こびーside




『…ん……』

体が揺れで目が覚めた。
温かさと嗅ぎなれた匂いで、そこが彩の背中だとすぐに分かった。

『彩?』
「気付いたんか…
今治療したるからもうちょっと我慢してや」
『…負けたんや』
「…あぁ」

彩はそれ以上何も言わずに、私をいつもの教室まで運んでくれた。

「あー、これは病院行かなアカンかな」

私の手を確認して顔をしかめる彩。
とりあえず処置するで、と言って薬箱を持ってくる。
彩のお母さんは看護師で、ケンカばかりする彩に消毒や包帯の入った薬箱を持たせてくれたらしい。
彩はそれをここに持ってきて置いておいた。

『いたっ!沁みるー!痛いー!』
「当たり前や消毒してんねから」
『うぅー』

涙目になりながら消毒に耐えて、包帯を巻いてもらった。
使ったガーゼや消毒液を片付けた彩は、私の頭をポンと撫でて悲しそうな目をする。

負けてもうたしな…

「悪かったな」
『え?』
「美優紀が無茶しとるんもっと早く気付くべきやった
もっと早く止めるべきやった」
『彩?』
「着いて来いなんて偉そうなこと言うたくせに、私は何も分かってなかった
覚悟も足りなかった…美優紀の方が、よっぽど覚悟があった」
『彩が悪いんちゃうよ…私が負けたから』
「ハドウに、強くなってまた来いって言われた
その時は…また着いて来てくれるか?」

不安に揺れる彩の目は私の手に視線を移した。
彩はきっと責任を感じてるんや。
ケガなんて無茶した私の自業自得だし、決して彩のせいではない。

『……なぁ』
「ん?」
『強かったな、あの2人』
「…せやな」

歳も体格もそんなに変わらない。
ただ違うのはこの荒れた学校で1年過ごした経験値。
ならば私達もああなれるのだろうか。
いや、私達はそれ以上に強くなれるはずや。

『渾名…私達もつけようや』
「へ?渾名?」
『そんで、その渾名がこの学校に知れ渡って恐れられるようになったら…
ハドウとクロコゲに2人でリベンジや!』
「美優紀……せやな!やったんで!」
『彩の渾名は…せやなぁ……アントニオ!』
「おいっ、どこ見て言うとんねん!」
『どこって…なぁ?(笑)』
「おいアゴ触んな!
ほなもうお前は…うーん……よし、お前はこびーや!」
『こびー?』
「お前、媚び売りまくっとるからな」
『私がいつ誰に媚び売ったんよ』
「そこら中や!校長にまで!」
『えー?覚えてへん
けどまぁ、響き可愛いからええよ』
「ええんかい(汗)」

呆れた顔で私を見る彩…いや、アントニオ。
さっきまでの悲しそうな目はもうそこになかった。

この人にもうあの目をさせないことが出来るなら、世間に煙たがられるような私でも価値があるような気がする。

『なぁ、アントニオ
お腹すいた』
「へ?じゃあ何か食うて帰ろか」
『アントニオ食べさせてな?』
「は?何でや?」
『手ケガしてるし』
「うっ…しゃーないな」
『わーい!ありがとっ!』
「ちょっ、くっつくなって(汗)」

