雑誌の撮影が終わり、一人家に帰る。





"ただいま。"





当然返事が返ってくるわけもなく、私の声は行く当てもなく静けさに飲み込まれて消えた。





もしかしたら…。





そんな淡い期待を持ち、カバンにしまい込んだガトーショコラの入った薄紫色の箱。





結局カバンから出されることはなく、今はソファの前のテーブルの上に無造作に置かれている。





彼からの連絡は、ない。





"ゴメン、明日仕事で地方だった。"





昨日の彼からのラインに既読を付けたまま、返信さえしていない。





お昼頃彼からの着信が入っていたことに気付いたのも、撮影が終わった夕方で。





掛け直すことさえ億劫に思え、スマホごとカバンの奥底にしまい込んだままだ。





こんなにも寂しい思いをするのなら。





こんなにも切ない思いをするのなら。





こんなにも悲しい思いをするのなら。




いっそ、君のことなんて好きじゃなくなってしまえば良い。





そう思っているのに。





そう頭では分かっているのに。





そう出来ないのは、いつだって彼の魔法を期待してしまうから。










"…みさっ‼︎"





慌てたように玄関の鍵を開け、ドタバタと廊下を走り、ガチャっと勢いよくリビングのドアを開けて飛び込んでくる、私の大好きな人。





優しい声。





甘い彼の匂い。





あぁ、やっぱり君は魔法使いだね。





"返事もないし、電話も出ないし、何かあったんじゃないかって不安で不安で。

でも良かった。

みさ、ちゃんといた…。"





本当に心配してくれていたのだと、彼の乱れた髪が、息が、そして不安げに揺れる瞳が物語っている。





だから、嫌いになんてなれるわけない。





もっと好きが増えてしまう。





それも、全部全部、君の魔法なの?





"…許さない。"





精一杯の強がりの言葉。





このまま今日は会えないのだと、本気で思いかけていたから。





そう簡単に、君の魔法にかかりっぱなしなのは癪だ。





次の瞬間、ふわっと全身が彼の温もりと匂いでいっぱいになった。





"みさ、ホントゴメン。

こんな大切な日に一人にして…。

でも俺、みさしかいないから。

みさがいないと、生きていけないから。

だから…好きだよ、みさ。

愛してる。"










やっぱり君はずるい。





君の魔法は、解けることを知らない強力な魔法だ。





だから、私はかかったまま。





でも、もうそれで良いんだ。





"…私だって、隆弘しかいないもん。

隆弘のこと、好きすぎて辛いもん。

だから、お願いだから側にいて。

私のこと、嫌いにならないで。

…好き、愛してる。"





魔法にかかると、こうも人は素直になれるものなんだろうか。





今日は、素直に君に気持ちを伝えられた。





そんなことを考えていたら、君の甘くて柔らかい唇が私の唇を塞いでいた。





"バカ、俺のが好きすぎて辛いわ。"





そう、低い声で囁き、深い深いキスで私をトロトロに溶かしていく。





あっ、そういえばガトーショコラ、まだ渡していなかった。





そんなことが頭をかすめたが、もう遅くて。





君の首に両腕をまわし、君との愛に溺れていく。





そんなバレンタインデーも、悪くないかな。

{B2D27B0A-25C7-4831-8AD3-E705E70D1FF1}


バレンタイン、たかうの編でした♡


…バレンタイン過ぎすぎてるのにすみません(´ー`)笑


みつみさを書いたら、やっぱりたかうのも書いてみようかなぁという欲が…(笑)


本当は、あたうのやしゅうみさ、うらうのも書いてみたいですけど、それはまたの機会に‼︎


いつも、いいねやコメント下さる皆さん、本当に本当にありがとうございます(*´꒳`*)


いつも、嬉しくて元気をもらっています♡


コメントのお返事返せていないこと、大変申し訳ないです。゚(゚´ω`゚)゚。


これからも、こんなすずらんですがどうぞよろしくお願いします(*^▽^*)ノ