、
適切に判断しようという精神状態を自らに課した。
しかしそれは、やや困難にも感じられた。
(私を殺しなさい!)
(それくらいできるでしょ!)
(誰か来るのを待っていたのよ!)
女の声だった。
いや、正確には声ではない。
私の左右の鼓膜も、耳石も、聴覚神経も、
人間の発声器官から生み出される肉声としては、
それら強烈なメッセージの数々を認識できなかったからだ。
私は脳の中で響く何かとして、
それらを捉えていた。
(鈍いわね! このスカポンタン!)
(イライラさせんじゃないわよ! ヒョロメガネ!)
どんどんと激高していき罵倒に近くなってきたそれに反し、
私は、対照的に冷ややかになっていった。
ちなみに私は痩せ型の体型で、丸メガネをかけている。
その家のその広いリビングには、
限られた者しかいなかった。
私と、寝たきりの中年女性と、介護者である夫さんと、
かごの中のインコと、水槽の中の大きな熱帯魚と、
そして中年女性の拘縮した麻痺手の中で、
まるでヘッドロックを掛けられているかのように、
がっちりと収められている大きめのプーさんのぬいぐるみ、
たったそれだけだ。
私は、夫さんに怪しまれないように気をつけながら、
それらを順番に探るように見つめてみた。
この中に、この物騒なメッセージを吐き出している者が、
いるのかもしれないと感じたので。
ごく普通に考えれば、
インコや熱帯魚やプーさんのぬいぐるみは、
ちょっと候補にはしがたかった。
もちろん私も違う...つもりだ。
夫さんを何気なく、しかしまじまじと注目してみた。
夫さんは私に、その中年女性の介護における苦労、
具体的には、便の出し方とか吸引器での痰の引き方とか、
夜中にベッド上でドタバタ暴れられて不眠に陥っていること、
それら諸々を、力なく笑いながらこぼしていた。
夫さんのどこか投げやりな浮遊してるような疲労感と、
あまりにぶしつけで強引なそれら一連のメッセージとは、
どうしても同一人物のものとは思えなかった。
(私はこんな姿で生きていたくないの!!)
(お願いだから私を殺して!!)
(こんなのもう耐えられない!!)
残った候補はただひとりだった。
口からは一言も発声できない、寝たきりの中年女性だ。
きっと間違いない。
コーヒーを飲みながら夫さんは話した。
「家内はね、
倒れることを自分でわかってたんです。
脳出血で突然意識を失う数日前にですね、
私にそんなこといってたんですよ」
「それがね、思い出しても気味が悪いんですが、
自分が近いうちに病気か事故で倒れても、
絶対に病院には運ばないで欲しい、
絶対に救急車は呼ばないで欲しい、
お願いだからそのまま死なせて欲しい、
そう、私にいってたんですよ」
「私はいきなりそんなこといわれても、
一体何のことをいってるんだって感じだったし、
全然意味がわからなかったんですが、
その数日後に家内が家でバタンと倒れたときに、
あっ! このことだったんだ! とわかりました。
驚きました。
突然倒れたことも驚きましたが、
そのことを家内が前もって知っていたということにも」
「それで私は、
やっぱり救急車を呼んで病院に運んでもらいました。
だって、当然でしょう?
普通、家族ならそうするじゃないですか。
救急車を呼んで病院に連れて行きますよね」
「家内がどうして、
救急車は呼ぶな、そのまま死なせてくれ、といったか、
その意味もあとからわかりました。
いまみたいな状態になることも知ってたんでしょうね」
「あとから私はすごく後悔しました。
どうしてあの時、家内が頼んでいたように、
そのまま放って置けなかったんだろう、
どうして救急車を呼んでしまったんだろう、
なんであのまま死なせてあげれなかったんだろうって」
(殺せませんね)
私は遅まきながら返事をした。
返事といっても、
口に出さないで言葉を脳内に浮かべただけだが。
(あなた、負けたんですよね)
(ずいぶん派手に負けましたね)
(どんな相手にやられたんですか?)
