豚カツ定食の支払いをどうしたのかは、
全く思い出せない。
これから起こる出来事の前で それは
とてつもなく
どうでもいいことだったからだと思う。
婚豚カツを終え 息も絶え絶え
ようやく店を出た。
山本さんの愛車で帰ることを
拒否する気力は すでに
失っていた。
睡眠薬を盛られたわけでも
覚醒剤を打たれたわけでもないのに
道中は記憶にない。
疲れきっていたのだろう。
自宅前まで送ってもらい
降車の際に
送迎へのお礼を言ったら
なんと
一緒に降りてきた。
「荷物もつよ」
荷物なんてない
あえていうなら あなたがお荷物
階段を上がり
部屋の前までついてきやがった
山本さんが言った。
「付き合ってくれない?」
「そういう気持ちは×△~※」
即答したその語尾に
かぶせるように
「返事は
もちろん
すぐ
じゃなくて
いい。
よく考えてからで。」
「よく考える。」
1+1=2
2×2=4
円周率は3.141592………
よく考える
幼い頃から、大切なことのように言いきかせられてきたこの言葉の意味が、突然わからなくなった。
タイトルの「虎に翼」は、「強いものにさらに強いものが加わる」という意味だという。
これから更に法を学び弁護士資格を得ることで、寅子は闘う翼を得る、という意味だろうか。
寅子と共に法を学ぶ仲間の一人は、
法とは何か問われてこう答えた。
「法は力を持たない私達がああいったクズをぶん殴れる唯一の武器だ」と。
対して、寅子はこう言った。
「法は弱い人を守るもの。
盾とか、傘とか、あたたかい毛布とか。そういうものだと思う」
「私、盾なの。
盾みたいな弁護士になる」と。
どちらもきっと正しい。
事実として 法は
武器にもなり 盾にもなる。
だけど絶対に「被害者を更に追い詰める武器となり、加害者を必要以上に守る盾となる」ことがあってはならないと、私は思う。
では実際問題、現代社会において法は正しく機能しているだろうか。
お金がなくてコンビニでパンを万引きしたお爺さんが逮捕されて、50億円もの裏金を作った幹事長が法の裁きを受けないのはなぜか。
何十年にもわたる虐待の果てに自ら親を殺した子供が懲役20年を超える実刑判決を受けたのに対して、自分の子供に熱湯をかけたり食事を与えず放置したり床に叩きつけたりして殺した親が懲役4年や6年程度に留まるのはなぜか。
一般国民、政治家、親、子、妻、夫。
立場が変わると
なぜこんなにも
変わってしまうのか。
誰を
守りたい
んだ。
誰のための
法律なんだ。
私達は寅子のように「はて?」と思わなければいけないし、理不尽にはNOと声を上げなければいけない。
DVを受けて子供を連れて逃げた人
性的虐待から子供を守るため離婚した人
子供のお金に手を付けてまで
ギャンブルをする
配偶者を見限った人
こういった理由で離婚に至った元配偶者に、子供の教育や財産管理に意見する権利を与える必要はないと、私は思う。
結婚生活において
配偶者との
契約を破った相手に
子供の尊厳を
踏みにじった相手に
引き続き親としての権利を与えるとは。
子をかすがいとして
離婚後の夫婦を
縛り付ける正当性とは。
私達一人一人の中にも虎がいる。
気付いて、勇気の翼を授けるのだ。
臆せず立ち向かえ。
そして今まさに翼を焼かれて苦しんでいる弱者の盾となれ。
100年先にまで
こんな理不尽を残してはいけない。
今度は私達がその矢面に立つ番だ。
虎に翼を、弱者に盾を。