裏窓のブログ

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ー 銃が火を吹いた、男は身をこわばらせ、あえいだ、血をしたたらせた男はよろめきながら自動車の修理工場へ入った、彼はオイルでてかてか光ったセメントの床をやっとのことで横切った ー


好きなだけTVが見たい! 邪悪な大人を消してしまえ!

5人の子供たちが犯した恐るべき殺人、犯行を隠すため幼い知力を振り絞って小さな殺人者たちは立ち上がる


さて、今回は映画ではなくミステリー小説、角川文庫から1978年に発行されたサスペンスミステリー


    (子供たちの時間)


著者はレアド・ケイニーグ、ピーター・L・ディクスンの2人による共作


ホラーと言うよりはチャイルドサスペンスというべきか? 昔から子供がメインとなり犯罪を犯す作品は映画でも多々あるが、映像作品ては(チルドレン・オブ・ザ・コーン、1984)(ザ・チャイルド、1976)(死霊懐胎、1980)(悪を呼ぶ少年、1972)のようなオカルトが絡んだサイコホラーや(マイキー、1992)(エスター、2009)に見られるバイオレンス系など、(子供たちの時間)はそれらとは少しタイプが違う、マーロン・ブランド、ステファニー・ビーチャム主演の(妖精たちの森、1971)や(悪い種子、1957)のような作品に近いかも知れない


物語は太陽の明るく輝くカリフォルニア、マリブ海岸のビーチハウスで起きる、時は8月の最後の週、映画俳優、金持ち、美人たちは日光浴に余念がない

グラスの中の氷が鳴る、白い砂浜には青い太平洋の波がものうく打ち寄せる

誰もが束の間の幸福感にひたっている ……


ところで、この物語の主人公となるモス家の5人の子供たち(キャシー、カリー、シーン、パトリック、マーティ)はどうしているのか?

子供たちのビーチハウスには1日中カーテンが重く垂れ下がったまま、部屋の中は暗い、5歳から9歳までの5人はは朝から晩までテレビを見続け、そのうちテレビの前で眠ってしまう ……


ー 馬がひずめの音を響かせながら砂浜を疾走している ー


彼らの両親マーティーとポーラのモス夫妻は映画プロデューサーと女優、2人はいま新しい映画の仕上げのためローマに出かけていて留守、子供たちの世話をするのは英語を二十語も話せない女中グラジーラ・モントーヤ、夏のはじめ彼女がボール紙製のスーツケースを持ってやって来た二週間目から子供たちは彼女のことを(アボカド)と呼んでいた、子供たちの母親がそのメキシコ人の娘をマリブのスーパーマーケットへひとりで買い物へやらせた日、彼女はアボカドを二ダースも買ってきた、その日から彼女はモス家の子供たちの(アボカド)になっていた


そして今、このメキシコ娘(アボカド)は子供たちの世話をしていないのか?

夫妻からあれほど注意されていたのに彼女は一体何をしているのか?


ー 一組の男女が壊れたトースターを奪い合っている ー


実を言えば彼女は三日前まで、つまり彼女の死体が青く美しい太平洋の波間に発見されるまでは夫妻から言いつけられたとおり子供たちの面倒をみていた ……


何かが起きたのだ ……


ー 地球人のロケット船が暗黒の宇宙に向けて発射、科学発見の新たな旅に出た、その夜、地球人は二十世紀シカゴの暗黒街をまねた文明を持つ或る惑星を発見した ー


何が起きたのか? そしてモス家の5人の子供たちが何が起きたのかを目撃していた、彼らだけが何が起きたかを知っていた、しかも彼らだけの理由からそのことを誰にも言おうとしない!


来る日も来る日も子供たちはテレビの前にかがみ込み自分たちの密かな恐怖に打ちふるえながら、しかし、あらゆる手段を用いて外部からの侵入をふせぐ、食べ物がなくなると彼らは近くのスーパーマーケットに出かけ両親のツケで食料を買い込む、そうやって彼らはどうにか生き延びる


ー 鋭い剣が彼女のほうに向かってきた、彼女自身はなにも感じなかったが、彼女の熱い血は指先まで流れていた ー


ー ひとりの女の子が悲鳴を上げながらナイフを手に笑みを浮かべた男からよろよろと後ずさりした ー


いったい、この5人のアメリカの子供たちの上に何が起きたのか? 彼らは何をしたのか? 美しいマリブ海岸における一夏の出来事は子供たちが熱中した砂の城のように彼らの心からあとかたもなく消え失せていくのだろうか? ……


太陽の最後の光線が波に洗われる砂浜に赤く照り映え、カモメが海に向かってじっと立っていた

若いカップルが水しぶきを上げながら波から上がり隣家の庭に駆けていく


もう一方の隣家、A字型のガラス窓が夕陽に輝いている、木のデッキから音楽が砂浜に流れ出している、派手な服装をした男女がニグロの女中から飲み物を受けとっている

皆おしゃべりをしたり飲んだりしながら夕陽の赤い光を浴びている


この作品は、太陽と砂と波を背景に繰り広げられるドラマの中に、あくまでも子供たちからの視点で物語が進行していくところが特徴だ、ところどころに盛り込まれているテレビ番組からのワンシーン(アクション、SF、ウェスタン、ホラーなど)に描写されるように、そこには大人の計り知ることができない子供たちの秘密の領域、恐ろしいメルヘンの世界を垣間見ることができる。


この長編ミステリーは高校生の時に読んだもので、途中で止められず一気に最後まで読みきった、ホラー映画とは一味違う良い作品だ!