私は泣き言を聞くのがあまり好きではない。
努めて突き放すように返事をしてみた。
だって当然だろう。
おそらくこの異能の持ち主である中年女性は、
被害者になる前は、ずっと加害者だったはずなのだから。
(あなた、かなりのやり手だったんじゃないですか?)
(この状態でこの強力な送信能力、スゴイですね)
(なかなかこんな人、お目にかかれませんよ)
(さぞかし絶頂期は強かったんでしょうね)
(それがまあ、こんな姿になってしまって)
私は、中年女性のことを、
とても攻撃的な性格なのではないかと感じていた。
だからこそ、
少し挑発的なことをいって怒らせた方が、
当時のいろいろな背景や事情を教えてもらえると予想した。
そしてその試みは、
激しく成功した。
(ナマいってんじゃないわよ!! 若造が!!)
中年女性は烈火のごとく激怒した。
私の送っている思念がどうやら理解できるようだ。
(あんたなんか、何も知らないくせに!!)
あまりに絵に描いたような注文通りの反応に、
私はかえってたじろいだ。
とりあえずコーヒーをひと口飲んでみる。
ゴクリと生唾を飲み込むように。
(あんたがいまノホホンと暮らしていられるのも...)
(みんなが我が者顔で生きていられるのも...)
(世界が、人類が、滅ばずに無事に済んでるのも...)
(誰のおかげだと思ってるのよ!!)
私は目が細い方だが、
大きく開けられる限度いっぱいに、両目を見開いた。
世界? 人類? 滅ぶ? 無事に済んだ?
この中年女性は、はたして正気なのだろうか?
ひょっとしたら、
これも脳出血の後遺症のせいなのではないだろうか?
私には、
以前から気になっていたことがあった。
1980年代の終わり頃から1990年代の半ばまでの、
およそ7~8年くらいの間に、
日本で、そして世界で、
いったい何が起こっていたのだろう、
という疑問である。
この期間における日本そして世界での、
さまざまな出来事を列挙してみる。
1989年
昭和天皇崩御
中国の天安門事件
東欧諸国の連鎖的民主革命
ベルリンの壁崩壊
マルタ会談(米ソ両首脳による冷戦終結宣言)
1990年
総量規制(日本のバブル経済崩壊が始まる)
イラクのクウェート侵攻
東西ドイツ統一
1991年
湾岸戦争(多国籍軍によるイラク攻撃)
雲仙普賢岳の大火砕流
ソビエト連邦のクーデター勃発と失敗
ソビエト連邦の崩壊
1992年
旧ユーゴスラビアの崩壊と軍事紛争本格化
1994年
松本サリン事件
1995年
阪神淡路大震災
地下鉄サリン事件とオウム真理教への大規模強制捜査
オウム真理教教祖・麻原の逮捕
この期間は、その前後の時期に比べると、
どうみても濃密な印象がある。
2001年9月以降になると、再び濃密になるのではあるが。
だが、
いったい何が起こっていたのかという私の疑問は、
ともすると、やや意味不明ではある。
具体的に起こったことについては、
上記のように明確にわかっているからだ。
それでも私は気になって仕方がなかった。
1980年代の終わり頃から1990年代の半ば頃までの、
およそ7~8年くらいの間に、
私たち多くの人間が知ることのできた出来事の「裏側」で、
いったい何が起こっていたのだろうかと。
(あら、あんたって...)
(こういう話、興味あったの?)
(あはははは!)
中年女性は、私の心の動きを見事に捉えた。
そうなのだ。
私はこの中年女性を誇大妄想狂とみなす反面、
もしかしたら、
ずっと私が知りたかったことの、
重要な生き証人なのかもしれないと感じてしまっていた。
ほんの少しだけ。
(いいわ、教えてあげる)
(ここで話すと長くなるから...)
