本当にドラマの中の主人公のような現実は起こりえるのだろうか?
少なくとも普通の生活の中で、起こりえる確率は非常に低い。
が、俺には起こった・・・
ここまで読破した人であれば、俺が中学時代の章を思い起こしてほしい。
高校受験に挫折し、初恋の相手を幼馴染に寝取られた話・・・・
その日は10月の最終金曜日、医局最後の仕事だった。
外来終了時間ぎりぎりで、最後の患者さんを待合室まで送り出し最後の挨拶を交わして外来の後片付けに戻ろうとふと目を上げると、待合ソファーに一人のスレンダーな女性が携帯をいじって座っていた。
気に留めず、医局内に戻ると婦長から急患の依頼が入った。
手が空いているのはあいにく自分だけだと悟り、上がったばかりのカルテを手に待合に向かいながら、体が凍りついた。
そこにあった名前は・・・・愛しい初恋の名前。誕生日も一緒の同姓同名。
一瞬で顔がほてるのを必死に隠しながら、普段は使わないマイクで待合にいるであろう『彼女』の名前を呼んだ。
外来ユニットはボックスにより仕切られている。5番ユニットで近づいてくるヒールの音を高鳴る鼓動がリンクする。あえて、顔を伏せた状態で彼女をボックスに迎えいれた。
一段と低いトーンを使い『今日はどうしましたか?』と聞くのが精一杯だった。
『昨日から奥歯がズキズキしてて・・・』
聞き覚えのある懐かしい声・・・・
あふれそうな感情を押し殺して、静かにユニットを倒し意識を診療に集中することで何とかごまかすのが精一杯だった。
そんなギリギリの状況を最初に破ったのは彼女の方だった。
『なんで??どうしてここにいるの?いつドクターになってたの?日本にはいないって聞いてたのに・・・』
高校卒業以来、誰一人として連絡の取らなかった俺は住所も転々としていることもあり地元では渡米してバンド活動をしていると実しやかな噂がながれていたのである。
聞けば彼女は県内一の高校を卒業し、現役で医学部合格を果たして今は同じ大学内の付属病院に勤務しているとの事。かつてのエリートは今も健在で、かつモデルのような肢体と美しい横顔はあの頃と何一つ変わってなかった。
唯一変わったこと・・・・一人の患者とドクターという関係だった。
大学を卒業した彼女は、別れてはくっつきの繰り返しで結局は幼馴染の穣とそのまま結婚をして穣は婿として迎えいれられたらしい。1歳になる男の子もいる・・・・
ずっと長い間、頭の片隅に残っていた蟠りがすっと消えたような気がした。
『なんであの時あなたじゃなかったんだろう??なんであの時、穣だったんだろう・・・』
その彼女の一言で全てが報われたような気持ちになれた。