私はこの人となら強くなれる。

もう負けないように。

あなたを支えられるように…


~~~~~
アントニオside



ハドウとクロコゲに負けてから1年半ちょっと。

私達はアントニオとこびーと名乗り、その名前は校内に知れ渡った。

私達は2年生になり、今はもう2月下旬。
もうすぐ3年生になる。

「アントニオさん、沖田が3年の高田達にやられました」
「今こびーさんが数人連れて高田達の所へ…私達も行きますか?」
『いや、こびーが行ったなら問題ない
沖田は?』
「はい、ケガはありますが大事はありません」

私達にも何人か舎弟という物が出来た。
私がリーダーでこびーが副リーダー。
私が描くリーダー像は、あの日やたらと背中が大きく見えたハドウ。
あの日アイツが言っていたてっぺんとしての務め。
私は舎弟達を、そしてこびーを守れているだろうか…
正直よく分からない。
でも…

「こびーさん戻ってきました!」
「うちの子可愛がってくれたお礼はキッチリしといたでアントニオ」
『ごくろうさん』

今も変わらず着いて来てくれるこびーが、その答えやと思うことにした。

「寒いなぁ」

ソファーに座ってギターを弄る私の横に座りながら、そう言って腕を擦るこびー。
ちなみに殺風景だった教室はこびーがリサイクルショップのおっちゃん釣ってタダ同然で貰ってきたソファーや、私が持ち込んだギターやアンプ、さらには舎弟達が持って来たたこ焼き器まであった。

「すぐ暖房の温度上げます」
「ありがとう
なぁ、アントニオ…寒いな」
『そら真冬やからな…だから今温度上げたやろが』
「そうやな真冬やな
けどもう春になるやんか?」
『せやなもう3月になるし…つーか、さっきから何言うてんねん?じゃぶじゃぶし過ぎて頭おかしくなったんか?』
「もうすぐ卒業やな」

こびーの言いたいことがやっと分かった。
私達がずっと追いかけてきたあの2人は、あと2週間で卒業や。

『最後にきっちりリベンジせなな』
「せやな
ほなじゃぶじゃぶの前に…腹ごしらえや!」

ソファーから立ち上がったこびーは、舎弟達の所へ行ってたこ焼きを食べ始めた。

『ったく…』
「アントニオさん、カチコミですか?」
『あぁ…どうしても借り返さなアカン相手が居るんや』

ギターを弄るてを止めてソファーから立ち上がると、一斉に仲間の視線がこちらに向いた。

『行くで』



舎弟も連れて図書室の前に立つ。
ここに来たのはあの日以来初めて。

『取り巻きはアンタらに任せるわ』
「「はい」」
『こびー、準備はええか?』
「いつでも準備はできてたで…あの日からずっと」
『…私もや』

図書室の扉を勢いよく開けるとハドウとクロコゲの舎弟達が行くてを阻む。

「アントニオとこびー!?」
「おい、ハドウさん達に伝えろ」
「はい」
『伝える必要はあらへん
直接挨拶に行くわ』
「そうはいかねえな」
「ハドウさんとクロコゲさんには会わせねえよ!」
「アントニオさん、こびーさん、ここはうちらが」
『ああ、頼むわ』
「しっかりな?舐められたらアカンで」
「「はい!」」

舎弟達の戦いをすり抜け奥に進む。
そこには、今やこの学校のテッペンになった奴らの姿があった。

「そろそろ来ると思ったで
つーか待ちくたびれたわ」
「渡辺…今はこびーやったな
ちょっと見いひん間にまた可愛くなったなぁ」
「クロコゲ、親戚のババアみたいやで」
「誰がババアや!」
『待たせたな…けど、テッペンの交代劇は卒業ギリギリにして花持たしたったんや』
「ははっ、1度やられた割りには大口叩くやん」
『もう前の私らとちゃう
てっぺん、取らせてもらうで!』
「来い!」

あの日と同じようにこびーと背中を合わせる。
あの日と違うのは、もう何度目か分からない程こびーと背中を合わせて戦ってきたこと。

言ってしまえば、あの日は腕に自信のあったこびーと組んでハドウ達に挑んだだけ。
あれからこびーと幾度もの戦いを潜り抜けてきた私達は、今ならあの日持ってなかったモノを手に入れた。

安心して背中を預けられる相手。
自分が傷ついてでも背中を守ろうと思える相手。

1匹狼じゃ分からないままだった"仲間"というモノ。

