仕事中に後輩の女子社員に話しかけられた。
「安保法案、可決されたみたいですよ」
私が「安保法案って何?」と訊ねると、彼女は絶句した後、「知らないんですか?」と驚いた顔をした。「テレビで散々やってるじゃないですか」
私は、俺ってテレビ観ないから、と言おうかと思ったけれど、そういうレベルの話ではないのかな、と思って黙っていた。
学生の時にも、同じようなことがあった。
私は二十一歳で、文学部に所属していた。同じゼミの女の子と二人で学食で話していた時のこと。衆議院と参議院の違いとか、与党と野党の違いとか、よく覚えていないけれど、確かそんなような話題を振られたんだったと思う。
私が「分からない」と言うと、彼女は笑って「中学生でも分かるよ」と言った。「もっと世の中のことに興味を持ったほうがいいよ。興味って言うか、常識だよ」と。
私はその女の子に好意を抱いていた。二人で話しながら、私は彼女の表情が変わるのを楽しく見ていた。目の前にいる女の子が私だけのために微笑んでくれたら素敵なのに、と思った。
その彼女とは、しばらくして付き合うことになったけれど、大学を卒業する前に別れてしまった。結局、世の中のことを何も知らない奴と付き合っていてもつまらなかったのかもしれない。

そんなことを思い出してみたりして。