Sさんの話によれば、以前僕のような自転車旅をする大学生が、この
ユースホステルを訪れたことがあったそうだ。
しかも彼はママチャリ。おまけに相当貧乏旅行。Sさん、ママチャリで
はここから先の峠ラッシュを乗り切るのは不可能と考えたらしく、彼と
自転車を車に乗せ、50キロ先の釜石まで乗せて行ってあげたそうだ。
その時大学生が言ったセリフが
「峠いくつあったか数え切れませんね」
であったという。彼は数日後に、北海道最北端である宗谷岬に無事到
着し(立派ですね)、このユースホステルに一報入れた。そして最後に
こう言ったという
「次からは電車で旅します」
Sさんは笑い話としてこのエピソードを話してくれたが、僕にはあまり笑
えるものではなかった。なぜなら、僕が明日走るルートは、
「ママチャリで最北端に到達した豪傑が、回避したルート」
と言う事になるからだ・・・・・。Sさん、
「つらいぞ~、明日は(笑)
特に一個目と二個目の峠がつらい(笑)
釜石まで行けばなんとかなるような・・・・・
いやその後も辛いけど(笑)」
と、酒の酔いも手伝ってか(笑)を散りばめて話していたが僕は内
心不安を募らせていた。
不安が募るもう一つの理由に、この岩手のリアス式海岸を通って
北に向かったという記録を見たことが無かった事もある。多くの人
はのっぺりした日本海側を通っていくようだ。さらに僕の心の支え
である自転車漂流講座にまで、三陸のリアス式海岸を名指しでキ
ツイ地形にあげている。
午前4時、目を覚ますと少し酒が残っていた。まあ水を飲んで1時
間も走れば汗とともに抜けるだろう・・・・。
他の部屋で寝静まる人たちを起こさぬよう、静かに荷物を運び出
し暗闇の中懐中電灯を使いパッキングする。自販機でお茶を買い
一気に飲み干すと、陸前高田ユースホステルに別れをつげ、暗闇
の中を走り出した。
今日は辛い一日になるだろう・・・・・・。