『ほな…』


「『てっぺんとったんで!!』」

 
アントニオside




次の日から私は美優紀と一緒にテッペンを取るにはどうしたらいいかを考えた。

「空き教室?」
『そうや、私らの拠点が必要やろ?
私らと言えばそこに居る!みたいな』
「そういえば中庭行けば山本彩っていう強い奴に会えるって、前にじゃぶじゃぶした人が教えてくれたんやった」
『やろ?そういう拠点とか縄張りって大事やねん
そして挑んでくる奴は容赦なく蹴落とす』
「中庭じゃアカンの?」
『中庭は暑…じゃなくて、丸見えやんか』
「それはそうやな」
『せやから空き教室探そうや』
「…彩がサボる場所欲しいだけやなくて?」
『ちゃっ、ちゃうわアホ』
「ふーん…まぁええわ
ほなええ場所探そか」

そうして空き教室を探し始めた私達。
けど空き教室なんて1つもなかった。
正確には、授業に使ってない空き教室はいくつかあった。
しかし、そのどれもに先客が居た。

「考えることは一緒やな
空き教室は先輩ばっかやで」
『せやな
まぁ、こうなったらやることは1つや』
「どこがええ?」
『気に入ったんはあそこやな
行くで』

向かった先は3階の角にある空き教室。
昔は視聴覚室として使われていたみたいで防音らしく、中も広いしクーラーまである。

その教室の扉を開けると、そこに居たのは3年生が8人。
私達に気づいたそいつらは立ち上がってこちらを睨む。

「何だお前ら」
「1年が何の用だ」
「泣く前に帰りな(笑)」
『何や、たった8人か』
「あぁ?」

教室が広いから、もうちょっと人数多いかと思ってたから少し残念。

「じゃぶじゃぶしてええ?」
『あぁ、ええで』

2人で教室に踏み込んで相手と退治する。

『1年の山本と渡辺や
この部屋貰い受ける』
「「ふざけんなっ!!」」


8人が床に伏せるのに時間は掛からなかった。

「彩ぁ、つまらんかった」
『そう言うな
ここにはもっと強い奴が居る』
「ホンマ?」

倒れた先輩を引きずって廊下へ出しながら嬉しそうな笑顔を向ける。

『ハドウとクロコゲって言う2人組や』
「海外の人?」
『アホか、渾名や』
「3年生?」
『2年らしいで』
「何やここの3年、骨ないんや」
『とにかく、狙うはそのハドウとクロコゲや』
「何処に居るん?」
『図書室』
「図書室?何でそんな所に…」
『単に広いからちゃう?クーラーもあるやろうし
こんなヤンキー学校じゃ、図書室も空き教室みたいなもんやからな』
「ほなさっそく…」
『まだや
1年の制覇が先や
それから先輩に挨拶に行こうやないか』


その言葉の通り私達は同級生達を次々と倒していった。
半月もすると同級生の中で、私達に楯突く奴はいなくなった。

「そろそろええやろ?」
『せやな…
ほな、ハドウとクロコゲに挨拶に行こか』
「やっとハドウとクロコゲとじゃぶじゃぶやー!
あ、2人のこと調べて来たで」
『お、ホンマか?』
「2年C組福本愛菜、通称ハドウ
渾名の由来やけど、波動砲が撃てるらしいで」
『んなアホな』
「正確には気功術やって」
『気功術…そんなんホンマに出るんかいな』
「同じく2年C組山田菜々、通称クロコゲ
渾名の由来は、調理実習でありえへんくらい餃子を黒こげにしたかららしい」
『いや、そいつアホやろ
ホンマに強いんか?(汗)』
「この2人が強いって彩が言い出したんやで
それに、うちの学校では3年生も手を出さへん最強コンビって言われとる」
『最強コンビか…ほなその称号も頂くか』
「あと1年に舎弟が数人居るねんて」
『1年?倒した中に居たんか?』
「ううん、そいつらも普段は図書室の方に居るみたいや」

ハドウとクロコゲと戦うまでは2人との衝突は避けたい。
だから私達は図書室の周辺で騒ぎは起こさないようにしてた。
舎弟達が図書室の方に居たということは、そいつらはまだ倒していないことになる。
1年は先に大方倒したつもりだったが、想定外の出来事や。

まぁ、それならそれでええ…

『邪魔する奴は薙ぎはらう』
「せやな、じゃぶじゃぶしてまえばええよ」
『それにしても、よう調べたな?
情報屋でも抱えたんか?』
「校長やで」
『はぁ?お前、なんつーとこから…よう教えたな校長』
