序章 二幕 ~山道~
「一体、いつまで続くのかね、この山道は。」
次の日、俺はある山の中を歩いていた。
手紙の内容は、やはり俺への依頼だった。今、その依頼人の下へ向かっている最中という訳だ。
「わざわざこんな辺鄙(へんぴ)な場所に住むとは、金持ちの考える事は分からんね。」
もうかれこれ二時間は歩き続けている。ちゃんと道は手入れされている様で歩き易いが、如何せん遠過ぎる。周りの木々の高さから、正直自分の今居る場所さえよく分からない。
「迎えの車でも寄こしてくれても良いんじゃないのか?登山は嫌いじゃないが、限度がある。」
この様に、俺は独りぶつくさ言いながら歩いている。疲れている時は独り言というのは増えるものだ。
「お、やっと着いたか?」
目の前の道が少し拓けてきた。と思ったら、一本の吊り橋が架かっていた。
下はどれくらいの高さだろうか。落ちたら命が無いのは間違い無いだろう。
「ははは、冗談キツいぞ。」
向こう側を見ると、奥に建物が見える。これを渡ればやっと目的地へ辿り着くみたいだが・・・。
俺は吊り橋の強度を確かめる為、少し引っ張ってみる。吊り橋は大きく揺れたが、どうやら強度は充分の様だ。
「渡るしかない、か。」
ここまで来たのだ、行くしかないだろう。俺は意を決して、吊り橋に脚を掛ける。
その時、背後から車の音がする。振り向くと、白い軽自動車が一台、こちらに向かって来た。車は俺の少し手前で止まった。
「如月じゃない!?」
車の中から女性の声がする。この声は・・・。
声の主が車から出て来る。
「あんた、こんな所で何してんの?」
「やあ夕実(ゆみ)ちゃん、久しぶり。」
俺は明るく挨拶をした。しかし彼女は不機嫌そうな顔をする。
「何であんたって、呼んでもないのに現れるのよ。」
彼女は、俺に出くわした事に明らかに嫌がる素振りを見せる。
「まぁまぁ、これも運命ってやつさ。」
「勘弁して欲しいわ。」
彼女はあからさまに溜め息を吐く。俺に会うのがそんなに嫌かね。少し傷付くぞ。
彼女は眞鍋 夕実。女性ながら警部まで叩き上げで昇っている、やり手の警官だ。
前に俺が巻き込まれた殺人事件で一緒になり、以降何かと顔を合わす事がある。
「あんたに出会ったら、大抵ろくな事にならないんだから。」
「人を疫病神みたいに言わないでくれ。」
「似た様なものでしょ。」
とまぁ、顔を合わす度に悪態を吐かれている俺。嫌われてるのか?と本気で心配になる時もあるが、何だかんだこうして接してくれているところを見ると大丈夫だろう、と信じたい。
「で、何であんたがここに居る訳?」
「この先に住む人物に、依頼を頼まれたのさ。」
俺は依頼の手紙を眞鍋警部に渡す。彼女は手紙を受け取り、繁々と内容を確認する。
「・・・如月。あんた、あの館に住むのが誰だか分かってる?」
「噂くらいは、ね。」
この先にある建物は、上之条 相馬(そうま)という若い資産家の住まいだ。金持ちを象徴するかの様な大きな洋館で、その中には西洋の様々な人形で溢れかえっているらしい。その事から、上之条 相馬は『人形館の主』と呼ばれている。
「かなりの変わり者らしいが、別にそれで悪人という訳ではないだろう。」
「だと良いけどね。」
眞鍋警部は俺の言葉には賛同していない様子だ。
「彼が何か事件でも?」
「それを今から調べに行くのよ。」
なるほど。どうやら眞鍋警部が抱えている事件に、俺の依頼人が関わっているかもしれないらしい。
「詳しく教えてくれないの?」
「あんたの立ち位置次第よ。言っとくけど、邪魔するならあんたでも容赦しないから。」
この辺りの慎重さは、流石というべきか。しかし「あんたでも」って事は、俺の事をある程度は親しく思ってくれているって事かな。嬉しいね。
「大丈夫、例え仕事でも夕実ちゃんの敵になったりはしないよ。」
「どうだか。」
いつも通り素っ気無く返事をする眞鍋警部だが、俺には少し安心した様に見えた。
「さて、とりあえず目的地が同じみたいだが・・・向こう側に行くには、これを渡らなきゃいけないみたいだよ。」
「これ?・・・げっ。」
眞鍋警部は俺の言葉で、ようやく吊り橋の存在に気が付いたらしい。唖然としている。
「何これ。本気?」
「らしいよ。夕実ちゃん、高い所平気?」
ちらりと眞鍋警部の顔を見ると、真っ青になっていた。どうやら平気ではない様だ。
「仕方ない。俺が手を取っててあげるから、一緒に渡ろうか。」
「じょ、冗談じゃないわよ!何であんたなんかと手を繋がなきゃいけない訳!?」
いつもと立場が逆転しているのか、今俺の方が優勢じゃない?少し意地悪をしてみたくなってきた。
「嫌なら良いけど、一人で渡れるのかい?」
にやにやしたい状況を押し堪え、俺は吊り橋に近付く。
眞鍋警部は少し考えた末、手を伸ばしてきた。
「さっさと渡るわよ。」
俺と眞鍋警部は手を繋いだまま、吊り橋を渡り出す。
吊り橋は少し揺れるが、二人分の体重でも充分持ち堪えていた。
「ゆ、揺れる!揺れてる!」
普段は見られない眞鍋警部の慌てよう。う~ん、貴重だな。
「夕実ちゃん、下は見ない方が良いよ。」
「揺れる!落ちる!」
「大丈夫だから・・・いててっ!」
眞鍋警部の手を握る力が強くなってきた。
「夕実ちゃん、力強―――」
まるで万力で挟まれているかの様だ。不味い、俺の手が潰れる。
「落ちる!落ちる!」
「夕実ちゃん、落ち着、いてーっ!」
俺の絶叫と眞鍋警部の悲鳴が辺りに木霊する。
こんな時間におはようございます。
今日も元気・・・ではなく、病み上がりな、どうも僕です。
そうなのです。夏風邪をひいておりました。
「夏風邪は馬鹿しかひかない」と言いますが、僕だから仕方ないのでしょう(;^_^A
更新が遅れているのは別の理由ですが。
次回公演の本稽古が始まりました。
変更があるかもしれませんが、僕の役も決まりましたよ。
なので、これから台詞覚えもあり、美術面の試行錯誤もあり。
他にもやる事てんこ盛りで、果たしてこの小説はちゃんと続くのかという懸念はありますが・・・当初の宣言通り、なるべく頑張っていきます![]()
ただ、遅れがちになるのはご勘弁を(>_<)
とりあえず、早く体調を万全にしなければ。
皆さんも、まだまだ油断なさらずに(´д`lll)
簡潔ですが、今回はこの辺で。
次回公演の情報も、近々お報せしたいと思います。
ではでは、また。