彩side
新幹線のシートで気持ちよくうたた寝をしていると、首がカクンとなって目が覚めた。
今日はAKB48の選抜メンバーでの撮影で大阪から東京まで移動中。
隣の座席ではみるきーがイヤホンをしてケータイで動画を見ている。
「あ、起きた?彩ちゃんおはよ」
『おはよ』
隣で目を擦る私に気づいて、イヤホンを片方外しながらみるきーが話しかけてくる。
「もうすぐ着くで
彩ちゃん、外見て」
『んー?…うわ、雨すごっ!』
みるきーが示す方に目をやると、走っている新幹線の窓からでも分かるほどの大雨。
空が時々光ってるところからすると雷も鳴っているようだ。
東京に着いてみるきーと一緒に新幹線を降りる。
駅を出ると物凄い雨風と雷。
『送迎の車来とるはずなんやけど…』
車が見当たらなくてマネージャーさんに電話をしてみると、この悪天候で車が遅れているらしい。
『待つかタクシーで行くかどっちかやって』
「タクシーないで?」
この天候だからタクシーを利用する人は多く、タクシー乗り場の車はほぼゼロ。
それでもまだ次のタクシーを待つ人が列を作っている。
『あちゃー』
「迎え待つ方がええな」
『せやな
どうする?あっちにカフェあるけど』
「うん、行こ…キャッ」
『ちょっ、コケんなよ?
まったく、そんな滑りやすそうな靴やから』
「だって、大阪は天気良かったもん」
『しゃーないな…ほれ』
みるきーの手を取ってカフェへ向かう。
「うわー、人が居るんに手繋ぐとか珍しい
いつも人前はアカンて言うんに」
『今だけや
コケられるよりマシやし』
実は私はみるきー…もとい美優紀とこっそり付き合っている。
知っているのはまーちゅん、りぽぽ、りぃちゃん、ゆいはん。
それと卒業生の山田と愛菜くらいや。
『濡れてへん?もう』
もう少しで店やから
そう言おうとした瞬間、辺り一面が白くなるような光と、ドーンという大きな音がした。
『うわっ、雷落ちたんちゃう?
みるきー、大丈夫?……あれ!?』
今さっきまで隣に居たはずの美優紀の姿がない。
そんなアホな…雷落ちるまでずっと手繋いでたんやぞ?
『みるきー?どこやー!みるきー!美優紀ー!』
大声で呼んでみても声は雨の音にかき消される
『あのアホ、どこ行ってん』
完全にはぐれてしまった。
もしかしたらカフェに行ってるかも知れないと思い、とりあえず行ってみることにした。
「いらっしゃいませ」
カフェに入って店内を見回す。
『いた!』
人はあまり居なかったから目的の人はすぐに見つかった。
『急に居なくなるからびっくりしたやんか
しかしさっきの雷すごかったなー』
そう言いながら美優紀に近づいて行くと、本人はいつもと変わらずニコニコしていた。
「よくここ分かったな」
『はぐれたら先に来とるかなって
あ、アイスコーヒーお願いします』
注文を取りに来た店員さんにそう告げて、改めて美優紀と向かい合う。
あれ?
『なぁ、みゆ』
「ここ何処なんやろねアントニオ」
『何処ってお前…って、誰がアントニオや!』
「アントニオは自分やんか」
『元気があれば何でもできる
いくぞー、1・2・3・ダァー!
って、何やらすねん!』
「……アントニオ、今日おかしいで?」
『え、まだ続けるん?
てか、その格好なんや?いつ着替えたん?』
「これ?いつもこれやんか」
美優紀はさっきまでとは違う服に着替えていて、まるでナース服を着崩したような…
コスプレ?
て言うか……エロい…
『着替えろ、今すぐ///』
「は?何で?
アントニオこそいつもの服どうしたんよ」
『私は朝からこの格好や』
「さっきまで制服やったやん
そんな格好じゃ全然ヤンキーっぽくないで」
『ヤンキーちゃうわ!これでも元生徒会長やぞ』
「生徒会長?総長やろ?」
『はぁ?総長?』
美優紀は元々よく分からないことを突然言う奴や。
でも今日はいつもよりおかしい。
『…今日の予定何やっけ?』
「予定?特にはないけど…あ、矢場久根が兵隊集めてるってツリシが言ってたで
ほら、この前ザコボスとKYが矢場久根の木っ端相手にじゃぶじゃぶしたやん?それで矢場久根の総長が動いたみたいやな
近いうちカチコんで来るんちゃう?」
……やばい、一言も理解できん。
いくら美優紀でもいきなりここまでワケ分からんこと言わんしな。
まさか、よう似た別人?
『あの…名前は?』
「矢場久根総長の?」
『いや、あなたの』
「は?こびーやで
アントニオ、ホンマにどうしたん?」
『こびー?ニックネームか?…あの、本名は?』
「はぁ、何なんよ?今さら自己紹介でもさせる気なん?