「肩揉みしながら聞いたら教えてくれたで」
『……』

敵にはしたくない。
味方なら…………まぁ、頼もしいやないか。
自分にそう言い聞かせることにした。



いよいよハドウとクロコゲに挑む日。
図書室の前まで来ると中から少し話し声が聞こえてきた。

「舎弟のみなさんもご在宅やな」
『探す手間が省けるわ 』

ドアを思いきり開けると、ドア近くのテーブルを囲んで談笑してた5人が一斉にこっちを向く。

「何やお前ら」
「何か用?」
「あ、コイツら山本と渡辺やない?」
「1年のトップになったって奴ら?」
「へぇ、コイツらが」
「ほな、私ら倒しに来たんか」
「私ら倒さな1年のトップとは言えへんもんな」
『いや、アンタらとはやらんでも結果は分かる
私は1年のトップとしてハドウとクロコゲに挨拶に来たんやけど』
「私はじゃぶじゃぶ出来るなら誰でもええで」
「ふざけんな、私らは無視か!」
「アンタらにハドウさんとクロコゲさん会わせる訳にはいかへんな」
「私らで十分や」
『ええよ
邪魔するなら倒して進むまでや』
「「覚悟せえ!」」

舎弟達が色めき立つとこびーが私の隣に来た。
私達は背中を合わせるように立って舎弟達を迎え入れる。

『本番はこの後や
ザコ相手にケガすんなや?』
「こんなん相手にケガせえへんわ」


美優紀の言葉通りに5人はすぐに立つのがやっとな程になった。

「っ、まだ終わってへん」
『根性だけはあるな』
「たった2人に負ける訳には…」
『来いや、立てへんようにしたる』
「もうええ」
「「ハドウさん!」」
『アンタがハドウか』
「ああ…アンタは?」
『山本彩
こっちは渡辺美優紀や』
「あぁ、聞いたことあるわ
おーい、クロコゲ!」
「なにー?…ってアンタらどうしたんよ!?」

ハドウが奥に声をかけると奥からもう1人現れた。
その人物は傷だらけになった舎弟達を見て驚いている。
コイツがクロコゲか。

「みんなを資料室で休ませたってくれ」
「ハドウさん!私達はまだ戦えます!」
「その気持ちは嬉しいけど、お前らにコイツらの相手は無理や
後は私らがやる」
『やらしたったら?
コイツらアンタらの為にやる気なんやで』
「かと言って手加減はせえへんけどな(笑)」
「いや、私はもうコイツらを戦わせへん
上に立つからには下の奴の力も把握しとかなアカン
自分の采配のせいで下の奴らを傷つけてもアカン
私は何がなんでもコイツらを守る…これが上に立つ者の、テッペンの務めや」
「「ハドウさん…」」
「ほら、アンタらこっちおいで」
「「…はい」」

クロコゲは舎弟達を隣の資料室へ連れて行きすぐ戻ってきた。

「さて、ちょうど2対2や
うちの連中がやられたからな…手加減はせえへんで」
『望むところや』

再び美優紀と背中を合わせる。

「ほな先輩、じゃぶじゃぶしましょ」
「じゃぶじゃぶ?洗濯かなんか?」
「ふふっ、こういうことです」

美優紀がクロコゲに殴りかかると同時に、私はハドウに殴りかかった。



「はぁ…なかなかやるやんか」
『はぁはぁ…』

さすがにこの2人は舎弟達のようにはいかず、むしろ私はハドウよりも息が上がっていた。

「ハドウ…こっち片付いたわ」
『なっ、美優紀!?』

振り向くと美優紀はクロコゲの足元で床にうつ伏せに倒れていた。

『美優紀!』
「どうする?負け認める?」
『ふざけんな!!』

美優紀だけ傷つけて、私だけ"はい負けました" なんて言えるか。
何がなんでも倒したる!
再び拳を放つとハドウは仕方なさそうにそれを受けた。

「時には負け認めるんも大事やで
別に負けることは恥ずかしいことやない」
『何言うとる、恥ずかしいに決まっとるやろ』
「分かってへんな山本」

溜め息をついてから、ハドウは改めて構え直して拳を握る。


「キャッ」


クロコゲの声に振り向くと、さっきまで倒れていた美優紀が立ち上がっていた。
そしていつもの笑顔でクロコゲに殴りかかる。

「まだ立つんか…」
『当たり前や、私達はこんなとこで諦めへん!』

「ちょっ…この子…うっ」
「クロコゲ!」

美優紀に殴られ続けるクロコゲは壁にもたれ掛かり、腰が徐々に落ちてきた。
