そう思った私が甘かったのは、言うまでもなく。
収録のリハーサル。
早々と到着した控え室には、先客がいた。
そう、彼が。
遅刻常習犯の彼がいるなんて、今日は大雨かもしれないと他のメンバーだったら言うだろう。
けれど、これは彼がほぼ寝もせずに音楽と向き合っている証拠。
ほら、私が入ってきたことに気付いてもいない。
背中を向けた彼は、イヤホンを付け、低い少し掠れた声でメロディーを口ずさんでは、スラスラと譜面に音符を書き込んでいく。
たくましい背中。
筋肉質な腕。
手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのに、君に伸ばそうとする私の手は届かない。
彼の仕事の邪魔をしたいわけじゃないのに。
私がいることに気付いてほしくて、もどかしくてたまらない。
そっと吐き出した私の小さなため息は、静かに部屋の中に消えていった。
ラッピングした箱を彼の後ろのテーブルに置き、部屋をあとにしようとドアに手を掛けた。
次の瞬間、大きな手で腕をつかまれていた。
気付いた時には、私は彼の腕の中で。
「おい、声くらいかけろよ。」
彼の呆れたような声が、耳元で囁かれる。
彼の両腕は、まるで離すまいとするかのように、強く強く私を抱きしめていて。
「…これ、バレンタインだよな?
ありがとう。
まじ嬉しすぎて、気持ち抑えられないんだけど。」
そう言って彼は腕を離し、私の顎をくいっと上にあげると深い深いキスを落としてきた。
吸い付くような、貪るような激しいキスに、私の心はまるでチョコレートのようにトロトロに溶かされる。
バチっと視線が絡み合った瞬間、彼は思い立ったように唇を離した。
「これ、今食べても良い?」
彼の甘いキスに溶かされた私は、放心状態気味に頷いた。
彼は丁寧にリボンを解いて箱を開け、中のガトーショコラを一口食べる。
「…うまっ‼︎
これ、手作りだよな。
さすが宇野だわ。」
そう言って、大きな目を細めて私に微笑んでくれた。
その笑顔に見惚れていると、突然また唇を奪われた。
甘いチョコレートが彼から口移しされて、私の口の中に広がる。
「な、美味いだろ?」
今度は悪戯な笑みを浮かべて私を見る彼。
「…好きだよ。
日高君のこと、好きだよ。」
自然と言葉が口をつく。
彼が、ニヤリと笑った。
「んなの知ってるわ。
ってか、俺も宇野のこと好きだし。
まぁ、そんなわけで、俺ら両想いだな。」
こんな緊張することをさらりと言いのけてしまう彼には、やっぱり敵わないと思う。
もう一度キスを交わし、私達は暗黙の了解で恋人同士となった。
彼の隣に座って、片方のイヤホンを付ける。
時々彼の綺麗な顎のラインや、端正な顔を盗み見る。
些細なことの一つ一つが、愛おしくて仕方がない。
バレンタイン。
愛の魔法を、あなたにも…♡
1日遅れでスミマセン(◞‸◟)
バレンタインデーなんて関係なくお仕事でした(笑)
みつみさでのshort story、いかがでしたでしょうか⁇
もっと他のペアでも書いてみたいなぁなんて気もしているので、思い立ったらまた書くかもです(笑)