最後の出会い   9月13日(水) | モラトリアムな日々

モラトリアムな日々

隙あらば壁に張りつき、酒あらば飲んでしまう。そんな日常です。

旅の最後の日は6時半に目を覚ました。

今日は11時30分の白鳥20号に乗って、僕は東京へ帰る。

下に降りると、また熊さんがコーヒーをくれた。僕はコンビニで買っ

てきたクイニーアマンをコーヒーと一緒に頂いた。


最初は怪しいだけだと思っていた熊さんだが、僕とはいろいろ話をし

てくれ、アイヌの料理など興味深い話もあった。(もっともこの人の

場合、見ているだけでも好奇心を満たしてくれるのだが)。

荷物を詰めるダンボールをどこかから拾ってきてくれたり、コーヒー

をくれたり、おんぼろ自転車を貸してくれたり。部屋もキチンとしたも

のだったし何ひとつ不満を感じる事はなかった。


最初に疑いすぎてごめんよ・・・・・・・。


感謝の気持ちも込めて、僕は彼が熱心に作り続けているアクセサリ

ーを一つ買うことにした。僕が選んだのはセイウチの牙と数珠玉で

作った腕輪。熊さんにはお目が高いと誉められた。

セイウチの牙は今はワシントン条約で禁止されていて、とても希少

価値のある物なのだと言う。お値段2000円。サービスしてくれたら

しい。ホンマかいな?(笑)


熊さんに挨拶すると僕は朝市に出かけ、お土産を買った。

イカ、カキ、瓶詰めいくら、瓶詰めウニ、ホッケ開き、イカめし、松前

漬け、とうもろこし、ジャガイモ、玉ねぎ、かぼちゃ。

これらを10時頃までかけてゆっくり選び、魚屋さんに交渉して全て

送ってもらえるようにした。


残り僅かな時間、のんのんのベンチで過ごすことにした。


せっかく戻ったのんのんに、熊さんの姿はなかった。まああの人の

ことだから何があっても不思議ではない。

僕はベンチに座り、道行く人をぼんやり眺めていた。

怪しい店のベンチに座っているこの僕に、好奇の眼差しを向ける

人達。僕はニッコリと笑い返す。そう、僕は「こっち」側の人間なの

だ(笑)


店の前で、ふと立ち止まりアクセサリーを眺めている女の子がいた。

何だ肝心な時にいない熊さんの代わりに僕は


「お一ついかがですか?」


と声を掛け、知っている限りの事を喋ってあげた。


これは熊の爪で・・・・


セイウチの牙はワシントン条約で・・・・・


今の僕の風貌ならこの店の人間と疑うまい。どうやら脈ありなので、

僕は店の中に入り熊さんを探した。なんと彼は小さな部屋でお腹を

出して寝ていた。




おいっっ!!




売る気ないんかい!!っていうか盗まれたらどないすんねん!!

僕は好奇心を通り越して熊さんが少し心配になった。

結局女の子は悩みつつ1000円のブレスレットを買った。熊さんは

僕に売り子のセンスがあるといい、弟子入りも認めると言ってくれた。

僕はそんな事より「のんのん」に1000円の現金収入があったこと

が嬉しかった(おまえはのんのんのなんなんだ)。


俺はのんのんのなんなんだ!!


すみません、響きが良かったからつい・・・・・・。

アクセサリーを買ってくれた女の子はこれからお昼を食べに行く

と言う。それを聞いて熊さん、僕に目配せをした。


よ、よしっ。


「あの、お昼、た、食べに行きませんか?ラッキーピエロ」


すると女の子が何と言ったかは忘れてしまったが、僕はその子

とお昼を食べに行く事になった。その子は函館にいる友達の家

を頼りにして、一人旅をしているのだと言う。

ラッキーピエロに行くはずあったが場所が分からないので(情け

ない)、朝市のスープカレー屋に入ることにした。

女の子は、僕の自転車旅の話を面白そうに聞いてくれた。僕は

僕で地図まで広げさらには携帯の写真を見せ朗々と旅について

語った。女の子は海をバックにした写真を見て


「この自転車は~~君の分身なんやね」


と言った。僕はその一言でハッとした。

あの自転車は相棒を通り越して僕の分身になっていたのかもし

ない・・・・・。パンクした時も、函館に置いて帰るのかと思った

ときも、締め付けられるように心が痛んだのだ・・・・・。


ようやく到着したスープカレーは別にどうって事ない味であった。


女の子はあさって東京に寄って、それから実家の大阪に帰ると

いう。それならば、と


「あさって、東京で会えませんか?」


と誘ってみた。何なんですかね、この積極性。

女の子も頷いてくれた。やった!連絡先を交換すると、電車出

の時間が迫っていた僕は一足先に店を出る事にした。

昨日楽しく飲ませてもらった酒屋さんに挨拶して帰りたかったが、

もう時間がない。少し駆け足で函館駅に向かう。


意外と時間ギリギリだ!


間に合わなかったら大マヌケだ!


走れメロス!!


まわりの人全てが振り返るような必死の形相で駅のホームに駆

込み、間一髪で発車に間に合った。いや、最後までドタバタし

まった。

指定された席の周りはガラガラで、ゆったり使えた。

この電車は八戸まで連れて行ってくれる。そこからは新幹線で東

京だ・・・・・・。

一息つくと、の外を早足に流れていく景色に目をやる。僕が自

転車で走っきたような道だ。さすがに電車は早いな(笑)

僕はこの10日間あまり、ゆっくり走ることでしか見えてこないもの

をたくさん見てきたんだ。ゆっくり走ることには、ゆっくり走ることの

価値がある。便利さや早さを求めるあまり、本当は見えるはずの

ものを見落としている事が多い。





いずれにしろこの旅は最高だった・・・・・・。


おまけに明後日は東京で女の子とお昼を食べに行くのだ。


大きなおまけがついたものだな・・・・・・・・。


もしかすると、この旅はまだ終っていないのかもしれない・・・・・。





僕は幸せな疲労感に包まれそんな事を考えているうちに、いつの

間にか眠りに落ちていた。



完!!