助けに入ろうとするハドウに蹴りを放ってそれを阻止する。

『形勢逆転やな』
「アホ、よう見ろ!」
『は?』

ドサッという音が聞こえて振り向くと、クロコゲは壁にもたれてはいたが倒れてはいない。
倒れていたのは美優紀の方だった。

『え…』
「人は普通後ろに壁なんかの障害物があると、本気で殴りはせえへん
自分の拳守ろうと、力を抑えるように脳が自然に指令出すんや
だからクロコゲはわざと壁を背負って戦ってた」
「せやけどこの子、1度倒れた後は全力で殴って来た
支えるとか、テッペンとかブツブツ言いながらな」
『美優紀…』

美優紀の拳は血がこびりついていて、その大半はクロコゲのものではなく、壁に当たり拳の皮膚が裂けて出た美優紀自身のものだった。

「なぁ山本、もう勝負あった……っ、嘘やろ」

フラつきながらもゆっくりと立ち上がった美優紀にハドウが驚く。
それを気にせずクロコゲを見つめて拳を構える美優紀。

「まだやる気なん?もうやめとき」
「おい山本、渡辺を止めてやれ
もうこれ以上は危険や
……おい山本聞いてるんか?
お前仲間ひとり助けられへんのか!」
『……』

ハドウに声を掛けられても言葉が出なかった。
それほど私は目の前の美優紀の姿に圧倒されていた。

何であそこまでやるんや…
何であそこまで出来るんや…


"でも一人は寂しい"

"私に着いてこい
テッペンからの景色見せたる"

"うん、着いてく!"

"私達がテッペンとるまで着いて行くし、ちゃんと彩を支えるな"

"せやから二人でテッペン…約束やで?"

"おう、二人でテッペンとったんで!!"

『あ…』

ずっと、約束守ろうとしてくれてたんや…

「あぁぁぁ!」

雄叫びをあげて美優紀がクロコゲに殴りかかる。

「しゃーない、とどめ刺したれクロコゲ」
「でも…」
「渡辺の為や、これ以上傷つかんようにしたれ
可哀想に…着いてく相手間違えたな渡辺」
「…ごめんやで」

クロコゲの拳が美優紀へ向かって放たれる。
足元の定まっていない美優紀にはきっと避けれない。

『待て!!
待ってくれ…私らの……いや、私の負けや』

それを聞いたクロコゲの拳が美優紀の顔の寸前で止まる。
それでも殴りかかろうとする美優紀を私は後ろから羽交い締めにして止めた。

『美優紀、すまん
もうええ…負けたんや……私の力不足や、すまん…』

そう告げると美優紀の体から力が抜けて、私にもたれ掛かるように倒れて意識を手放した。

「その手、はよ治療したり」
『…行ってええんか?』
「負け認めた相手殴る趣味ないわ
やられた子らの仇も十分とったしな」
『すまん…』

気を失っている美優紀を背負って立ち上がる。

「山本、渡辺と一緒に強くなったらまた来い
いつでも相手したる」

ハドウのその言葉を聞きながら図書室を後にした。

 

アントニオside




「姉さん、ここでいいですか?」
『ああ…』

さくらに負けてマジ女の連中が帰った後、ツリシに支えられてザコボスとKYと共に保健室に来た。

「傷の手当てを」
『いらん』
「でも…」
『いらん言うとるやろ!!……すまん…大丈夫や自分で出来る……少し一人にしてくれ』
「でも血が!」
「黙ってろKY
分かりました、何かあったら呼んでください」

手当てしようとするツリシが一喝して、頭を下げて3人は部屋を後にした。
いつものメンツ。
けど、アイツの姿はなかった。

『あのアホ…』

3人の足音が遠ざかったのを確認してベットに倒れこむ。
さくらの一撃は思ったより重く、正直立つのもやっとだった。
それをアイツらに悟られないように必死にここまで歩いて来た。
正式にアイツらに激尾古を託すまでは、弱い所を見せたくない。

『ぅ…ぅぅ』

痛みは時間が経つほど増してくる。
保健室なんだから痛み止くらいあるかと思い探そうとはするが、立ち上がったら激痛が走ってその場に蹲る。

扉を開く音がしてアイツらが戻って来たのかと思い、慌てて立ち上がろうとする。
しかしそこに立っていたのは、あの戦いの後姿を消していたこびーだった。

その姿を確認して体から力が抜けて再び蹲ってしまった。
私が唯一弱い所を見せてもいいと思える奴の登場に、少し安心する。

