西島side


あの日を境に、実彩子と俺との間には埋められない距離が出来てしまった。

すぐに謝って解決出来ると思っていたが、忙しさはそんな僅かな時間すらも俺に与えてはくれない。

電話やメールでとも考えたが、それは彼女に失礼だとすぐに思い直した。


『仕事に決して私情を持ち込まない』

それは、俺と実彩子が絶対に守ると決めた2人だけのルール。

AAAのグループ活動中も、彼女は決して俺とのわだかまりを悟らせるような表情や態度は見せなかった。

ただ、一つだけいつもと違うこと。

それは、彼女が俺の隣にいない。

いつもなら、撮影の合間の僅かな時間でも必ず俺の隣に来て静かに寄り添っていてくれる。

しかし、俺の隣は空いたままだった。



愛してるのに、愛せない



撮影カメラ越しの、彼女の柔らかな笑顔。

あの日以来、言葉を交わしていてもどこかフィルター越しに俺を見つめているかのような、彼女の綺麗な澄んだ瞳。

自分に向けられない視線が、愛しい笑顔が、今の自分にはなおさらに眩しすぎて、苛立ちだけが募っていった。

今すぐにでも抱きしめたいのに、2人の間に出来てしまった距離が邪魔して抱けずにいる情けない俺。


仕事終わり。

「宇野ちゃん…」

意を決して実彩子に声を掛けようと口を開いた瞬間、

「西島さん、新曲の件で少し良いですか?」

スタッフの一言で、一瞬俺の方を見た彼女だったが、さっさと他のメンバーの元へ行ってしまった。

彼女に伸ばしかけた俺の手は行き場失くし、2人で積み重ねてきた大切なものがハラハラと零れ落ちていくようにさえ見えた。