まぁええわ、名前は渡辺美優紀」
あ、やっぱ美優紀や。
そらそうやんな、こんな似てて別人なんてことは…
「激尾古高校看護科の3年生
これでええ?」
だ、誰やーーーーー!!!!!
『ふざけてる?真面目に言ってる?』
頼む、前者であってくれ…
「ふざけてるのはアントニオの方やろ?さっきから何なん?」
や、やっぱり別人?
ということは、さっきからこの人の言ってるアントニオと言うのは私に似た人なのか?
そう言えば美優紀にそっくりだけど雰囲気が違う。
それにこの人の視線もまるでベテラン刑事がするような、修羅場を潜り抜けて来たような目だ。
『あの、あなた…こびーさん?』
「何やねん気持ち悪いな」
『私ね、アントニオじゃないんですよ』
「何やそれ?じゃあ誰やねん(笑)」
『山本彩』
「だからそれはアントニオの本名やろ?」
名前一緒!?
この人も美優紀と同じ名前だし、どうなっとんねん…
はっ、だったら美優紀は何処行ったんや!?
てか、この状況…
『どうしたらええんやー!!』
美優紀side
凄い光と大きな雷の音に驚いて、彩ちゃんと繋いでた手を離して耳を塞ぎながら踞った。
少しして顔を上げると彩ちゃんの姿がなかった。
『あれ?』
さっきまで隣に居たのに…
「こんな所に居たんか」
声がしたと思ったら、目の前に彩ちゃんが現れる。
そして踞ったままの私を覗きこんだ。
「どうした?怪我でもしたか?」
『ううん、雷に驚いて』
「雷?アンタそんなん恐いんか」
雷怖がってるんなんていつもかんか。
そう思いながら立ち上がるとあることに気づいた。
『いつ着替えたん?』
「は?ずっとこれや」
『嘘やん
いくら彩ちゃんでもダサいでそれは』
「……しばいたかアンタ」
睨み付けてくる彩ちゃんは、水色のナース服のコスプレのような服を着ている。
ずっとそんなん着てたら頭おかしいで。
『とにかく、それ目立つから何とかしよ』
今は雨が凄くて私達を気にする人は居ないけど、雨が弱まったらこの格好は絶対注目を浴びる。
『とりあえずカフェ入ろ』
「カフェ?こびー、この辺詳しいんか?」
『よく来るやんか』
「こんな所始めてや」
『え?』
いつまで冗談続けんねんと思ったけど、彩ちゃんはホンマに不思議そうにキョロキョロと辺りを見回している。
さっきの雷が彩ちゃんの頭に雷落ちて、頭おかしくなっちゃったなんて事は……あるわけないよな。
『とにかく行くで』
「や、やめろや
そんなんせんでもちゃんと着いてくし」
カフェに向かおうと彩ちゃんの手を引いたら、その手を振り払われた。
彩ちゃんこういうのに関しては照れ屋やけど、今までこんな風に振り払われたことはない。
甘えるのは恥ずかしいけど、本当は末っ子気質で甘えたいタイプ。
こうして手を引いてしまえば大半は大人しく着いてくるし、手を握り返してくるのがいつものパターン。
『彩ちゃん?』
「だから、その呼び方やめんかい
総長の威厳なくなるやろ」
まさかやけど、ホンマに頭おかしくなったんちゃう?
『と、とにかくカフェ行こ!着いて来て!』
「おう」
とりあえず落ち着いて彩ちゃんの様子を見て、ホンマにどうかしてたらマネージャーさんに連絡して病院に行こう。
そう決めて早足で歩き、到着したカフェの扉を開けた。
"どうしたらええんやー!!"
お店に入った瞬間聞こえてきた声。
聞き慣れたその声がする方へ足を進める。
『彩…ちゃん?』
「え、美優紀?……美優紀!!