(あんたが夢の中で見れるようにしとくわ)
(起きてからじっくり思い出しなさい)
私は夢をほとんど見ない。
いや、寝るたびに夢は見ているはずなのだが、
目覚めてから夢の内容を覚えていることは少ない。
しかし、
夢と関係があるのかどうかは不明なのだが、
私は意識がある時間帯に、
ふっ、とほんのなにげない一瞬に、
何かの情報の大きな広がりがイメージとして浮かぶ、
そんな経験をよくすることがある。
中年女性から夢の中で情報を受け取ったならば、
おそらく、
日常を暮らしながら、何週間かかけて、
広がりをもったインスピレーションとして、
それらの情報を思い浮かべることになるだろう。
(200人以上で、8年がかりで...)
(破局を食い止めたわ)
(でも、最後に大きな難関があって...)
(仲間のほとんどは、死ぬか廃人になってしまった)
(無事に生き残ったのはたった一割だけ)
この中年女性が脳出血で倒れたのは2001年のことだ。
私がこの女性に会ったのは、その数年後にあたる。
(違う、私は生き残り組だった)
(私がやられたのは、その後の別の時だから)
(あの争いでは、私は五体満足で生き残った)
私はとっさに仮説を構築してしまった。
思考というよりは直感に近い。
1980年代の終わりから1990年代中頃までの8年間、
多くの人たちが知りえた数々の出来事の裏側で、
異能者たちの間で、壮絶な戦争があったのではないか?
これまで人類が築いてきた現代文明を、
このまま存続させるか、破壊してリセットさせるか、
どちらの道を進むのかをめぐって、
命を削るような争いがあったのではないだろうか?
そして、
その戦いの結果、存続させようとする側が勝利し、
日本が、そして世界が、
壊滅的破局を迎えることなく済んだのではないか?
日本における、
存続させようと守る側は当時200人以上いて、
彼らは、自分たちの命や暮らしや人生と引き換えに、
数え切れないほど多くの人たちの、
命や暮らしや人生を死守したのではないか?
誰に感謝されることもなく、
誰に評価されることもなく、
歴史の闇に埋もれ、何の栄光も名誉もなく、
ひっそりと消えていったのではないか?
この中年女性は、
自分は五体満足で生き残った少数派で、
その後、別の時に倒されたといった。
おそらく、
2001年9月以降の世界の流れを決める争いがあって、
この女性は、
それに敗れてしまったのかもしれない。
(あんた、いい線いってるわよ)
(あんたも私みたいにならないようにね)
(まあ、せいぜい頑張りなさい)
私はこの日の訪問で、
夫さんに勧められるままに、
コーヒーを五杯くらいは飲んでしまった。
夫さんのみならず、
インコや熱帯魚にも別れのあいさつをして、
私はそそくさとその家を出た。
この怪しげな中年女性が、
あとどれくらいこの生き地獄の状態で生きるのか、
私にはわからないし、
決して知りたいとも思わない。
ある日、
私が本屋で立ち読みをしていた時のことだ。
何気なくあるひとつの言葉が浮かんだ。
白い死神。
最初、この言葉の意味は全くわからなかった。
そしてなぜ突然、何の脈絡もなく私の脳内で浮かんだのか、
その理由も理解できなかった。
本屋を出たあとも、
街を歩いているときも、
自宅に帰ってからも、
何度か私の脳の中で浮かんでは消えていた。
白い死神。
はて、これはどういう意味があるのだろう?
私は考え込んでしまった。
数日後、私の中でさらに変化が起こった。
いくつかの言葉がモザイク模様のように浮上した。
無敵、無敗、圧倒的、驚異の存在、恐怖そのもの...
これは...ひょっとしたら...