「アントニオ!」

私を見てこびーは慌てて私に駆け寄る。
服を捲って傷を確認すると、私をベットまで運んでくれた。

「やっぱりあの膝、完全に入っとったんやな」

ベットに横にさせた私の服を再び捲って傷をよく見るこびー。
さくらの膝が入った腹部は腫れ上がり、色も変わっていた。

「これはアカンわ…先生に」
『それはアカン!アイツらに知られたくない』
「分かった…こう言い出したアントニオは折れへんもんな
けど、手当てはするで」

そう言って包帯やら消毒液やらを持ってきて手当てを始めるこびー。
てきぱきと消毒して包帯で固定をしてくれる。
痛み止も飲ませてくれた。
消毒はめっちゃ痛かったけど、手当てを終えると先程より少し楽になった。

『今までどこ行っとったんや?』

少しの間を置いてそう問いかけると、こびーが目を逸らして俯く。

「屋上…ずっと考えとった」
『何を?』
「激尾古を、アントニオを裏切ったケジメをどう付けようか」
『そうか…
どうケジメとるつもりや?』
「アントニオ、私を始末して」
『は?』
「私は副総長として絶対したらアカンことをした
やからアントニオは激尾古総長として私を追放せなアカン」
『…アホか、この体でこびー倒せるかい』
「アントニオには慕ってくれる舎弟が居るやろ?
ツリシ達に任せたらええ」
『アイツらじゃこびー倒すには役不足やろ』
「私は抵抗せえへん」
『…アンタの舎弟でもあるんやで?』
「やからこそアイツらにやられたい
私はアントニオだけやなく、みんなも裏切った
だから、全部受け入れる」

そう言って顔を上げたこびーの目は悲しそうで、けど決意を持った真っ直ぐな目やった。
こびーのあの目、久々に見たな…

『私はアンタを始末せえへんし、舎弟達にそんな命令もせえへん』
「何で…私はアントニオを…激尾古を裏切ったんやで!」
『激尾古としてのケジメやったら私がさくらとタイマンしてつけたはずや』
「そんなんマジ女に対するケジメやんか!
私のケジメは済んでへん」
『副総長やめて、アイツらに
やられて去ってくんがケジメか?
私はそんな情けない奴を右腕に選んだ覚えはない』
「……」
『私らはもうすぐ卒業や
最後にやらなアカンことがあるんちゃうか?』
「けど…」
『約束…忘れたとは言わさんぞ』

中学の頃に交わした約束。
こびーはもう覚えてないかもしれない。
けど、私は…

私とこびーの出会いは中1の時だった。



~ アントニオ・こびー、中1 ~



女子中学生とヤンキー。
普通の人にはなかなか結び付かないかも知れない。
でも、私はまさに"それ"や。

「待て、山本!」
『待てやと?もう終わったやろ?』
「ざけんな!!」

殴り掛かってきた相手をヒョイとかわし、足をかけて転ばせる。
既にフラフラの相手はそのまま校舎の床に倒れる。
それを見てその場を後にした。

前記の通り私は所謂ヤンキー。
この辺は治安が悪いからか、この学校にもそんな連中ばかりが通っている。

『あー、暑ぅ』

中庭の端に置いてあるベンチに横たわる。
ここは入学してからお気に入りの場所だったが、この時期はもう暑くてたまらない。
そろそろ他の場所探さなきゃな。
屋上…も暑いか。
空き教室がええな。
そんでソファーとか置きたい。

そんなことを考えていると、ふと視界に影が入る。
体を起こすとそこには一人の少女。
制服の新しさからすると同じ1年だろう。


「アンタが山本彩?」
『…せやで…アンタは?』
「私は渡辺美優紀」
『渡辺…聞いたことあるような…』
「なぁ、じゃぶじゃぶしいひん?」
『は?』

可愛く首を傾げてそう問いかける渡辺。
ずっと笑顔を絶やさず、ヤンキーらしさは一切ない。
アイドルと言われても違和感ないくらいで、とにかくヤンキーとはかけ離れている。

『じゃぶじゃぶって何やねん』
「じゃぶじゃぶやん」
『いや、知らんがな』
「え、知らんの?
山本彩はじゃぶじゃぶ強いって聞いてたのに…」
『だからじゃぶじゃぶって…』

面倒くさい奴。
そう思いながらも会話をしてしまうのは何でやろ。
いつもならウザい奴はシカトするか蹴散らして終わりなのに…