良かった!何処に行ったかと…ケガとかしてへんか?」
『私は大丈夫…それより…』
「おい、私の連れに何か用か」
「え?いや、私はみるきーの…」
「「えっ!?」」
彩ちゃんともう一人の彩ちゃんはお互いの顔を見て固まった。
私もビックリして言葉が出ない。
固まる私達の沈黙を破ったのは聞き覚えのあるふんわりした声だった。
「あー、アントニオやんか」
『えっ!?』
2人の彩ちゃんに見とれてしまっていて、彩ちゃんが一緒に居た人物に彼女が声を発するまで気付かなかった。
そしてその顔と声は、驚くほど私にそっくりやった。
「あ、こちらがアントニオさん」
「そうやで
アンタホンマにアントニオちゃうかったんやな」
「だからそう言ったじゃないですか」
「てことは、アンタこびーちゃうかったんか
すまんかったな」
『あ、いえ
えっと…』
「こいつは渡辺美優紀、職業アイドル
名前は一緒でもこびーさんとは別人です」
「こんなそっくりで名前も一緒?」
「はい
ちなみに私も山本彩って言います」
「こんなことがあるんか…」
どんどん話を進める彩ちゃんに私の頭は益々混乱する。
『ちょっと彩ちゃん!どういうことなん?』
「どうやらこの人達も山本彩と渡辺美優紀らしいねん」
『え?』
「普段はアントニオさんとこびーさんて言うらしいけどな
私も信じられへんけど、こうして目の前にここまでそっくりな人が居るったら何か少しずつ信じてこれたわ」
「なぁ、少しええか?」
アゴに手をやり何か考え込んでいたアントニオさんがこっちを向いてそう言うと、私たちに椅子に座るように促した。
彩ちゃんと並んで椅子に座ると、正面にアントニオさんとこびーさんが並んで座った。
「ひとつ聞きたいんやけど、ここは何処や?」
「東京ですけど…」
「……って、何?」
『知らへんの!?』
「初めて聞いたわ
そもそも私達、学校へ行こうとしとったよなアントニオ?」
「ああ」
「学校って、さっき言ってた…げき…おこ?」
「そう、激尾古高校」
私も彩ちゃんもその学校名に聞き覚えはなくて、その高校をケータイで調べてみる。
『無いで、そういう名前の学校』
「そんなアホな」
『でも、これ…』
検索結果を見せてみると唖然とするこびーさん。
どんな学校でもホームページがあったりクチコミがあったりするものだから、検索に全くヒットしないのはおかしい。
「私たちは学校へ向かう途中やったんや
学校が存在しとるとか存在してへんとか依然に、ここに居ること事態がおかしい
学校へ向かう道の途中。雷が近くに落ちた。顔を上げると東京に居た。同じ名前、同じ顔の2人
何が起こったんや…」
再び顎に手を置いて、起こったことを整理しながら考え込むアントニオさん。
『まさかやけど…』
現実的にはあり得ないことかもしれへん。
けど、この事態を飲み込む為の言葉はひとつ。
『パラレルワールド』
「パラレルワールド?」
「例えばこのお店で私がホットコーヒーを飲むかアイスコーヒーを飲むか悩んだとします
そうするとこの時が、ホットコーヒーを頼むかアイスコーヒーを頼むかという分岐点
私がホットコーヒーを頼んだとしても、アイスコーヒーを頼んだ私が存在する別の世界に分岐して、その世界もこの世界と平行して存在する
もちろんその世界ではアイスコーヒーを頼んだ私が生きていきます」
彩ちゃんが説明するとアントニオさんが「なるほどな」と小さく呟いた。
「つまり、ここは私たちの世界とは別の世界?」
「私たちが正気で、これがドッキリとかじゃないなら、そういうことかも知れません」
「待って、それなら私たちはパラレルワールドの自分と会ったってこと?」
『そうなりますね
1番に会えたのがアントニオさんで良かったかもな』
「せやな、私もこびーさんに会えて良かった」
「何で?」
「さっきもちょっと言いましたけど、私たちアイドルなんです
だから私たちと瓜二つのこびーさん達がその辺歩いてたら…」
「騒ぎになってまうってこと?」
「騒ぎになるかまでは分かりませんけど、中にはアンチ…私たちをよく思わない人も居ますし」
「そんなん大丈夫や、じゃぶじゃぶしたる」
「じゃぶじゃぶ?」
『ちゃぷちゃぷじゃなくて?』
「アホか、この人らアイドルや言うとるやろ
私らがケンカしたらこの人らがやったと思われて問題になるやろ」
『ケンカ?』
アントニオ「ああ、私らヤンキーやからな」
「『ヤンキー!?』」
アイドルの私たちとヤンキーの彼女たち。
どこをどう分岐したらこうも変わるのか物凄く気になった。
「あ、そろそろマネージャーさん来る時間や
どうしましょうか?」
「私らは大丈夫や、アンタらに迷惑かけへん」
「でも、この世界のこと分かりませんよね?」
『よし、一緒に行こう』
「へ?ちょっ、美優紀?」
『もうそれしかないやんか
それとも2人だけ東京に放り出すん?私たちと同じ顔やねんで?何があるか分からんよ?』
「確かに…でもみんなに何て」
『何とかなるよ
はい、みんないこー!』
アントニオさんとこびーさんは互いの顔を見合わせてから、決意したように私の後を着いてくる。
さすがヤンキー。
肝が座っている。
『彩ちゃん置いていくで!』
まだ席に座ったまま頭を抱えている彩ちゃんを振り返り声をかける。
顔をあげた彩ちゃんは、2人と同じように腹をくくったという表情で席を立った。
こうしてアイドル2人とヤンキー2人の不思議な生活が始まった。