私は特に根拠もなく想像した。
「白い死神」にまつわる何かなのではないだろうかと。
もしかしたら、
周りから常に驚きをもって恐れられ、
「白い死神」と異名されるような誰かがいて、
その誰かについて、私の中で、
鮮烈なイメージが浮かんでいるのではないだろうかと。
白い...死神...
私はいつのまにか、
つい、口に出してつぶやいてしまうようになっていた。
魔力の込められたような響きがあった。
白い...死神...?
一体どういう意味なのだろう。
無敵で無敗で圧倒的な人だったのだろうか、
昔どこかにいた人なのだろうか、
それとも今どこかにいる人なのだろうか、
どこの国のどの地方の人なのだろうか、
男なのか女なのか、
どんな顔でどんな体格の人なのだろうか、
そしてその人は、何を考え何を信じ何をした人なのだろうか、
あるいは、いま何かをしている人なのだろうか。
死神??
人間なのだろうか、それとも、
人間ではない別の何か...なのだろうか。
いくら考えても答えは出なかった。
数日後にさらなるイメージが湧いて出てくるまでは。
1990年代の半ば、日本。
この頃、まだ色白の男は生きていた。
色白の男はとても色が白く、
幼少の時から、女のような肌だとよくいわれていた。
雪のように白いという形容さえ嘘には思えない、
そんな男だった。
若い頃はモテた。
40才代になってからもモテた。
既婚者だった。妻子がいた。
美人の妻には頭が上がらず、他の女性に接近されても、
あまり遊んだりはしない方だった。
サラリーマンだった。
職場での仕事ぶりはとても有能で、
上司からも部下からも、高い評価を受けていた。
彼にはある秘密があった。
家族にも同僚にも友人にも明かせない、
いや、決して明かすことのできない秘密だった。
色白の男は、
ほかの大勢の者にはない能力を数多くもっていた。
いわば異能者といえる類の人間だった。
しかも、
この時代におけるあらゆる異能者の中の、
トップランカーだった。
文字通り第一人者といえるほどの絶対的な存在だった。
それまで彼は、
多くの戦いを生き抜き、多くの敵を破っていた。
誰よりも多くの敵を。
ある日、連絡が彼に届いた。
電話でも手紙でもない、もっと違う手段での連絡だった。
(教授が死んだ)
誰からだろう?
色白の男は少しうつむいて集中した。
(知ってるか? 教授が殺された)
(今朝のことだ、あの教授が殺された)
教授という人物はよく知っていた。
別に大学の教授だというわけではないのだが、
とても知的で切れ者の、彼の仲間だった。
(封殺なんかじゃない、肉体そのものを滅ぼされた)
(心臓発作で死んだらしい)
連絡してきた相手が誰か、見当がついた。
監督だ。
(目覚めてはいけない少女が目覚めようとしている)
(これまで、10人の仲間がその少女に殺された)
(10人全員が肉体を滅ぼされた)
(教授が10人目だ)
教授は実際には教授ではないが、
監督は実生活でも本当に監督らしい。
数多くいる仲間たちを取りまとめている人物だ。
しかし...
色白の男はとても気になった。
目覚めてはいけない少女?
(恐ろしい少女だ)
(たったひとりで世界に引導を渡せる少女だ)
(我々がこの8年間やってきたことを...)
(すべて無に戻せるほどの化け物だ)
この8年間やってきたこと...
色白の男は、
自分がしてきたことを思わず回想してしまった。
それは、
とても楽しい思い出とはいえないものだった。
彼のこれまでの8年間は、血塗られていた。
みんなそうだ。
教授の8年間も、監督の8年間も、
ほかの仲間たちの8年間も、
血まみれで、血で血を洗うような、
誰にもいえない、誰にも自慢できない、
そんな8年間だった。
たったひとつの目的のために、
色白の男も、教授も、監督も、みんなも、
薄汚くて暗い裏道を手を汚しながら通ってきたのだ。
たったひとつの目的のために。
世界を滅ぼさない。
ただそれだけのために。


