猿人類の赤ん坊は泣かない。

母親の腕の中で過ごすから、泣く必要がないのだ。


ところが、人間の赤ん坊はけたたましい声で泣く。



泣くのは、不具合や不満を知らせる自己主張である。


しかし、泣き声は肉食動物の注意を引く。


赤ん坊を泣かせるには、安全に守る体制ができていなければならなかっただろう。


それが、父親という存在を拡大した理由だと私は思う。


人間以外の霊長類のオスたちには、赤ん坊が脅威にさらされると、危険を顧みずに立ち向かう習性がある。


人類の祖先の屈強な男たちは、共同保育の担い手として育児に参加しつつ、肉食獣に対する防衛力を強めるために共同で立ち向かう社会体制を整えたはずである。


その結果、できあがったのが

複数の家族を含む


共同体という人類社会の原型だった。



 

先週は、離婚調停で勝訴した女性(夫から控訴され事実上離婚は成立していない)が、母から譲り受けた着物を返して欲しいという別の訴えを起こす話に焦点が当たった。 


たまたまその裁判を傍聴した寅子が、現行法で「夫は妻の財産を管理する」ことになっている事実に疑問を呈しつつ、どんな判決が出るか学生間で話し合い、最後には女学生達で法廷に行き判決を見守るというもの。 


 六法全書に書かれた法律を文字通り適用するならば、妻側に勝ち目はない。 


まだ正式に離婚が成立していない以上、夫が妻の財産を管理するという法に縛られ、着物が返却されることはないというのだ。 


果たして、裁判長はどのような判決を下すのか。 


実はこの事案、昭和10年に実際にあった裁判を元にしたのだそうだ。 


ドラマでも実際の裁判でも、「あからさまに相手への嫌がらせ目的で着物を返却しないというのは“権利の濫用”にあたる」として、裁判長は着物を返却するべしと判決を下した。


激しい怒り、深い悲しみ、苦しみ、諦め。過去から現在に至るまで、あらゆる局面で女性達はそれらを我慢してきたと思う。


それは法において弱者であったという事実もあるし、脈々と受け継がれてきた暗黙の「男尊女卑」や「家父長制」がそうさせてきた側面もあるだろう。



タイトルの「虎に翼」は、「強いものにさらに強いものが加わる」という意味だという。


これから更に法を学び弁護士資格を得ることで、寅子は闘う翼を得る、という意味だろうか。


寅子と共に法を学ぶ仲間の一人は、

法とは何か問われてこう答えた。 


「法は力を持たない私達がああいったクズをぶん殴れる唯一の武器だ」と。 


対して、寅子はこう言った。


 「法は弱い人を守るもの。

盾とか、傘とか、あたたかい毛布とか。そういうものだと思う」


「私、盾なの。

盾みたいな弁護士になる」と。



どちらもきっと正しい。


事実として 法は

武器にもなり 盾にもなる。 


だけど絶対に「被害者を更に追い詰める武器となり、加害者を必要以上に守る盾となる」ことがあってはならないと、私は思う。



 

では実際問題、現代社会において法は正しく機能しているだろうか。 


お金がなくてコンビニでパンを万引きしたお爺さんが逮捕されて、50億円もの裏金を作った幹事長が法の裁きを受けないのはなぜか。


何十年にもわたる虐待の果てに自ら親を殺した子供が懲役20年を超える実刑判決を受けたのに対して、自分の子供に熱湯をかけたり食事を与えず放置したり床に叩きつけたりして殺した親が懲役4年や6年程度に留まるのはなぜか。


 一般国民、政治家、親、子、妻、夫。



立場が変わると

なぜこんなにも

変わってしまうのか。 



誰を守りたいんだ。

誰のための法律なんだ。


 私達は寅子のように「はて?」と思わなければいけないし、理不尽にはNOと声を上げなければいけない。




 DVを受けて子供を連れて逃げた人、性的虐待から子供を守るため離婚した人、子供のお金に手を付けてまでギャンブルをする配偶者を見限った人。 


こういった理由で離婚に至った元配偶者に、子供の教育や財産管理に意見する権利を与える必要はないと、私は思う。



契約は破棄できるものであり、

破棄できない契約など

認めてはいけない。


結婚生活において

配偶者との契約を破った相手に、

子供の尊厳を踏みにじった相手に、

引き続き親としての権利を与えるとは。



子をかすがいとして

離婚後の夫婦を

縛り付ける正当性とは。


私達一人一人の中にも虎がいる。

気付いて、勇気の翼を授けるのだ。


臆せず立ち向かえ。 


そして今まさに翼を焼かれて苦しんでいる弱者の盾となれ。


100年先にまで

こんな理不尽を残してはいけない。 


寅子のようなかつての女性達が、

私達女性の人生を変えようと

努力してくれたから、今がある。


今度は私達がその矢面に立つ番だ。



 虎に翼を、弱者に盾を