画面越しの君の笑顔。
綺麗なフラガール達に囲まれて、なんだか嬉しそうな表情に腹さえ立ってくる。
今日は、世に言うバレンタインデー。
愛を伝え、愛を分かち合い、愛を受け止める日。
そんな一大イベントを彩るように、街中は甘い香りと色とりどりのチョコレートで溢れかえっている。
なのに、私の気分はこれっぽっちも晴れてはくれない。
毎年恒例となっている、メンバーへのプレゼント。
今年はチョコブラウニーにしてみた。
甘さと香ばしさの絶妙なバランスが、みんなの日頃の疲れを少しでもとってくれると良いなぁ、なんて考えながら。
そして、問題はここから。
本命へのガトーショコラを作るつもりでいたのに、当の本人が仕事で会えずじまいになりそうだと連絡してきたのだ。
ただでさえ、その整いすぎた顔立ち、女心を嫌という程にくすぐる微笑み、誰に対しても忘れない優しさに惹かれ、心奪われる女性は数知れず。
毎年、山程のチョコレートが届くことだって、公然の事実で。
彼女というポジションにいても、弱気な私にはどれも辛い現実ばかりでしかない。
さすがに、これくらいのことで別れを口にするほどの勢いは、とうの昔に置いてきた。
というよりも、君と付き合い出してからはそんなことは日常茶飯事で。
感覚が、完全に麻痺しただけなのかもしれないけれど。
彼の口から発せられる私への熱い言葉と、プライベートで見せる甘い態度だけが、唯一恋人であることを証明してくれている。
30歳という節目を迎え、いい加減こんな惨めな嫉妬心とはサヨナラしようと決意したはずなのに。
彼はいとも簡単に、私の決意を揺らがせてしまう。
"はぁ…"
何度目か分からないため息をつきながら、それでもガトーショコラを作り始める。
私は、完全に彼の虜でしかないんだろう。