『強いって聞いてたって……まさかやけど、ケンカ?』
「そーやで」
『まぁ、向かってきた同級生は大方片付けたけど…』
「ほな私ともじゃぶじゃぶしよ」
『けど、アンタにケンカ出来るん?』
「試してみ?」

ニコニコした表情は崩さないで拳を握る渡辺。

おいおいマジか…

対応する為にこちらも構えるが、どうもやる気になれない。

『なぁ、やめた方がええぞ
何考えてるか知らんけど、ケガすんで?』

そう言ってみるが、渡辺は全く表情を変えないし拳を解こうともしない。

「ケガすんのはどっちか…試してみいや!」
『っ!』

その瞬間渡辺から一気に殺気が放出される。
コイツ、笑顔で殺気隠しとったんか?

いや、目の前の渡辺は笑顔を崩していない。

渡辺の1発目の拳を体制を変えてかわす。
一応構えていて良かった。
反撃の為に体の向きを反転しながら撃った拳は渡辺の拳とぶつかって相殺される。

コイツやるな…
油断してたらこっちがケガするわ。

「なぁ、じゃぶじゃぶする気になった?」

先程までは可愛らしかった笑顔に、今は狂気さえ感じる。
そう言えば、この学校に笑いながら人を殴る奴が居ると噂で聞いたことがある。
笑顔で人を殴るその姿は恐れを感じる程で、1年からは距離を置かれているらしい。

ただの噂と思っていたが、これは確かに厄介な相手だ。
恐れも感じるがそれだけじゃなく、ちゃんとケンカも強い。
拳は的確な場所に飛んでくるし、攻撃を避けた後の返しも申し分ない。

『アンタ、強いな』
「アンタもな」

拳わ交えながら会話をする。

『当たり前や
私はテッペン取るんやからな』
「テッペン?」
『そうや、テッペンや』

会話について来ながらも拳のスピードも落ちない。
同級生にこれ程骨のある奴がいるなんて知らなかった。

なかなかどちらも決定打が入らずに、互いの息が上がってくる。

『私が勝ったら…』
「何?」
『私に着いてこい、渡辺』

思わず柄にもなくそんなことを言ってしまった。
でもコイツとだったらテッペンを手に入れられそうな…
直感やけどそんな気がした。

「ほな、私が勝ったらアンタが私に着いてきてな?」
『上等や!』

渡辺の拳を拳で相殺して腹部目掛けて蹴りを放つ。
それをガードしようと腕を下げた渡辺を見て、蹴りの起動を修正して上段へ。
ガードキャンセルキックと呼ぶこの蹴りは渡辺の頭部に入り、そのまま後ろに倒れ込んだ。

「っ、ぁ…」
『動くな
軽い脳震盪起こしとるだけやから、少しそのままにしとき』

横たわる渡辺の隣に腰を下ろす。

「負けた…」
『私強いからな
けど、今までで一番手こずったわ…強かった』
「そう…」
『約束や
着いてきてもらうで』
「本気なん?私みんなに気味悪がられてるんやで」
『は?』
「やからいつも一人や」

まぁ、笑顔で人殴るんは確かに気味悪いかも知れんな。
でも一人のことを気にしてるとは思わなかった。
群れるんが嫌な一匹狼タイプかと思ってた。

『一人が好きなんちゃうん?だからタイマン挑んで来たんやろ?』
「弱いからつるんでる奴らは嫌い
…でも一人は寂しい」

ゆっくり体を起こしながらそう言った渡辺の笑顔は、寂しそうな笑顔だった。

『だったら尚更、私に着いてこい
テッペンからの景色見せたる』
「ホンマに?」
『あぁ…けど、一人じゃテッペンは取れへん
私とアンタでテッペン取るんや』
「…うん、着いてく!!」
『わっ、ちょっ…抱きつくな!』
「ありがとう、彩ちゃん!」
『さ、彩ちゃん!?』
「だってもう仲間やろ?」
『そうやけど、彩ちゃんて柄じゃ…』
「よろしくな彩ちゃん!私のことは美優紀って呼んでな」
『いや、聞けや!ちゃん付けすんな!!』
「はいはい、ほな彩な
けど彩ズルいわ」
『何が?』
「武器なんか持って」
『は?持ってへんわ
私は素手でしか戦わん』
「だって、顔の下にこんな凶器を」
『それはアゴや!触んな!』
「あはは、彩面白い
…なぁ彩」
『あ?』
「私達がテッペンとるまで着いて行くし、ちゃんと彩を支えるな
せやから二人でテッペン…約束やで?」
『…あぁ、二人でテッペンとったんで』


これが私とこびーの出会い。
私達がコンビを組んだ日や。