部屋中に充満する、甘い香り。





一年の中で、一番愛が溢れる日。





色とりどりの宝石のようなチョコレートが、お店には所狭しと並べられている。





そんなキラキラと輝く街中をするりと通り抜け、足早に自宅に帰ってきた。





買っておいた材料を取り出す。





鼻歌を歌いながら、お菓子作り開始。





忙しい日々の中でも、どうしても手作りにこだわりたくなる日。





それが、バレンタインデー。





愛しい人を思い浮かべながら作るお菓子は、とびきりの優しい甘さを引き出すことが出来る。





まるで、愛の魔法のように。





甘い香りを吸い込みながら、完成したガトーショコラを見つめる。





…我ながら、上手くできた(笑)





シンプルな薄紫色の箱に入れ、細いリボンでラッピングする。





よし、完成。





こんなに気合いを入れて作ったけれど。





実は、明日渡したい相手に渡せる保証なんてこれっぽっちもない。





彼は、根っからの仕事人間。





誰よりも音楽を愛し、誰よりも音楽をリスペクトしている。





聞いてくれるファンを心から大切にし、常に完璧という名の限界に挑み続ける人。





そんな彼に惚れたのは、他でもない私自身なのだけれど。




珍しく彼がTwitterで、さりげなくバレンタインについて触れていた。





…ちょっとは期待出来るかもしれない。